柿沢未途氏側、自民党区議候補に一律20万円の提供申し出…「区長選と無関係の陣中見舞い」と主張

4月の東京都江東区長選を巡る公職選挙法違反事件で、木村弥生区長(58)を支援した柿沢未途・前法務副大臣(52)側が自民党区議らに一律20万円程度の現金提供を申し出ていたことがわかった。非自民区議らには1万円程度だった。柿沢氏側は「区長選と無関係の陣中見舞いだ」と主張するが、現金提供には「保守分裂」の区長選で自民区議候補に強く支持を働きかける意図があった可能性もあり、東京地検特捜部が趣旨を調べている。(坂本早希、岡部哲也)

区長選は、前自民党衆院議員の木村氏と、同党の推薦を受けた山崎一輝・前都議(50)らによる争いとなり、木村氏が初当選を果たした。同時期に行われた区議選では同党公認の候補者14人が出馬し、13人が当選した。
関係者によると、同区を地盤とする同党衆院議員の柿沢氏の事務所では選挙前、同党の候補者に現金20万円程度を渡す方針を確認。複数の秘書が各地域に分かれ、提供を申し出た。担当地域や金額を記載した表も作成されたという。
当時、区議選候補者は木村氏支持と山崎氏支持に割れており、木村氏支持とみられる2人は各20万円を受領。うち1人は2月に柿沢氏の資金管理団体から20万円の寄付を受けたと区議選の選挙運動費用収支報告書に記載した。もう1人は読売新聞の取材に2月下旬頃に秘書から20万円を受け取ったと認め、「陣中見舞いとの説明があり、そのつもりで受け取った」と話した。
この2人以外の候補者12人のうち、6人は「現金提供や面会の申し出を受けたが、山崎氏支持だったので断った」などと取材に回答。3人は申し出を受けていないと説明し、残る3人は9日夜までに回答しなかった。
柿沢氏側は、木村氏を支持する非自民の保守系区議にも現金を提供していた。ある区議は取材に、柿沢氏から3月に「区長選では木村さんをよろしく」と依頼され、4月に区議選の陣中見舞いとして1万円を受け取ったと説明。別の区議も「頑張ってください」と言われ、現金1万円を受け取ったと明かした。

特捜部は10月24日に違法なインターネット有料広告を掲載した公選法違反容疑で木村氏側を捜索。有料広告事件の捜査と並行し、区議らに対する被買収容疑での一斉聴取に着手した。
一方、柿沢氏の事務所関係者は資金提供について「自民党の国会議員として地元の区議選候補者に陣中見舞いを贈るのは当然。区長選とは無関係で合法だ」と強調している。
政治資金規正法は選挙に関する候補者への現金提供を個人は年間150万円まで、資金管理団体は無制限に認めている。一方、公選法は票の取りまとめや選挙運動、投票の報酬としての現金提供を禁じ、提供の申し込みや約束だけでも買収罪が成立する可能性がある。現金提供の趣旨が「区議選の応援」だけでなく、「木村氏を当選させるための報酬」も含まれていれば買収罪に問われる余地がある。
過去にも「陣中見舞い」が買収資金と認定されたケースはある。2019年参院選の大規模買収事件では、河井克行・元法相(60)(実刑確定)から現金を受け取ったとして被買収罪に問われた広島市議らが「市議選の陣中見舞いだ」と無罪を主張したが、広島地裁は、自民候補2人が出馬して激戦となった選挙情勢、受領額、授受の状況などを踏まえ「買収資金の趣旨も含まれていた」として有罪とした。

当選と地盤強化、利害一致か

4月16日告示、同23日投票の江東区長選は当初、5選を目指す山崎孝明・前区長に、同区を地盤とした元自民党衆院議員を父に持つ木村氏が挑む構図だった。だが前区長は3月に体調不良で引退を表明し、代わりに長男の一輝氏が出馬。告示直前に死去した前区長の「弔い合戦」の様相も帯びた激戦で、木村氏は約1万4000票差をつけて一輝氏を退けた。
関係者によると、木村氏は柿沢氏に擁立される形で、1月に出馬を表明。木村氏は2014年から衆院議員を2期務めたが、いずれも比例選出で同区での知名度が高くなかったこともあり、柿沢氏の秘書らが陣営に入って選挙戦を支えた。柿沢氏本人は表立った行動は控えつつ、木村氏支援を主導。有料広告についても、木村氏は特捜部に「柿沢氏から動画投稿サイトへの広告掲載を勧められた」と説明しているという。
木村氏を擁立・支援した柿沢氏の意図について、柿沢氏の支援者の一人は、「木村氏の当選が自身の地盤強化にもつながる面があり、利害関係が一致した結果だ」との見方を示す。