参院選で自民候補への投票の見返りに現金約束、パチンコ会社社長ら6人を容疑で逮捕…従業員250人の買収図ったか

7月の参院選比例選で、自民党公認候補だった阿部恭久氏(66)への投票の見返りに、従業員に現金を渡す約束をしたとして、警視庁などの合同捜査本部は26日、パチンコ店運営会社「デルパラ」(東京都港区)社長で韓国籍の李昌範容疑者(50)(同)ら同社幹部6人を公職選挙法違反(買収の約束)容疑で逮捕した。
阿部氏は全国のパチンコ店が加盟する「全日本遊技事業協同組合連合会」(全日遊連)理事長で、組織内候補として出馬していた。警視庁は、同社が系列店の従業員250人以上と報酬を支払う約束をしていたとみている。約束に応じた側も被買収の容疑に当たるとして、従業員らも立件する方針。平成以降の国政選挙で、過去最大規模の摘発人数になる見通しだ。
他に逮捕されたのは、デルパラの営業本部長の男(46)、管理本部長の男(44)と、いずれも44歳で東日本と西日本のブロック長の男2人と総務部長の女(53)。
発表によると、6人は同社運営のパチンコ店の店長らと共謀して7月初旬~中旬、各店の従業員計60人に対し、阿部氏に投票する見返りに現金3000~4000円を支払う約束をした疑い。
営業本部長、管理本部長は7月2~3日、全国の店長とのウェブ会議で、店の従業員が阿部氏の名前を書いた投票用紙をスマートフォンで撮影し、画像を本社に送れば、残業代名目で報酬を支払うと説明。ブロック長の2人は店側から投票状況の報告を受け、総務部長は経理担当だったとされる。
店長らは会議の内容を従業員に説明した上で、投票を依頼したといい、警視庁は李容疑者が営業本部長と管理本部長に票の取りまとめを指示したとみている。
警視庁に情報提供があり、事件が発覚したため、従業員らへの現金の支払いは行われなかった。
同社は2007年に設立。グループ会社とともに東京、鳥取、鹿児島など8都県でパチンコ店計31店舗を展開しており、従業員は計約540人に上る。
阿部氏は、埼玉県川口市に本社を置くパチンコ店運営会社の経営者で、14年6月から全日遊連理事長を務める。7月の参院選では8万8368票を獲得したが、自民党の比例候補31人中20位で落選した。
公選法は、特定の候補者を当選または落選させる目的で有権者に金銭を渡す行為だけでなく、約束することも禁じている。
パチンコ業界、進む「客離れ」

パチンコ業界は近年、出玉の上限を抑制する依存症対策や利用者の高齢化などで客離れが進んできた。
警察庁によると、パチンコ店は1万8244店を記録した1995年から年々減少し、昨年末には6706店とピーク時の3分の1となった。利用者数も減少傾向で、日本生産性本部の「レジャー白書」によると、2023年は約660万人で14年の約1150万人からほぼ半減している。
パチンコ店は新型コロナウイルスの感染拡大で利用者が減少後も、客足が十分に戻っていない。スマートフォンで遊べるゲームアプリなど娯楽が多様化するなか、新たな顧客獲得が課題になっている。
こうした状況を受け、パチンコ業界の政治団体「全日本遊技産業政治連盟」(東京都台東区)が組織内候補として擁立したのが、業界団体の要職を歴任してきた阿部氏だった。
阿部氏が自民党の公認候補予定者となった後の今年2月には、同連盟が記者会見を開き、業界一丸となって阿部氏を支援する意向を表明した。業界関係者は「政権を担う党の国会議員を何としても誕生させ、業界の規制緩和を求めていきたかった」と振り返った。