現金給付見送りの石破政権「参院選の目玉がない」「自民党ごとトランプにつぶされる」消費減税をめぐっては公明と国民民主が“接近”、立憲は内紛勃発

「トランプ関税」や物価高への対策として石破政権が検討していた国民一律の現金給付は、二転三転の末に見送られることとなった。大型の経済対策の裏付けとなる補正予算も編成されず、自民党は国民にアピールできる「目玉」がないなかで夏の参院選に突入することになる。党内からは「現金給付をしてもバラマキと批判され、しなくても有権者にアピールできることがない。打つ手がない」との嘆きが聞こえる。
【画像】立憲の減税派の台頭に釘を刺したのが、党の創始者である最高顧問のこの人
予想外に大きかった「バラマキ」批判…「自民党がトランプ大統領につぶされる」
日経平均株価が大幅に下落するなど「トランプ関税」の影響の大きさに、国民への一律現金給付案が政府・与党内で浮上したのは4月8日ごろ。1人5万円など具体的な金額が検討され、公明党からは10万円給付を主張する声も出た。
しかし、参院選前の「バラマキ」に有権者からの反応はイマイチだった。NHKが4月11日からの3日間で実施した世論調査では、国民への給付に「反対」が50%で、「賛成」の38%を上回った。
さらに、野党からも「バラマキ」との批判が相次いだ。一律給付には財源の裏付けとなる補正予算の編成が必要とされたが、少数与党では野党の協力が得られないと、補正予算を成立させることも難しい。
政府・与党は、参院選前に有権者にアピールできる「目玉施策」を取り下げ、ガソリン価格の引き下げや電気・ガス料金への補助再開といった物価高対策にとどめることにした。
自民党内からは「現金給付をしてもバラマキと批判される。ただ、それもないと有権者にアピールできることがない。石破政権は打つ手がなくなっている状況。このまま参院選に突入しては、自民党がトランプ大統領につぶされてしまう」との嘆きの声が上がる。
一律給付立ち消えの後は、消費減税の議論へ
「バラマキ」批判が強かった一律給付を断念した石破政権だが、物価高対策を求める声は相変わらず根強い。代表的なものが消費減税だ。
「石破首相も食料品の消費減税について検討を始めています。一律給付がなくなった今、党内からは参院選公約に消費減税を掲げるよう求める声も高まっています」(全国紙政治部記者)
ただ自民党内では、財政規律の観点から消費減税への慎重論も根強い。石破首相は難しい判断を迫られそうだ。
一方で、党として消費減税に前向きな姿勢を示しているのが公明党と国民民主党だ。
公明は経済対策として、減税の必要を訴えている。斉藤鉄夫代表は11日の記者会見で食料品に限った消費減税についても「あらゆる手段のひとつの方法として検討している」と言及した。
また、国民民主は時限的な消費税率5%への引き下げを求めている。
「公明と国民民主は企業・団体献金をめぐっても、共同で規制強化策を提案するなど“接近”してきました。公明は、大阪で続けてきた維新との選挙協力が終わり、関係が悪化。勢いのある国民民主を新たに味方につけつつ、与党内で存在感を強めるねらいもありそうです」(同前)
国民民主もいち早く消費減税を主張し、政府に実現を求めることで、参院選を前に政策立案能力や実現力をアピールしたい考えだ。
ピンチなのは立憲…枝野氏は「分党」発言を「言ってやった」とご満悦だが
一方、消費税をめぐって党内の路線対立が顕在化しているのが立憲民主党だ。
立憲内では、江田憲司元代表代行が会長を務める党内勉強会が食料品の消費税を時限的にゼロとするよう主張。末松義規衆院議員らの党内勉強会も、消費税を時限的に5%へ引き下げることを求めている。
江田氏の勉強会には党所属国会議員の4割近くがメンバーとして参加。末松氏の勉強会にも江田氏の勉強会と重複している議員もいるとはいえ40人ほどが参加しており、党内で「減税派」は無視できない規模となっている。
ただ、こうした減税派の台頭に釘を刺したのが立憲の創始者である枝野幸男最高顧問だ。
減税派を念頭に「減税ポピュリズムに走りたいなら別の党をつくってください」と牽制。それに対し江田氏が「言論の自由を封殺しようというのは看過できない」と反発するなど、党内に大きな亀裂が走った。
減税に慎重な野田佳彦代表も「今の(減税を求める)党内議論をポピュリズムとは思わない」と減税派に一定の配慮を見せるなど、対応に苦慮している。
「民主党は消費税引き上げをめぐる対立から分裂した過去があり、消費税議論は立憲にとって鬼門。枝野氏は『分党』発言後、『言ってやった』とご満悦の様子だったそうですが、あまりに党内からの反発が強く、今は『一部メディアが印象で記事を書いている』と火消しに躍起になっています」(立憲民主党関係者)
それでも、党内での枝野氏への不満は消えそうにない。江田氏らの求心力は決して高くなく、減税派が新党を結成することは現実的には容易ではないため、党内には火種が残ったままになりそうだ。
一律給付がなくなり、焦点は有権者の関心も高い消費税議論に移りつつある。減税派、慎重派双方からの突き上げに、石破首相や、立憲の野田代表の苦悩は続きそうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班