9月2日に開催された自民党の両院議員総会にて、あらためて続投を表明した石破首相。高まる「石破おろし」に「解散風」を吹かせて対抗する首相だが、これがさらなる反発を招いている。そんな四面楚歌でも「辞めない」石破総理は、いったいどんな延命策を頭に描いているのだろうか? 8月下旬に首相の呼びかけで行われた一つの会合にその「秘策」が見えてくる。会食嫌いで有名な首相が、貴重な休日の夜に会ったのは誰だったのか?
【画像】8月下旬、会食嫌いの石破氏がわざわざ会食した総理経験者
「おっ、ついに退陣表明か!」と思ったのに…
「地位に恋々としがみつくものではない、責任から逃れず、しかるべき時に決断をすることが私が果たすべき責務だ」
最高気温35度。9月に入っても猛暑が続く永田町の自民党本部で2日午後1時半、両院議員総会が開催された。
いつになく神妙な面持ちの石破茂総理総裁は冒頭、マイクを持つと、「(参院選の)大敗は私の責任。幾重にもおわびしんければならない」と語り出した。
この冒頭発言の瞬間、出席していた議員の一人はこう振り返った。
「おっ、ついに退陣表明か、と身を乗り出したよ」
しかし、すぐにそれは勘違いだと知ることになった。それが冒頭の発言だ。
「しかるべき時に決断する」
決断すると言うが、肝心の退陣時期には言及しない。つまり、石破総理は「俺はまだ辞めないよ」と続投宣言をしたことになる。
前述の議員は「思わず隣の同僚議員と目を見合わせたよ。『責任から逃れない』『地位に恋々としない』って言っておいて、だけど辞めませんって意味が分からん」
政権を支えた森山裕幹事長が進退伺を出し、残りの党四役の3人はすでに辞意を表明している。そんな四面楚歌でも「辞めない」石破総理はいったいどんな延命策を頭に描いているのだろうか?
政界取材を進めると、一つの会合にその「秘策」が見えてくる。
その前日に日韓首脳会談を終えた石破総理は24日の日曜、公邸でゆったり過ごし、夕方の午後4時過ぎ、黒塗りの車に乗り込み、東京・丸の内のパレスホテルに向かった。
向かった先は同ホテルの日本料理店「和田倉」だった。
「会食嫌い」で知られる石破総理。筆者の私も「他人と酒飲んでいる時間があるなら、じっくり本を読みたい。読めば読むほど自分には知らないことが多すぎると分かる」と直接聞いたことある。そんな「会食嫌い」がわざわざ貴重な休日の夜に会食する相手は誰だったのか?
会食嫌いの石破氏がわざわざ会食した相手
総理番記者が待ち構えた先に表れたのは、小泉純一郎元総理(83)だった。
真っ先に入った石破総理の後に、さわやかな白色ジャケットを着こなした元総理が後から入る。石破総理と小泉氏に加えて、小泉氏の盟友といえる山崎拓元副総裁(88)、「偉大なるイエスマン」こと武部勤元幹事長(84)、石破総理の最側近である赤沢亮正経済再生担当大臣(64)の5人による会食だった。
平均年齢は77歳というこの5人の会食は3時間近くに及んだ。出席した一人に取材してみると、下座に石破総理と赤沢大臣、上座に小泉、山崎、武部の3氏が並ぶ座組みで日本酒を飲み交わしながら高級懐石料理に舌鼓みをうったようだ。
さて、肝心の会談内容だが、ここに石破総理が授かったある「秘策」があるようだ。
それは「衆院解散カード」だと出席者の一人は打ち明ける。
小泉氏と言えば、「郵政解散」を頭に浮かべる人が多いだろう。自ら「改革の本丸」といった郵政民営化法案はいまから20年前、2005年の8月8日に参院で否決された。
衆院では造反者を出しながらもかろうじて通過した同法案は参院で否決されたことを受けて、反小泉の急先鋒だった亀井静香元運輸大臣は行きつけの料亭でどんちゃん騒ぎの祝勝会を開いていた。
「国民に共感してもらえたら、どんな狂気も奇跡に変わる」
完全に追い込まれた小泉氏は起死回生の「奇策」に打って出た。それが参院で否決された郵政民営化法案を「国民に聞いてみたい」と記者会見して、衆院解散に打って出たのだ。
そして造反した議員には自民党の公認を与えず、「刺客」として次々と対立候補を送り込んだ。その実務を担ったのが選挙を仕切った武部幹事長(当時)だ。
その二人から郵政民営化解散について「伝授」してもらう、それが「大の会食嫌い」が貴重な読書時間の日曜夜に3時間も割いて「和田倉」に駆けつけた理由だったのだ。
筆者は議員を引退する直前に純一郎氏にインタビューをしたことがある。時は麻生政権末期、民主党への政権交代がみえていたころだ。純一郎氏はこう語っていた。
「郵政解散ってのはまさに狂気だった。参院で法案を否決されて衆院を解散したんだから、よくあんなめちゃくちゃなことをしたと思うよ。だけどね、国民に共感してもらえたら、どんな狂気も奇跡に変わるんだよ。総理ってのはそれぐらい権力を、ものすごい権力を持ってんだから。ただ、使いこなすには国民の共感が必要なだけなんだ」
石破総理にとっての「抵抗勢力」とは何か
結果的には地滑り的な勝利を自民党にもたらした純一郎氏の振り返りだ。いまでもそのメモは保存してあるので、16年ぶりに開いてみた。この日の会談でも、純一郎氏は郵政解散を熱く語る場面があり、その様子を石破総理は神妙な表情で聞いていたという。
郵政解散の本質は「私に反対する勢力はすべて抵抗勢力だ」として、法案への反対者には衆院解散したうえで公認権を奪し、刺客を立てて徹底的に潰しにかかるという自民党内の権力争いだった。
そのときに亀井靜香氏は公認されずにあの「ホリエモン」を刺客に立てられた。いまは「影の総理」といわれる森山幹事長も公認されずに自民党を追い出されている。その劇場型の対立が国民的な熱狂となって、自民党と純一郎氏に地滑り的な大勝利を与えた。
それでは石破総理にとっての「抵抗勢力」とは何か。それは「裏金」と「旧統一教会」という旧安倍派の面々だ。まさにいま「石破降ろし」に動いている抵抗勢力といえる。
生き残るには純一郎さんの真似をするしかない
ある石破氏に近い自民党の閣僚経験者がこう語る。
「衆参両方の選挙で負けたんだから、石破政権は死に体だ。生き残るには純一郎さんの真似をするしかない。そのためには進次郎を幹事長にして、裏金議員と旧統一教会とつながっていた議員をすべて非公認にして、『刺客』を立てればいい。
刺客はSNSで公募すればいい。ネット世代の若者や女性をどんどん公認して送り込む。令和版の郵政解散しかないね」
実際に、総理周辺を取材していると、ここまで振り切れるかどうかは別として、起死回生の一手として「小泉進次郎幹事長」というのは想定にはあるらしい。
もちろん、進次郎氏本人が受けるかどうかは分からない。進次郎氏は菅義偉元総理から「自民党が割れるようなことになってはいけない」と言われているからだ。
ただ、石破総理は参院選大敗直後に周辺にこうこぼしたことがある。
「誰がここまで自民党をだめにしたと思っているんだ。俺じゃないだろう。裏金議員たちじゃないか」
昨年秋の衆院選では「裏金議員」を非公認にした一方で、刺客の擁立までは踏み込めなかった。そればかりか投開票日の3日前に、非公認にした裏金議員たちにも公認した議員たちと同様の「2千万円」の選挙資金を振り込んでいたことが発覚。衆院選に大敗して少数与党に転落する原因となった。
石破―小泉ラインで「裏金議員一掃解散」を仕掛ける
それを主導した森山幹事長に代わって、「狂気と熱狂の解散劇」を演出した元総理の次男坊を選挙の指揮参謀役である幹事長に抜擢。石破―小泉ラインで「裏金議員一掃解散」を仕掛ける――。
この「秘策」が石破総理の頭の中にあることはまちがいない。まさに劇薬だ。
いまもっとも自民党から離れている都市部の若者・女性への「石破政権への関心」を引きつける。メディア報道も一色に染まり、退陣論を吹き飛ばす。一時的には支持率が爆上がりするだろう。
自らの延命のために本当に「自民党をぶっ壊す」。8月24日の3時間会食で伝授されたこの「秘策」を実行に移せる狂気と覚悟が石破総理にあるのか。その答えは週明けの8日の「総裁選前倒し」の意思確認のあとに見えてくるだろう。
文/長島重治