天皇、皇后両陛下が6日からモンゴルを公式訪問される。国賓として現地で友好を深めるとともに、先の大戦後に抑留され、過酷な労働を強いられた末に亡くなった元日本兵らを慰霊される。戦後80年を迎え、当時を直接知る帰還兵や遺族がわずかとなる中、記憶の継承に取り組む人々は、強い期待を寄せている。
「モンゴル抑留を詳しく知る人はわずか。両陛下のご慰霊を機に抑留者の労苦が顕彰され、後世に歴史を伝える機運が高まればと願っている」
戦後、各国で起きた日本兵抑留などの調査や継承に取り組む「平和祈念展示資料館」(東京都新宿区)の増田弘館長(78)は力を込める。
同館には令和5年、上皇さま、上皇后さまが私的に訪問された。増田さんによると、召集令状や出征時の様子、過酷なシベリア抑留の記録などを見ながら、熱心に質問を重ねられたという。
戦後70年の節目だった平成27年には、当時皇太子だった天皇陛下と皇后さま、長女の敬宮愛子さまが、同館と「昭和館」(千代田区)、「しょうけい館」(同)の3館が合同実施した特別展示をご覧に。案内役を務めた学芸員の加藤つむぎさん(52)は「日本兵の労苦や、飢えに苦しんだ学童疎開の展示に強く心を寄せ、思いを語り合われていた」と振り返る。
60万人が旧ソ連の捕虜に
旧満州などでは戦後、約60万人の日本兵らが旧ソ連の捕虜になった。うち約1万4千人がモンゴルに送られ、1700人超が死亡したとされる。
平和祈念展示資料館ではシベリア抑留の展示や資料は充実しているが、相対的な人数の少なさもあってかモンゴル抑留に関連するものは非常に少ない。増田さんは「場所や人数にかかわらず、抑留者は厳しい寒さ、飢え、強制労働の苦難に直面した。旧ソ連指導部の意思決定や、抑留の実態などを含めて解明すべきことは多い」と語る。
同館は、戦争体験者本人のオーラルヒストリーや回顧録による「生の証言」を重視してきたが、総務省の人口推計(令和5年時点)では終戦時に主に20代以上だった明治、大正生まれの世代は約35万8千人で全体の0・3%に減少。同館は今後、モンゴル抑留の関係者への聞き取りや資料の掘り起こしを急ぎ、若い世代への啓発にも力を入れる方針だ。
記憶の風化が懸念されるなかで
ただ、悲惨な体験を語ることで戦友に迷惑をかける心配や生き残った後ろめたさから、証言をためらう帰還者は少なくない。戦争の記憶の風化が懸念される中、増田さんは両陛下のご慰霊について「幅広い世代で戦争の実像を共有し、平和の意味を考える機会になるのではないか」と話した。(中村昌史)