台風シーズン到来で進路予想と対策は?「最悪」想定し準備 工学研究科の中條壮大准教授 明解!大阪公立大ゼミ(18)

今年も台風のシーズンがやってきた。気象庁などによると、今年は台風1号の発生が6月と昭和26年に統計を取り始めてから過去5番目に遅かったが、8月末までに14個が発生。一部は日本列島に上陸した。台風が近づくたびに報道される進路はどのように予想されるのか。どんな備えが必要なのか。大阪公立大大学院工学研究科の中條壮大准教授に詳しく聞いた。
--台風の進路予想の方法を教えてください
「そもそも台風は自力で動けません。周りの風の流れに乗って、気圧の谷を縫うように移動します。そして偏西風に乗り、動きが速くなるのです。それらの要素から、台風の動きを予測します」
--気象庁などが台風の予報円を発表しますが、どこまで正確なのですか
「衛星画像などで台風の位置、強さを特定したうえで、大気の動きを計算して予測しています。さまざまな観測データをもとに算出しますが70%の確率で円内を通るとみられます」
--最近の台風被害でいえば、暴風で流されたタンカーが関西国際空港の連絡橋に衝突するなど、全国で14人の死者を出した平成30年の台風21号が記憶に残っています
「あの台風は昭和34年の伊勢湾台風や、36年の第2室戸台風と似たような進路を進みました。当時の観測データは限定的なので、正確な比較ができませんが、過去最大級の風の強さで大阪を襲ったといえます。進路は想定通りでした」
--伊勢湾台風や第2室戸台風ほどの被害は出ませんでしたね
「台風が大阪を直撃することがわかり、高潮対策として大阪湾に面した三大水門(安治川、尻無川、木津川)を事前に閉めて災害に備えました。また、淀川でも水位が計画高水位を超えましたが、堤防が切れずにすんだので、深刻な水害が発生しませんでした。もともと大阪は水害が発生しやすい地域でしたが、治水対策を進めてきた成果が出たと思います」
--近年は台風接近に伴う鉄道会社の計画運休にも注目が集まります
「2012年にハリケーンが米ニューヨークに接近した際、ニューヨーク証券取引所が全取引を中止にしました。被害を最小限に抑えるため、日本でも計画的な運休が一つの手段となっていますが、最悪の事態を想定したうえでの判断は今後も重要だといえます」
--最近は地球温暖化などの影響で異常気象が続き、台風の進路が迷走気味な気がします
「専門機関などが異常気象と台風の関連について研究を始めたばかりです。現段階ではっきりといえるのは、地球温暖化で大気が安定しつつあり、台風を駆動する対流が弱まるといわれています。その結果、台風の発生数は減る一方で、強い台風が増えるとみられています。台風の襲来は少なくなるが、被害の規模は大きくなるのです」
--なるほど。台風の進路予想が災害対策にとても大切であることがわかりました
「台風の被害は人命にも影響を与えるだけに、最悪の事態を想定して、多様な備えをしておく必要があります。特に淡路島を通過する台風が大阪に被害をもたらす可能性が高いので、進路予想に注視して備えることが重要です」(聞き手 格清政典)
なかじょう・そうた 昭和56年生まれ。堺市出身。大阪公立大の前身、大阪市立大で大学院工学博士課程を修了。平成22年から京都大防災研究所で温暖化影響評価の研究に従事したことをきっかけに、防災に関する研究を進める。令和元年より現職。東日本大震災では出張先の茨城県で被災した。避難所で一夜を過ごした経験が今も心に残るという。