「1回だけ」のはずだった闇バイト、大学は退学し親友は「縁切るね」…20代女性受刑者の後悔と涙

闇バイトに応募し、特殊詐欺の実行役として実刑判決を受け、福島市の福島刑務支所に服役中の女性受刑者(23)が読売新聞の取材に応じた。音楽バンドの「推し活」の費用欲しさに「1回だけ」と気軽な気持ちで始めたものの抜けられなくなり、犯行を重ねてしまったと証言した女性。「勇気を出してもっと早く裁きを受けるべきだった」と悔やみ、涙を流した。(高田彬)

福島刑務支所の一室で記者と面会した女性受刑者は、「前科もないし、1回だけなら、ばれないんじゃないかと応募してしまいました」とはっきりとした口調で語り始めた。
きっかけは、バンドの推し活で、コンサート会場への航空運賃や宿泊費が3、4万円足りなかった。2021年10月、X(旧ツイッター)でお金を借りようと検索するうちに「闇バイト」と書かれた投稿にたどりつき、一番上の投稿に連絡を入れた。

数日後、女性は東北地方で、ある住宅のインターホンを押していた。顔を出した高齢の女性は別の指示役と電話で話をしていた。
高齢女性は、「あなたの口座が犯罪に使われている。女性の警察官を向かわせるのでキャッシュカードを預けてくれ」との説明を受け、女性受刑者を警察官だと信じ込み、家に入れてくれた。
女性受刑者は、イヤホンを通じて指示役に指示されるまま、キャッシュカードを受け取り、穴あけパンチでカードに穴を開けてみせた。「これで使えなくなりました」とうそをつき、カードを預かる。帰り際、「気をつけてください」とも言った。自分の取り分は45万円。だまし取ったカードで引き出した額の1割だった。

「とんでもないことをした。もう二度とやらない、犯罪に手を染めたことは墓場まで持って行こう」
そう悔やんでいたところ、3日後に指示役から「もう1回やらないと捕まるけど、どうする?」と連絡が入った。「それ、脅しですよね」と言い返したが、「そうだよ。俺たち血も涙もないからさ」と言われた。
実家の住所や大学名を伝えていた。家族に危害が及ぶかもしれないと思うと、従うしかなかった。大学の授業がない週末に毎週「出勤」させられた。指示役に言われるがまま、知らない家のインターホンを押し、警察官を装ってキャッシュカードや現金をだまし取った。
やめたいと何度も伝えた。「実家に帰ったら家族が殺されているのではないか。もう死にたい」。そんなことすら頭をかすめた。途中からは「やめたいから」と報酬を受けとらなかったが、約1か月後に逮捕されるまでにおよそ150万円を手にしていた。検察からは被害総額は約2000万円と聞いた。

窃盗と詐欺罪で懲役3年6月の実刑判決を言い渡され、大学を退学した。親友からも「親が心配しているから縁を切るね」と連絡があった。
刑務支所のテレビで闇バイトの特集番組を視聴し、新たな被害者を知るたびに心が痛む。「自分の人生を棒に振っただけでなく、被害者の家族にも影響を与えてしまった。身近な人にすぐに相談しておけばよかった」