ペットで人気のコツメカワウソ 密猟多発地が由来のDNAも 京都大

ペット需要の高まりで密輸が横行し、生息地の東南アジアで絶滅が危惧されるコツメカワウソを守ろうと、DNAから原産地の由来を推定する研究成果を、京都大野生動物研究センターのチームが発表した。日本の空港税関で押収された個体と、動物カフェや動物園・水族館での飼育個体を調べたところ、タイの野生個体と共通する遺伝子型が見いだされ、由来を探る手がかりが得られた。押収個体の由来は密猟多発が指摘される地域が含まれていることも示唆されたという。
国内で同様の研究なく初の成果
同センターの藤原(ふじはら)摩耶子特定准教授、村山美穂教授、京都大大学院理学研究科修士課程の鈴木瑛之(あきゆき)さんらのチームで、論文が国際学術誌「コンサベーション・サイエンス・アンド・プラクティス」にオンライン掲載された。他の動物も含め、国内で同様の研究は知られておらず、初の成果とみられる。
日本は主要な輸出先
コツメカワウソは生息地のタイやインドネシアなどでの水辺環境の破壊や毛皮目的の乱獲で減少し、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは絶滅が危惧される「危急種」に分類。商業目的の国際取引はワシントン条約で2019年11月26日から原則禁止となった。
日本でも動物園・水族館で飼育され、生物多様性保全のための繁殖も進められてきたが、近年は一般家庭や動物カフェでも飼育され、一部では販売も。動物園・水族館も含め、国内で飼育されている個体のほとんどは原産地が不明で、日本は出所があいまいな飼育カワウソの主要輸出先の一つとされているという。
野生動物の違法取引を監視する国際環境NGO「トラフィック」の18年の報告書によると、タイ発日本行きの航空便での密輸カワウソの押収は16、17年の2年間で5件計39頭を数えた。密輸は経由地を介することが多く、由来は不明だった。また、動物カフェ10施設で計32頭が展示されていたことも確認されたという。
分析でタイの個体と共通遺伝子
藤原さんらのチームは21、22年、国内の動物カフェ5施設で飼育されていた計33頭、動物園・水族館の13施設で飼育されていた計43頭、空港税関で押収された5頭の試料を得て、ミトコンドリアDNAの塩基配列を解析。タイの研究機関から提供された東南アジアの野生個体の塩基配列と比較した結果、日本で飼育されていた計76頭は原産地由来が東南アジアの三つのエリアに分類できた。
また、遺伝子配列の組み合わせをみると、押収個体は密猟多発が指摘されるタイ南部の野生個体と共通していた。一方、動物園・水族館の飼育個体の多くはタイの別地域の野生個体と共通していた。空港で同時に押収され、兄弟と推測されていた2頭が別の地域由来だったことも判明したという。
他の動物保全研究のモデルにも
チームでは、日本で飼育・押収される個体の由来についてデータベースを作成すれば、生息地での違法取引のホットスポットを特定し、法規制を促すことにつながるとしている。また、より正確に由来を特定できれば、生物多様性の保全に向けた動物園・水族館での飼育下繁殖に有用な情報になるとも期待。ミトコンドリアDNAは母親から受け継ぐだけのため、今後は父系も分かる核DNAを解析し、幅広い生息地の野生個体との比較によって精度を高めたいとしている。
藤原さんは「コツメカワウソは日本国内で非常に人気があるが、絶滅の危機が高まっていることはあまり知られていない。生息地以外の国での需要が違法取引につながっている」と指摘。主な商業取引拠点とされるタイと、需要が高まっている日本が共同で行った点で、今回の研究は他の動物の保全研究モデルにもなると期待されるといい、「固有のニホンカワウソが絶滅したとされる日本だからこそ、希少な野生動物の保全につながる研究を今後も続けたい」と話している。【太田裕之】