「異常事態」のクマ被害多発 複合的要因か エサの奪い合いで生息域拡大「特異行動」も

なぜ、クマ被害は急増しているのか。
NPO法人「日本ツキノワグマ研究所」理事長の米田一彦氏は被害拡大で「3つの原因」を指摘する。一つ目は、令和5(2023)年生まれのクマだ。「エサとなるドングリ類の豊作で多くの子が生まれた。2歳前後は活発で凶暴性もある」という。
クマの「序列」も関係
次に今年、生まれた子グマと母グマの存在だ。米田氏は「昨年の豊作で今年も多くの子が生まれたが、親子はクマの『序列』としては弱い立場。人間界に近い区域に追いやられている」とみる。
3番目が〝凶作〟だ。「今年はドングリ類が不作。序列の高い大型のクマなども含め個体がエサを求めて動き、弱いクマはさらに市街地へ追いやられている」(米田氏)とする。
「基本は防御が目的」
東京農工大大学院の小池伸介教授(生態学)もクマの生息地分布域が徐々に拡大し、人間との距離が縮まっていると指摘。「クマの攻撃は基本的には防御が目的だ」とする。人里の近くまでエサを探しに来たり、子連れの親が神経質な状況で人間と鉢合わせしたりして攻撃する事例が多いとみている。
ただ〝特異行動〟もある。7月、岩手県北上市の民家で住民の女性がクマに殺害されたが、米田氏は「室内に侵入して人を襲撃するのは極めてまれ。エサの奪い合いが激化し、攻撃性の強い個体が増えているかもしれない」と話す。
子熊が越冬して居座り
市街地で子連れの母グマが駆除され、放置された子グマがそのまま越冬すると「アーバンベア」となる。残飯など食べ物も多い人間界の実情を知り、居座るようになれば人間への恐怖心も薄まるとして警戒を求めている。(橋本愛、海野慎介)