富士山&五重塔と桜の競演、訪日観光客押し寄せ「もう限界」…混乱避けようと異例の「取材NG」に

富士山と五重塔の眺望が望める「新倉山浅間公園」(山梨県富士吉田市)に訪日観光客らが大挙して訪れ、市がメディアの取材自粛を求める異常事態が起きている。今月から市主催の「桜まつり」が開かれており、富士山、五重塔と桜の競演目的の人々が押し寄せ、渋滞対策などに手が回らない状況だ。混乱を防ぐための「取材規制」だが、止まらぬ人波に自治体からは「もはや限界」との悲鳴も上がる。(涌井統矢)
「富士山と桜、五重塔の競演は日本らしい光景で海外でも有名よ」。11日、訪日客らであふれた公園内で、オーストラリアから訪れた観光客(28)は、目当ての風景を撮影しながら笑顔を見せた。
市などによると、2015年に公園の桜の風景が旅行ガイドで取り上げられたことなどをきっかけに、SNSなどを通じて世界的に注目を集めた。桜が見頃のこの時期は、特に人が増えるという。
普段から渋滞対策などが課題だが、今月は自家用車や観光バスの往来で、付近の地元住民が利用する道路各所で、いつも以上の長い車列ができている。

そもそも、桜まつりは、こうした渋滞の緩和などを目的に16年から始められたイベントだ。狙いは訪れる人の管理にあったという。
イベントが開催される期間中は、事故防止や円滑な交通の確保のために、所轄警察署長の許可を得た上で通行規制が可能となる。市の担当者は「地域を活性化できるだけでなく、渋滞緩和や来訪者コントロールも期待できる取り組みと考えていた」と振り返る。
こうした規制に加えて、市では警備員も通常時の3、4倍の約50人に増員するなど対策を講じてきたという。
しかし、まつりの来訪者は、市の想定を超えて増えていく。16年の第1回は約6万人だったが、昨年は27万人以上が訪れた。堀内茂市長は10日の定例記者会見で「なかなか防ぐ手立てがないというのが本音」「市でできることはある程度限界」などとこぼした。
市では、報道を見た観光客が公園に殺到する事態を避けようと、今年は展望デッキ内での撮影や開花状況を報じる取材の自粛をメディアに求めた。
初めての対応といい、市の観光サイトには「今年は、混雑や交通渋滞の回避、安全確保のため取材はすべてお断りさせていただきます」との一文が掲載された。

市では、来月の大型連休や紅葉シーズンも同様の事態が起きることを憂慮する。
桜まつりの期間は18日までで、終了すれば生活道路への通行規制もできなくなるため、観光客のマナーも「モラル頼り」に戻る。
公園近くに住む70歳代の男性は「規制がない時は車が公園の真横まで入り込もうとして、狭い道ではすれ違い時に渋滞や接触事故が絶えない」として、「道路の一方通行化など更なる対策が必要では」と不満げだ。
平時から一定の秩序を保つために市では、今年度から周辺の市営駐車場4か所を有料に切り替えたほか、公園の展望デッキ有料化も検討を進めているが、効果は不透明だ。すでに交通マナーの悪化やゴミのポイ捨てなどへの対策として常時15人ほどの警備員が配置され、トイレ清掃費なども含めて年間1億円以上が対策費に充てられている。
桜まつりを担当する富士山課の勝俣美香観光担当課長は「市だけでは対策が難しい部分もある。道路標識に英語を加えるなどの国際基準化や、入国時に観光公害について注意喚起するなど、県や国にも本腰になって対策を進めてほしい」と訴えた。