文化庁が運営する文化財などのポータルサイト「文化遺産オンライン」で縄文時代の土偶などと紹介されていた3点が、外部から「偽物ではないか」との指摘を受けて削除されたことが、同庁への取材で判明した。
文化庁は真贋(しんがん)について「調査中」とし、所有している愛知県内の博物館は「偽物ではない」と否定している。
文化庁「誤解を招きかねない」
文化遺産オンラインから削除されたのは、「遮光器土偶」「女人土偶」「怪人土偶」と説明されていた3点。考古資料カテゴリーの土器・縄文時代の分類で掲載されていたが、17日に削除された。
文化庁は削除した理由について「誤解を招きかねないため」と説明。1月に問い合わせ窓口に偽物の可能性を指摘する連絡があったといい、担当者は「本当に縄文時代の土偶か調査している」と話した。
ポータルサイトは全国の博物館や美術館が所蔵する文化財を紹介する目的で、2008年に開設された。
18日時点で全国の1055館が登録し、計29万件超の建造物や絵画、彫刻、考古資料といった幅広い分野の文化財などを掲載している。
博物館「話にならない」
サイトは事前に申請し、審査を通った施設の運営者が自ら文化財の画像や説明を入力する仕組み。問題となった土偶は愛知県内にある民間の博物館が入力し、少なくとも数年前から掲載されていたとみられる。
文化庁は土偶を鑑定する意向の有無や、チェック体制が十分だったかどうかについて「調査中のためコメントは差し控えたい」としている。
この博物館の男性館長は毎日新聞の電話取材に縄文土偶と紹介した収蔵品については「偽物ではない」とし、「収集家から購入したものだ」と強調。
入手の時期など詳細については「電話では応じられない」とした。削除した文化庁については「縄文のことを何もわかっていない。話にならない」と批判した。
なんでも鑑定団が偽物と判定
交流サイト(SNS)では、類似する土偶が「出土品」などとしてインターネット上で流通していることへの懸念の声も上がっている。
「ヤフオクに完形の土偶が出ているわけないのでどうぞ気をつけて」
縄文時代をテーマにしたフリーペーパー「縄文ZINE」の編集長、望月昭秀さん(53)は1月21日放送の「開運!なんでも鑑定団」(テレビ東京系)で「ネットオークションで落札した縄文土偶」が登場したのを見かけ、X(ツイッター)で注意喚起の投稿をした。
番組のサイトによると、応募者が「10年ほど前、インターネットオークションで購入した」という「縄文土偶」10体を持ち込んだが、番組内では「全て偽物。1体1000円で、計1万円」と判定された。
望月さんによると、十数年前からヤフーオークション(ヤフオク)などで番組内のものと類似し「出土品」とうたう土偶が出品されており、数年前には1体数万円で落札されていたこともあったという。
説明文に「真正品保証」と書いてある品もあるが、どういう機関が保証したのかについては触れていない。
見る人が見れば判別できる
「土偶はたくさん出土するものではなく、完全な形のものとなると全国でも数が限られる。こうした完全体の土偶がヤフオクで流通することなどまずあり得ない。そもそも文化財保護法ができた後に出土したものが流通しているなら、違法なはずだ」と断じる。
同様の土偶は、フリーマーケットアプリのメルカリでも出品されている。
望月さんの投稿を見た知人から「文化庁のサイトにもよく似た土偶がある」との指摘を受けた。ポータルサイトの画像を見て「同じ作者の土偶ではないか」と疑い、1月に文化庁に問い合わせたという。
望月さんは「国のサイトに一度でも掲載すると、(真贋(しんがん)の)権威付けとして利用されてしまう。縄文時代の土偶や土器は縄文人の自由な感性で作っているわけではなく、その造形には時期と地域でルールがあり、そこが真贋を見分けるポイントとなる。見る人が見れば写真でもある程度判別できるはずで、もう少し掲載前にチェックしてほしかった」と話している。【西本紗保美】