国民民主党は10日、30歳未満を対象とする「若者減税法案」を衆議院に提出した。5人に1人が後期高齢者という“超高齢化社会”に突入した日本における若者の負担軽減が狙いだが、“30歳未満”という縛りに、氷河期世代からは不満の声もあがっている。実際にこの制度がどれほど若者の負担減につながるのか、そのメリットとデメリットを専門家に聞いた。
【画像】「若者減税法案」を国会に提出した国民民主党の玉木雄一郎氏
若者減税法案の狙いとは
「頑張れば報われるというメッセージを出したい」
国民民主党の玉木雄一郎代表は4月10日、30歳未満を対象とした「若者減税法案」を衆院に提出した際、記者団に対し、こう語った。
玉木氏は「若者にとって社会保険料の負担の重さに加え、所得に課される税の負担が重くなっている」と指摘し、負担軽減のため、所得控除の拡充など政府が講じるべき措置を定めているが、具体的な金額は明記されていない。
法案提出後、玉木氏は記者団の取材に応じ、
「若い人の税負担、社会保険料負担が年々大きくなっている。『この国で頑張って働いても報われない』と思わせないような制度作りが必要だ。若者を応援することが日本全体の元気につながるし、頑張っている若い人を応援したい」
と力強く語った。
一方、減税の対象を「30歳未満」としたことについて、「氷河期世代だけ徹底的にイジメられるの何なん?」など、ネット上では不満の声が噴出している。
〈違う!そうじゃない!減税が必要なのは40~50代の就職氷河期世代→賃金上がらない年代!〉
〈氷河期世代の給料削って新卒の初任給30万円捻出してんのに、さらに減税しようってのかい〉
〈年齢で区切る意味が分からん。誰でも頑張ったら報われて欲しいし、ほとんどの国民は頑張らなくても報われる生活を政治家に期待してるんだけど〉
こうした声の多くは就職氷河期世代が中心で、今春の新卒採用者の初任給引き上げの動きが大手企業をはじめ広がっていることも影響している。
これに対し、玉木氏は10日の記者会見で、税制の公平性を損なわないかと記者から問われると、
「年齢は恣意性の入らない区切りであり、違和感はない。40代から55歳ぐらいまでの就職氷河期世代にも新たな政策を提案していく。幅広い人たちの生活を応援したい」
と強調した。「若者減税法案」をめぐっては、2023年にも参議院に提出しており、今回の法案の成立は見通せないが、今夏までに予定されている参院選に向けて若年層の有権者からの支持拡大を図る狙いもあるとみられている。
生まれる世代間の不公平感
国民民主党が掲げる若者減税法案について、どのようなメリット・デメリットがあるのか。『大卒だって無職になる』の著者で、若年層の自立支援、就労支援活動を行なう工藤啓さんに話を聞いた。
「日本で若者支援に政治が大きく動いたのは2000年代前半です。今回の若者減税法案は、若い世代の苦境に再び政治的な視点が充てられたというメリットが考えられます。
一方、デメリットとしては、対象者が30歳未満という世代の区切りにより、世代間の摩擦を引き起こしえることが挙げられます」(工藤さん、以下同)
実際に、対象外となった30代や就職氷河期世代の40代からは「不公平だ」などと反発の声もあがっており、玉木氏はX上で
〈博士課程まで含めた学生への支援を拡充する一方、中学・高校や高専を出て働く人には支援がなく、その均衡を図る意図もあります。もちろん就職氷河期対策等にも力を入れていきます〉
と理解を促した。このような世代間の不公平感はなぜ生まれるのか。
「国民民主党は、すでに就職氷河期世代への政策パッケージを打ち出してきました。そのため、今回の法案提出は『若い世代だけ』ではなく、『若い世代にも』支援を届けようとする意向を感じます。
今回の法案は“減税”という直接的に個人が恩恵を受けやすいにもかかわらず、物価高騰など、世代を問わない生活危機を前提としていることから、他の世代からすれば不公平と感じざるを得ないと考えます」
今回の法案は若者への支持拡大も狙いの一つとみられるが、今年の参院選で若者への支持は集められるのだろうか。
「若者支援の現場にいると、若い世代は自分たちへの恩恵ある施策は純粋に喜びますが、苦しい状況の人たちは同世代だけではないことを理解しています。他世代との葛藤を残すことがあれば、『自分がうれしい』から支持する直線的な判断をする若者はそれほど多くないかもしれません」
果たしてこの法案は若者世代の負担軽減の一手となるのか、そして選挙戦への影響は―。若者政策を前面に掲げた国民民主党の動向に注目が集まっている。
取材・文/集英社オンライン編集部