TOEIC「中国人の替え玉受験」日本で起きた背景

「TOEIC 不正」なぜ日本で起きたのか
英語の能力を測る試験「TOEIC」で、他人に成りすまして試験を受けようとした京都大学院生が逮捕され、集団不正疑惑が浮上した。大胆かつずさんな手法の背景には、日本発祥のTOEICにまつわる複数の特殊な事情が関係しているが、替え玉受験はTOEIC以外でも定期的に発生しており、ウェブ試験や生成AIなどが普及する中で試験の公平性をどう担保するかが課題になっている。
【写真】中国でも実施されているTOEIC。日本ほど受験者は多くない
複数の報道によると今月18日、TOEICの試験会場に他人になりすまして侵入したとして、中国籍で京都大学大学院生の王立坤(おうりつこん)容疑者が現行犯逮捕された。逮捕容疑は建造物侵入容疑だったが、偽の身分証で受験票を作成しようとしたことも判明し、20日に有印私文書偽造・同行使の容疑でも送検された。
TOEICの運営法人である国際ビジネスコミュニケーション協会が過去の試験で疑いを抱いて警察に相談し、当日は警察官が会場で警戒していた。
これまでの報道で、王容疑者がマスクの内側に小型マイクを隠していたこと、過去の試験でも別人になりすまして受験して900点以上の高得点を取ったと供述していること、そして同じ教室で受験を予定していた人の3割が、事件当日に欠席したことから、警視庁は集団不正の疑いがあるとみて捜査しているという。
その後複数のテレビ局が、TOEICの替え玉受験を請け負う中国の業者に取材していた。業者が「(TOEICの替え玉受験を)日本でしかやらない」と説明したそうで、筆者はテレビ局から「なぜ日本で不正をするのか」と解説を求められた。
「中国では組織カンニング罪という法律があり、日本よりも重い罪に問われる」「日本は中国に比べて不正対策が緩いから、中国人が集団不正をする」と考察する番組もあったが、TOEIC試験に関しては、ミスリードだ。
なぜなら中国の組織カンニング罪の目的は「国家試験の公平性を守ること」であり、対象は統一大学入試、公務員試験、司法試験など政府が主催する試験に限られる。ほかにも細かな要件があり、TOEICのような民間試験には適用されない。
業者が「日本でしか替え玉受験を請け負わない」のは、需要の問題にほかならない。
TOEICは、日本人の英語力の物差しをつくるために、アメリカのテスト開発機関「ETS」に依頼して開発された日本発祥の試験だ。公式には「160カ国で実施されている」と説明されているものの、日本と隣国の韓国以外の国ではそれほど認知されているわけではない。