去年9月、北海道旭川市で、子どもが敷地に投げ入れたBB弾のいたずらをきっかけに、夫婦をナイフで刺し殺人などの罪に問われている男の裁判員裁判で、検察は男に懲役25年を求刑しました。
起訴状などによりますと、旭川市の川口和人被告58歳は、去年9月、敷地内にBB弾を投げ入れた娘をめぐるトラブルをめぐって訪ねてきた30代の夫婦を、ナイフで複数回突き刺し、夫を死亡させ、妻にけがをさせた殺人と殺人未遂の罪に問われています。 これまでの裁判で川口被告は殺意を否認。 弁護人の被告人質問で「恫喝をやめてほしかった」と犯行時の心境を述べた一方、検察側の質問には黙秘を貫いていました。
22日の公判では、被害者の親族の代理人が、「幸せだったあの日を返してください」と意見を述べました。
そして検察が「刺し傷は20か所にも及び、死亡する危険を認識していながら刺し続けた、残忍な犯行」と指摘し、川口被告に懲役25年を求刑しました。 判決は12月1日に言い渡されます。
【これまでの裁判の経緯】 14日に始まった裁判は、被害者特定事項秘匿制度により、夫婦(夫Aさん、妻Bさん)は匿名にされ、検察、弁護側は、それぞれ下記のように主張、経緯などを説明しました。
《検察の冒頭陳述・長女、妻Bさん、隣人などの証言》 ■きっかけは、小学生の娘の“いたずら” ・Aさんの長女(当時11歳)は友人と下校中、被告宅前で玩具の銃の弾=BB弾を拾う ・直径わずか5~6ミリのプラスチック製 ・カーポート奥の玄関前に投げつける ・被告はカーポートに設置した防犯カメラの映像を自室で見て、外に出る ・「おまえら、何やってるんだ」と2人を怒鳴りつける ・さらに、友人のカバンを蹴り、中の水筒を凹ませる ・2人に住所と名前をノートに書かせる
■上記以外の長女の証言 ・何度も「ごめんなさい、すみません」と謝った ・算数のノートをちぎられ、名前、電話番号、学校名、担任名まで書かされた ・ママに話すと、謝りに行くことになった
■長女から話を聞いた夫婦は… ・生後7か月の次女も連れ、4人で被告宅へ ・Aさんがインターフォンを押すと、被告はナイフをポケットなどに隠して玄関へ ・Aさん「娘がBB弾を投げちゃったみたいで?」 ・被告「石を投げられて、傷がついた」 ・Aさん「石って、どの石ですか?傷は、どこについちゃいましたか?」 ・被告「それは、わからないけど」 ・Aさん「住所を書かせるほどのことなんですか?」 ・騒ぎに気づいた隣人Xさんが2人に「やめましょう」と声かけ ・それでもAさんは収まらず「やりすぎだろう!」 ・被告「なに、イキッてんの?やるか」 ・Aさん「何をやるのよ」 ・被告が右手に持ったナイフで、Aさんを切りつける
■夫婦を刺した状況 ・Aさんは腕を上げて防御し、後退して逃げる ・隣人Xさんが被告をつかみ、止めようとする ・被告は追いかけて、背中などを何度も刺す ・妻のBさんが被告に体当たり ・被告は、体当たり後に座り込んだBさんの背中を刺す ・隣人Xさんが被告を後ろから羽交い絞め ・被告は「全員、ぶっ殺してやる」と叫びながら、なおもBさんを刺す ・被告はBさんから離れた後、自宅内へ ・隣人Yさんの通報で逮捕
《弁護側の反論、主張》 ■被告の精神状態 ・夫婦を殺すつもりなどなかった ・危害を加えられると勘違いし、恐怖で精神障害を引き起こす ・心神耗弱、心神喪失 ・善悪の判断ができず、思いとどまれない状態 ・Aさんに「どこが傷ついているんだ」などと捲し立てられ、恐怖が膨らむ ・急性ストレス反応で何が起こっているかわからず、行為の危険性もわからない状態 ・誤想過剰防衛が成立し、殺人、殺人未遂罪は成立しない
《鑑定医の証言》 ■ふだんの様子に精神障害なし ・問診は最短7分から最長85分、計21回の平均時間は49分 ・社会性障害、発達障害などなし ・地元の高校の電気科をトップクラスの成績で卒業 ・自動車関連など、複数の会社勤務 ・2012年に実家に戻った後、就職活動はかどらず ・姉とトラブル、母親の入院後の事件時、父親と2人暮らし
■事件前後の心理状態・殺意を一貫して否認 ・Aさんの風貌に強い恐怖感、恫喝され、強く逃げたい思い ・最初にナイフで突き刺した後、大部分の記憶がない ・急性ストレス反応(弁護側も主張)の可能性 ・ふだん使わない被告の言葉「イキッてんの?」からも伺える
■事件の計画性など ・計画性はないとみられる ・防犯カメラでAさんを見て「怖い人が来た」 ・思わずナイフ所持・善悪の判断能力は、急性ストレス反応で一定の障害あるが、著しく喪失はない
《被告人質問》 川口被告は初公判の冒頭、起訴内容を問われた際「その件に関しては、弁護士に一任しています」と一言、話しただけでしたが、20日の被告人質問では、きっかけになった小学生の娘の“いたずら”、訪ねて来たAさんをナイフで刺すまでの状況について、初めて自らの言葉で下記のように語りました。(被告に質問したのは弁護人)
■きっかけとなった小学生の娘の“いたずら” ・カーポートの前で、3~4つの手荷物を下す様子に気づく ・「変わったことするな」と思い、防犯カメラを注視・2人それぞれ3~4回、振り被って何かを拾って投げてきた ・砂利のところにいたので、石ではないかと思った ・人の家に物を投げるのは良くないと思い、1階に降りた ・「おまえら、何やってるんだ」と、普通よりは大きな声を出した ・2人は動かず、無言 ・「人の家に物を投げちゃダメでしょ、どうして投げたの?」と問う ・どちらか1人が「ハエのような虫」と答える ・歩道の荷物の上をまたぐように歩くと、左足が当たった ・蹴ってはいない ・もう一度「どうして投げた?」と問うと「ハエのような虫」と答える ・その後、1人が「BB弾」と言って、掌に1つ持っていた ・ランドセルの肩ヒモを持ったが、押したり、引っ張ったりはしてない ・学校に連絡するつもりで「学校と先生の名前を教えてくれる?」と言った ・手元に紙が無かったので、女の子のノートに書いてもらった ・そのノートを破ってもらい、私がもらった ・謝るとかは無かったが、私は怒鳴ってない ・「正直に答えてくれたから、お父さんやお母さん、先生には言わないからね」と言った ・1人が「ありがとうございます」と言った ・(「言わないでね」と、言ったのでは?)全然、違います ・念のため紙を受け取り、それで終わったと思った ・(やりすぎた?)言い過ぎた感じはあったと思う
■夫婦が訪ねてきた時の状況 ・陽が落ちて、1台の車が防犯カメラに映る ・「変な動きの車だな」と不審に思う ・見おぼえない男性が歩いてきて、怪しい感じ ・30歳前後、170センチくらいのガッチリ型 ・映っていた顔は、かなり怖い感じ ・昼の子どもの件で、どちらかがヤクザかチンピラを雇ったのではと思った ・襲撃に来たと思った ・棚に置いてあったナイフを、護身用に右ポケットに入れた ・ナイフを護身用に持ったのは初めて ・風貌が怪しく、怖いように見えたから
■実際に対面すると… ・(先に話したのは?)相手です ・いきなり大声で「おまえか!」と怒鳴られた ・(名乗られた?)何も言ってない ・もしかして、昼のことかなと少し思った ・ヤクザかチンピラの方かと思った ・相手の風貌がすごく怖くて、何を言ってるのかわからなかった ・玄関フードからカーポートに移動した ・(どうしてついていった?)何か言い分あるのかなと思った ・(どんな感じでした?)「どこだ!どこなんだ!一体どこに傷があるんだ!」と捲し立てられました ・(どう返した?)何のことかわからないと、返した ・(そうするとAさんは?)「だから、どこなんだ、早く言え、この野郎」!と大声でくり返された ・(「イキんなよ」と言った?)意味がわからないので、知らない ・(2人で話している途中、誰が出て来た?)父が玄関ドアを開けて、顔を出した ・私は父に「大丈夫だから、中に入って」と言った ・「あれは、誰だ!」と聞かれて、私は「うちの親父だ」と返した ・くり返し「あれは、誰だ!」と言われ、殴られた後、父が被害を被るのではないかと思った ・(どういう心情だった?)とにかく離れて欲しかった、勘弁して欲しいの一心だった ・(どう行動した?)彼の胸にナイフを切りつけた ・当時は、軽く切ったと思った・(なぜ胸を?)首とか心臓とか内臓とか危険だと思ったから ・(ナイフ出したのはいつ?)父が入って、恫喝止まらなかったから、その時 ・(どういう気持ちで?)恫喝は止めて欲しい、とにかく離れて欲しかった ・パニック、精神的に追い詰められてきた ・(殺してしまう可能性は考えた?)そういうのについては考えてない ・胸に軽く当てただけ、とりあえず恫喝を止めて欲しかった
そして、弁護人の質問の後に行われた検察からの100項目以上の質問に対し、川口被告は全て黙秘。 その理由を裁判官に問われると、検事の具体名を話した上で「私としては、検事に精神をおかしくされた取り調べを受けた」と答えました。 また、被害者代理人からの20項目以上の質問に対しても、川口被告は全て黙秘しています。
その後、裁判官からの質問に対しては、おおむね上記と同じ返答を続けました。 その上で、犯行については「記憶がない」を続けて「冷たい人間と言われるかもしれないが、犯行の記憶がないので、その件に関して、何もお答えすることはできないんです」などと話し、最後に別の裁判官には「ナイフを持ち出さなければ、良かったと思う」と後悔の念も見せていました。