2025年度から航空自衛隊に配備が始まる予定のF-35B戦闘機。短距離離陸・垂直着陸が可能なこの戦闘機、導入した後の維持運用まで含めるとどれ程のコストがかかるのでしょうか。試算してみました。
最新戦闘機F-35Bのトータルコストは?
軍事力の象徴であり、技術の粋を集めた戦闘機。圧倒的な存在感とは裏腹に、その維持には天文学的な費用が伴います。税金を支払わなければならない我々納税者にとっては、必要であると理解はできても、複雑な感情を抱いてしまう存在だと言えるかもしれません。
航空自衛隊が導入を予定しているF-35B「ライトニングII」を例に、その驚くべきコストについて具体的に紐解いていきましょう。なお数値は2020年における計画値であり、円ドル相場は当時のレートである1ドル=110円で計算しています。
航空自衛隊は、F-35Bを42機導入する計画です。配備先は宮崎県の新田原基地で、2025年3月24日には機体の到着に先立ち「臨時飛行隊」が新設されています。今後、数か月以内に機体が到着する見込みですが、1機あたりの調達コストは、実に131億円にのぼります。この数字だけでもその高額さが窺い知れますが、しかしこれはF-35Bの運用にかかる総費用「ライフサイクルコスト」のほんの一部、言うなれば氷山の一角に過ぎません。
当然ですが、戦闘機を動かすには燃料が必要です。F-35Bの燃料は、我々民間人でも入手できる灯油に近い成分の石油です。その総額は30年間の運用で約25億円と見積もられています。逆に言うと、燃料代だけでこれだけのコストがかかるのです。
またF-35Bが効果的な戦力であり続けるには、近代化改修やソフトウェアのアップデートが必要ですが、改修費の見積もりは46億円にもなります。
そして、最も大きな割合を占めるのは整備・維持費で、その額は実に30年間で370億円。これはライフサイクルコストの63.3%にも達する数値で、F-35Bの価格とは、ほとんど整備のために支払っている費用だと言い換えることもできるでしょう。
F-35Aよりも金かかるってホント?
これらに、F-35B運用で必要な施設、教育訓練費などを加えると、そのライフサイクルコストは585億円に膨らみます。言うなれば、これが同機を調達し寿命が尽きるまでに必要な額です。F-35Bの耐用命数は8000飛行時間なので、単純計算では1飛行時間あたりの単価は731万円になります。ということは、1回の訓練飛行または対領空侵犯措置のための出撃には、これだけのコストがかかるとも言い換えられます。
当然、このライフサイクルコストはあくまで1機あたりの額であり、実際は42機分支払う必要がありますから、F-35Bにまつわる全ての費用を加算した総額は単純計算でも2兆4608億円となります。
F-35Bは短距離離陸・垂直着陸機であり、通常離着陸型F-35Aに比べて機体単価が高く、また整備時間についても約2倍必要であるなど、そのライフサイクルコストはかなり割高であり、世界でも最も運用コストが高額な戦闘機のひとつとなっています。
このようにF-35B、言い換えると戦闘機の調達と運用には莫大な費用がかかることがわかります。しかし、必要な費用はこれだけではありません。戦闘機を運用するには当然飛行場も必須ですし、また艦上運用を目指すならば航空母艦を調達・運用するコストも加算されます。加えてその戦闘能力を十分に引き出すには、地上のレーダーサイトや早期警戒管制機、空中給油機、電子戦機などの支援も欠かすことができません。
こうした間接的な費用も含めた、戦闘機に必要な投資の総額は簡単に計算することはできませんが、航空戦力の維持には国家規模の経済力を投じる必要があると言えるでしょう。
戦争において何らかの目標を達成するには、航空戦力を有効に活用することが欠かせません。戦闘機はその中核となるため、平時から長い時間と莫大な投資を行い維持する必要があります。そのことは、間もなく運用を開始する航空自衛隊のF-35Bについても同じだと言えそうです。