「風穴開ける」行政処分取り消し 赤信号バイクと衝突、無罪確定

「免許が元に戻ってうれしい。チャレンジして(無罪を訴えて)良かった」。福岡県古賀市の国道交差点を車で右折中に対向車線を赤信号で直進してきたバイクとぶつかった事故で、自動車運転処罰法違反(過失致傷)などについて無罪が確定した車の運転者の男性(53)=古賀市=に対し、県公安委員会は事故による違反点数を取り消す異例の対応を取った。ナイジェリア国籍の男性は喜びを語った。
男性は事故で違反点数8点となり、30日間の運転免許停止処分を受けた。処分が解けた後、更新時に取得した免許証は有効期限が「3年」だったが、違反が取り消されたことで今回、有効期限を「5年」とした新たな免許証を13日、県警粕屋署で交付された。
交通事故を巡る刑事裁判で無罪となった場合、受けた行政処分はどうなるのか――。福岡市早良区で2017年に起きた事故では、自動車運転処罰法違反に問われた福岡市の会社員女性(45)に対し、無罪が確定した後も県公安委は運転免許の取り消し処分を撤回せず訴訟に。1審に続き、「処分は無効」とした2審判決が10月に確定し、県公安委はようやく約6年前の処分を取り消した。
ナイジェリア国籍の男性の弁護人は今回の県公安委の対応に「会社員女性の事例が影響した可能性がある。違反点数が取り消されなければ訴訟を検討していたが、免許が元に戻ったのでよかった」と話した。
交通問題に詳しい高山俊吉弁護士(東京弁護士会)は「無罪判決が確定しても刑事処分と行政処分は別物として違反を取り消さないのが一般的だが、そうした姿勢に風穴を開ける判断だ。貴重な事例だ」と指摘した。
判決によると、男性は21年10月7日、古賀市中央の国道3号交差点を普通乗用車を運転して右折しようとした際に、対向車線を直進してきたバイクと衝突。バイクを運転していた30代男性がけがをした。
バイクは赤信号を無視して交差点に進入しており、10月27日の福岡地裁判決は「事故はバイク側のほぼ一方的な過失で生じた。被告には、赤信号を無視して進入してくることまで予見し、安全を確認すべき注意義務はない」などとして無罪とした。福岡地検は控訴期限の10日までに控訴せず、男性の無罪が確定した。【志村一也】