日本語試験替え玉、ベトナム人6人の狙いは収入アップ目的で「在留資格の特定技能への切り替え」

ベトナム人の女による日本語試験の替え玉受験事件で、大阪府警に逮捕された依頼者側のベトナム人6人はいずれも技能実習生で、「在留資格を特定技能に切り替えるために替え玉を依頼した」という趣旨の供述をしていたことが捜査関係者への取材でわかった。府警はより多くの収入を得やすい特定技能の資格を得る目的だったとみている。
替え玉役として逮捕されたのは、ベトナム国籍で無職の被告(31)(入管難民法違反、私電磁的記録不正作出・同供用罪で起訴)。
起訴状では、被告は昨年12月4日午前と午後、独立行政法人・国際交流基金の「日本語基礎テスト」の試験会場2か所(大阪市阿倍野区と北区)で、ベトナム国籍の30歳と22歳の女2人の在留カードを提示したとしている。
府警は昨年12月~今年1月、被告のほか、女2人を逮捕。その後、被告と共謀して各地で行われた日本語基礎テストなどで替え玉受験をしたとして、新たに依頼者側の女4人を入管難民法違反などの容疑で逮捕した。
複数の捜査関係者によると、依頼者側の女6人はいずれも技能実習生だった。22歳の女は昨年4月に技能実習生として来日し、製造会社で軽作業に従事。調べに「特定技能の方が収入が多いが、自分では合格できないので、替え玉受験を依頼した」と述べたという。
被告はこれまでの調べに「昨年の夏頃から十数回、替え玉受験した。仲介役がおり、報酬は1回6万円だった」と供述。実際に合格したケースもあったという。6人とは面識がなく、府警は仲介者がいるとみて調べている。
日本語基礎テストを巡っては、国際交流基金が昨年12月、「替え玉が疑われる受験が約100件ある」と府警に相談。今年5月には、名古屋市で行われたテストで替え玉受験をしたとして、ベトナム国籍の男2人が愛知県警に逮捕された。
技能実習制度は発展途上国への技術移転を目的として1993年に始まった。入国時に語学力の要件はなく、転職は原則禁止されている。
一方、特定技能の在留資格は外国人労働者を受け入れるため、2019年に導入された。日本語基礎テストでの合格などが求められるが、同じ業種内での転職が認められており、平均月給は21万1200円と、技能実習(18万2700円)より15%高い。
日本語基礎テストは年6回、各地の会場で実施され、昨年度は約1万人が受験していた。事件を受け、国際交流基金は試験当日に会場で受験者の顔写真や在留カードを撮影して照合するなど本人確認を強化した。担当者は「不正を防ぐため、必要な対策を徹底する」としている。
SNSに「代理受験して」多く

在留資格が技能実習の外国人は2024年時点で約45万人と19年比1・1倍、特定技能の外国人は約28万人と同175倍に増えた。国籍別では、ベトナム人がそれぞれ全体の4割超を占める。
SNS上では、ベトナム語で替え玉受験を依頼する投稿が相次いでいる。
外国人労働者の問題に詳しい斉藤善久・神戸大准教授によると、フェイスブック(FB)には、ベトナム語で試験情報を交換するグループがあり、約2万5000人が登録。特定技能の取得や大学進学に活用できる「日本語能力試験」(JLPT)について、「代わりに受験してくれる人はいないか」「代理受験してくれる男性を探している」といった投稿が数多く確認されている。
斉藤准教授はこうした実態を踏まえ、「事件化されたのは氷山の一角だろう。日本語試験で不正が増えれば、一定の語学力を前提とする制度の信頼性が揺らぎかねない」と話している。