ロシアに帰国すればウクライナ戦争に動員される危険性がある-。不法残留者だったロシア国籍の50代男性はこうした事情を理由の一つに挙げ、強制退去処分の取り消しを求める訴訟を起こしたが、1月の大阪地裁判決では、主張がことごとく退けられた。ロシアの徴兵制の影響も検討されたものの、重視されたのは「明らかに不良だった」と指弾された日本での生活状況だった。
20代で来日
訴訟資料によると、男性は旧ソ連で生まれ、20代のときに留学の在留資格で来日した。
その後もさまざまな資格で在留期間を更新。以前も不法残留で強制退去を命じられたが、日本人女性と結婚して取り消された。
しかし、その女性とも離婚。「定住者」への資格変更を申請したが認められず、再び不法残留になった。一時は施設に収容されたが、仮放免。昨冬、強制退去処分の取り消しを求める訴訟を起こした。
男性側は、20年以上日本で暮らし、文化への理解が深いという「日本への強い定着性」に加え、ウクライナ戦争への人道的な配慮を求めた。停戦の見通しは立っておらず、「軍人でなくてもいずれ動員される危険性は否定できない。恐怖を抱くのは当然」と主張したのだ。
「顕著な暴力傾向」
今年1月の大阪地裁判決は、男性側のこうした主張を排斥。主眼に置いたのは、男性の「顕著な暴力的傾向」だった。
男性は日本滞在中、暴行や道交法違反(無免許、酒気帯び運転)罪で複数回、罰金の略式命令を受け、相手を骨折させたとする暴力行為法違反と傷害の罪で執行猶予付きの有罪判決も受けていた。地裁は「何度も反省の機会を与えられながら重大な傷害事件まで起こしており、在留状況は明らかに不良」と断じた。
その上で、ウクライナとの戦争にも言及。徴兵制は国際法上禁止されておらず、「徴兵制をもって、ただちに人道的配慮が必要となるものではない」と指摘した。
その上で、ロシアの徴兵対象は30歳までのため50代の男性は対象外で、さらにロシア政府は軍務経験のある予備兵はともかく、「徴兵された兵士は前線には送らない」との方針を示しているとして、戦争に動員される具体的な可能性は認められない、と結論付けた。
男性側は判決を不服として控訴した。