「オーガニック妻」が知らぬ間にハマるターゲティングのうまさ…超積極財政を掲げて急伸する参政党の正体

※本稿は、朝日新聞取材班『「言った者勝ち」社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
日本政治の多党化の傾向はすでに現れ始めている。本書で詳しく見てきた、2024年衆院選における左右の小政党の伸長である。
その一つが参政党である。すでに2022年参院選で国政政党になっていたが、その後、初めての衆院選となった2024年では、公示前の1議席から3議席に増やした。三つの議席はいずれも比例区で、南関東、近畿、九州の各ブロックで一つずつ獲得した。
その参政党について、ある政党の幹部経験者はぼやく。
「妻はオーガニックしか買わない。それでインスタで調べるじゃないですか。そこに参政党が出てくるんですよ」
オーガニックとは化学合成農薬・肥料を使わない有機栽培や有機食品のことだ。幹部経験者の妻は自然食品に関心が深く、インスタグラムでよく調べるのだが、利用者の関心に応じて、おすすめを紹介するアルゴリズムによって、「参政党」がたびたび目に飛び込んでくるという。
この幹部経験者は「参政党は支持層のターゲティングが非常にうまい。保守王道のメッセージもあるし、ワクチンに対する陰謀論も訴え、そこからオーガニックを重視する層を取り込んでいく。かなりピンポイントで食い込んでいるし、これらの層は意外とボリュームが多い」と話す。その上でこう予言する。
「参政党はNHKの日曜討論に出るぐらいの議員数を持つようになった。代表も話がうまい。宗教に例えれば、これまでは『何だか変な宗教』でイロモノ扱いだったが、今ではきちんとした信仰だと認められるレベルになってきた。共産党並みの議席を持つ政党になる可能性が高い」
神谷宗幣(そうへい)参院議員が代表を務める参政党のホームページでは、自分たちの政党をこう紹介している。
SNSが普及し、既存政党に不満を持つ層が広がっている。そうした不満層を積極的にすくい取ることを、そもそもの結党の理念に掲げた参政党は、結党から2年後の2022年参院選で比例区の得票率が2%以上に到達し、公職選挙法などの政党要件を満たす国政政党になった。既存政党側とすれば参政党はまだ伸びしろがあるように見え、脅威に映る。
神谷代表も、手応えを感じているようだ。2024年衆院選の投開票後のインターネット番組でこう言った。
「特にNHKの討論番組に出てから、地方の高齢の方々に、参政党が認知されて、後半かなり、年配の方々からも、参政党いいね、という言葉を頂いた」
「今まで全く知られていなかったので、ちゃんと知ってもらえれば。政策はかなり他の党と色々違うところがあるので、知ってもらうとかなり議席は取れると思う」
ここで参政党のイデオロギー的な特徴を考えてみたい。
利用するのは、朝日新聞社と東京大学谷口研究室による2024年衆院選の候補者の共同調査だ。比べるのは、各政党の候補者が政策ごとに質問に答えた平均値である。
まず外交や安全保障・憲法の分野で比較する。「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」「憲法改正は必要だ」「日本にとって中国は脅威である」との質問には、それぞれ賛成とする。自民党や日本維新の会とそっくりである。
一方、両党と違うのは日米安保体制への考え方で、自民党や日本維新の会、公明党は「危機のときのアメリカによる協力を確実にするため、日米安保体制をもっと強化すべきだ」との意見に近いが、参政党はどちらかといえば「日本と関係ない戦争に巻き込まれないように、日米安保体制の強化には慎重であるべきだ」との考えに近く、立憲民主党よりも日米安保体制の強化に慎重な立場だ。また、「首相の靖国参拝」では他党より強い特徴がある。自民や維新はやや賛成の立場であるが、参政党は賛成に振り切っている。
社会問題のテーマでは、参政党の「ジェンダー平等」への反対姿勢が際立つ。選択的夫婦別姓への賛否では、立憲や維新、公明、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党が賛成寄りの立ち位置で、自民はほぼ真ん中であるのに対し、参政だけが明確に反対の立場を取っている。
同性婚を法律で認めるべきかどうかについては、参政以外の政党は夫婦別姓と同じポジションか、それよりわずかだけ反対寄りにずれただけなのに対し、参政は夫婦別姓と同様に強い反対を示す。「国会議員の議席や候補者の一定割合を女性に割り当てるクオータ制を導入すべきだ」という考えに対する賛否では、自民や維新が真ん中、立憲などが賛成の立場を取る中、参政だけが反対の立ち位置にいる。
つまり、参政は、防衛力は強化すべきであり、憲法改正は必要であり、中国は脅威であるとして自民、維新という保守政党を自認する両党と同じような立場を取る一方、米国に対するスタンスが全く違う。自民、維新が「親米路線」を取るのに対し、参政党は少なくとも、その路線とは距離を置く。さらに、米国が強く反発する首相の靖国参拝に強い賛成の立場を取ることを考えれば「反米路線」と言えるかもしれない。社会問題に目を転じれば、強い保守思想を示しており、政界で一時は“絶滅危惧種”となった「反米保守」の立場と言えそうだ。
一方、経済、財政政策で、参政はまた違った顔をのぞかせる。
「日本銀行は国債の買い入れなど量的緩和措置を続ける」への賛否で、最も賛成の立ち位置になるのが、れいわだが、参政は維新や国民民主よりも、れいわに近い賛成寄りだ。
「日本銀行は政策金利を引き上げるべきだ」についても、れいわが最も反対で、参政が次いで反対の立ち位置を取る。公共事業による雇用確保の必要性では、れいわが最も賛成派で、参政は共産や社民よりも賛成寄りだ。
「国債は安定的に消化されており、財政赤字を心配する必要はない」「財政赤字は危機的水準であるので、国債発行を抑制すべきだ」のどちらの立場に近いかの質問に対しては、自民、立憲、維新、公明がほぼ真ん中の立ち位置を取る中、れいわは最も前者に近く、参政党もほとんど似た立場。参政に次いで前者寄りの考えを示したのが国民民主だった。
つまり、経済、財政政策をめぐって、れいわと参政はそっくりだ。2024年衆院選では、「手取りを増やす」と訴え、主に若者や現役世代からの支持を背景に躍進した国民民主が積極財政ならば、れいわ、参政の両党は超積極財政の立場を取る。一方、れいわ、参政両党は、外交や安全保障、ジェンダーなど社会問題では立ち位置を異にする。
政治的にはれいわは「左」、参政は「右」に位置づけられる。一方、財政規律に目を向けないという点では、自民や立憲などからみれば、れいわ、参政の両党はポピュリズム政党になるはずだ。
2025年2月、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)による世論調査で「れいわショック」が話題になった(産経新聞2025年2月25日配信)。
自民は、18~29歳の支持率が11.8%、30代が11.2%とそれぞれ2023年1月以降最も低い数字となり、30代は国民民主(15.9%)に加えて、れいわ(14.4%)にも後塵を拝する結果となったからだ。
参政の神谷代表も2024年の衆院選後にこう語っていた。「比較的若い方の応援が多い」。財政出動に積極的な左右の小政党の人気は、若年層から現役世代にかけて今後も高まる可能性がある。
(朝日新聞取材班)