9月17日、トヨタ自動車はカローラ(セダン)、カローラ・ツーリング(ワゴン)を発売した。このあたり正確に書こうとすると複雑だ。すでに先行して昨年6月に刷新済みのハッチバックモデルであるカローラ・スポーツも、今回セダンとワゴンのデビューを機にアップデートされた。
併せて、旧型のカローラ・フィールダー(ワゴン)とアクシオ(セダン)は、依然カタログモデルとして併売される。念のために書いておくが、これは2012年デビューの古参兵であり、もう根本的に別のクルマだし、レベル的には最新のカローラと月とすっぽんくらいに違う。なお、煩雑なので以後フィールダー/アクシオはフィールダーとだけ書く。
月とすっぽんが併売されること
トヨタについていろいろ取材してきて思うことは、2010年前後デビューのトヨタ車の出来はありていにいってひどい。売れているモデルでいえば、ヴィッツもそれをベースにしたアクアもプリウスαも、そしてこのフィールダーもだ。早く引っ込めて新型に切り替えてほしい。
何となくリーマンショックの影響かとも思わないではないが、10年の暮れにデビューしたヴィッツにとっては、リーマンショックに襲われた08年秋はあらかた開発が済んだタイミングだろうし、微妙に腑に落ちない。なぜこの時期のトヨタがひどいのかは、筆者としてはトヨタ研究のテーマの一つだ。けれどどうもいまひとつ線がつながりきらない。
まず2000年代のトヨタが、めちゃくちゃイケイケだったこと。これは背景の一つだと思う。毎年50万台ずつ販売が伸びた。2年でスバル1社分である。08年の連結営業利益は1兆7200億円を記録。いよいよ2兆円が見えてきた、というタイミングでリーマンショックを迎え、翌09年にはマイナス4370億円の赤字に沈んだ。
普通に考えて慢心があったのではないか? 量産に次ぐ量産で、生産工程数の削減競争が加熱して、スポット溶接の数を減らすことが手柄になっていたとの証言もある。そういう空気は製品に明らかな悪影響を与えていた。
「トヨタのクルマなんか死んでも乗るか」というカーマニアの意見は、この時代のトヨタ車が作り出したものなのではないかと思う。例えばフィールダーは、まずドライバーの頭の収まり位置がおかしい。フロントウィンドウの視界に対して目の位置が高すぎる。リヤシートの膝元スペースのカタログ数値を大きくしたいあまり、ドライバーを前に押し出し過ぎている。
そのためシートポジションが実質の空間に対して異様にアップライトで、頭の高さが上がってしまっているし、その姿勢にとって困ったことにペダルオフセットが大きい。アップライトな姿勢だと、脚をひねってペダルを踏む動作が人体構造的に辛い。加えて、シートの出来も残念だ。いろいろな意味でフィジカルの環境が悪い。
ステアリングはブッシュのコンプライアンスが大きすぎ、入れた舵角に対して横力が増えるにつれてタイヤの切れ角が減る。安全といえば安全だが、ステアリング系統が居眠りをしているのかと思うほど退屈。そのくせ真っ直ぐ走るのも不得意とくる。
デビュー時はまだしも、技術進化を経て今やトヨタのダメなクルマを代表するようになってしまっている。しかも、それをTNGA世代と並べて売るというのだから、筆者はそこについてトヨタの正気を疑う。強く言うが「これでもトヨタブランドとして可とするなら、TNGAで良くなった部分なんて大した価値がない」と言っているに等しい。分かる人にしか分からない差だと思っているのか?
筆者は、TNGA後、トヨタのクルマは圧倒的に良くなっていると考えている。全車を一斉にモデルチェンジするのは不可能なので、やむを得ずモデルによってまだらにならざるを得ないのは理解するが、新型カローラ・ツーリングのある今、フィールダーを併売するのは理解できない。黒歴史として早く封印すべきだと思う。どうしても値段が高いというユーザーには、プロボックスHVに乗用モデルを用意した方が誠意を感じる。
TNGAカローラ総評
と、フィールダーについての言いたいことを書き募ってしまったが、新型カローラ・シリーズはどうなのか? これはだいぶ素晴らしい。完璧とはいわないが相当に良い。
まずはシャシー。このプラットフォームには言うべき点が3つある。
まずは一つ目は、路面がザラザラなところでうるさい。タイヤ踏面と路面の間でノイズが発生する。本来をそれはタイヤの内部で減衰されてある程度静かになるものだが、エコタイヤはそれを減衰しない。なぜならば振動を減衰させるということは、言い換えればエネルギーをゴムのヒステリシスロスで熱に変換して捨てるということであり、減衰はイコール燃費の悪化なのだ。だからエコタイヤを使う以上、ノイズは発生してしまう。それがサスペンションを経由して床板を振動させ、それが骨格全体を伝わって共振し、ボディ全部が鳴る。
これはGA-Cプラットフォームと呼ばれる、現行プリウスでデビューしたこのサイズのシャシーの欠点である。ただし、今回それが少しだけ軽減されたような気がする。
2つ目は、わずかながら残るペダルオフセット。先代から比べたら「そんなに目くじら立てなくても」なのは分かっているが、やはりマン=マシンインターフェースは重要だ。ほかのこととちょっと違う。理想というにはあと少し届いていない。だからといって不合格というものでもない。ちょっと表現は難しいけれど、一言いいたいくらいにはまだ改善の余地がある。
3つ目。このGA-Cプラットフォームの一番の美点は、コーナーリング中の身のこなしだ。サーキットでシゴいても音を上げないし、挙動のひとつひとつがよく躾(しつ)けられていて曲がるのが楽しい。しつこいがフィールダーと同じメーカーが作ったクルマとは到底思えない。
しかし、昨年カローラ・スポーツがデビューした時、ちょっと気になる問題があった。それはシャシーの感度が高すぎることだ。ご存じのように、路面はいつも鏡のように平らというわけではない。こういうのをアンジュレーションと呼ぶのだが、ドライバーがハンドル操作をしなくても、タイヤはアンジュレーションを受けて自然に横力を発生してしまう。操作にビビッドに反応するクルマ、つまりよく曲がるクルマはアンジュレーションでも動いてしまいやすい。これに対して適度に鈍感にしつけないと、運転していて神経を使うことになる。
カローラ・スポーツはそういう意味では良くも悪くも素直で、アンジュレーションでチョロチョロするクセがあった。曲がることを得意とするシャシーと考えるのならば、それは青筋立てて非難するほどの欠点ではなかったが、東京から名古屋までカローラ・スポーツで行けといわれたら、ちょっとそのクセが頭をよぎる程度には嫌だった。
今回の刷新で、それが見事に直った。セダンとツーリングだけでなく、ハッチバックのスポーツも今回手を加えられて、「ズン」と真っ直ぐ走るようになったのである。
何をやったのかと聞けば、前後のピッチングのタイミングを調整していったのだという。目的はドライバーが感じる車両の動き、特に目視情報とクルマの動きを揃えてやること。具体的にはダンパーの減衰レートを下げる方向で前後のバランスを取り直した。
それでなぜ直進安定性が上がったのかといえば、おそらくは、その補正のおかげでアンジュレーションで横力が発生する瞬間に、タイミング良く舵を当てられるようになったのだと思われる。真っ直ぐ走るというと、何もしないでただ直進するのだと思うかもしれない。しかし直進安定性は、路面や風といった外乱に常時乱される進路を、いかに早期かつ少量かつ短時間で補正できるかに掛かっていて、実質的には微少なコーナリングの連続なのだ。
その結果、カローラは、セダンもツーリングもスポーツもみな真っ直ぐ走るクルマに仕上がっていた。過去1年にカローラ・スポーツを買った人は少々気の毒だと思うが、技術の進歩とはそういうものなので仕方がない。
それぞれ乗ってどうなのか?
総じて、今回のカローラはみなスポーツ寄りだと思っていい。曲がるのが得意で楽しい。スポーツセダンでありスポーツワゴンであり、スポーツ・ハッチだ。
個別に見ていこう。今回のセダンはとてもスタイリッシュで、従来、Cセグメントセダンというと、どうしても後ろ姿の安っぽさが拭えなかったものだが、今回はそのリヤビューに明らかに良いもの感がある。おそらくは3ナンバー幅に拡幅したことがスタイルに効いている。
予想外で面白かったのはセダンのガソリンモデル。自然吸気1.8リッターの何の変哲もない仕様だ。ただの廉価モデルと思っていたら、ハイブリッドユニットもバッテリーもないおかげで車両の動きが軽やかになっている。パワーこそ控えめだが、シャシー的にはいっぱしのスポーツセダンで、山道ドライブはさぞかし楽しかろうという仕上がり。全モデル中で、比較するとこれだけがわずかながら直進能力が落ちるところがあるが、瑕疵といえるほどのものではないし、それを帳消しにできるくらい気持ちよく曲がる。
横浜の首都高と一般道を含めた50分のルートを走った燃費は14キロ程度だった。少なくとも悪くはない。似たような装備で比べるとHVよりおおむね50万円安く買えると考えると、お値打ち感は高い。
シートはファブリック(布)が標準で、高グレードに合皮が採用される。筆者は基本的に布シートをお勧めすることが多いのだが、カローラに限っては合皮の方が良い。シートの骨格もウレタンも同じなのだが、表皮の張りが違う分、座り心地が変わる。
そしてHV(ハイブリッド)モデルだ。上述の1.8モデルから乗り換えると少し重さを感じるが、比べなければ気にならないレベルだろう。むしろ高速では重さが直進安定性でプラスに作用しており、高速巡航が重要な人にはHVが有利だ。しかも燃費は20キロ。今回のカローラ全体で真打ちはおそらくこれだ。
ついでツーリングのHV。ワゴンが少なくなった今、これが出てきたのは朗報だろう。運転するとセダンよりやはり少しだけ後ろが重い感じがするが、どっしり感が好印象ともいえる。車両の性格を考えるとこれも良いバランスだ。荷室の使い勝手は普通。バッテリーがあるので荷室の床下収納は実質ないが、そのほかに特に欠点は見当たらない。
最後にハッチバックであるカローラ・スポーツのHVだ。筆者個人の好みとしてはこれが一番良かったが、昨今の世情では、Cセグメントのハッチバックはちょっと商品として角度が付きすぎており、多くの人にお勧めするものではない。が、自ら欲しいという人には唆(そそのか)したいくらいには良い。
さて、このクラスの話でいつも話題になるのはゴルフを超えたか超えないか。正直なところ、一長一短。シートや空間の作り方あたりではゴルフが上、ステアリングのもてなし感というか、切り足して行くときの機械としての操作感の上質な感じなどはカローラの方が高い。先入観を捨ててみれば、カローラの方がもてなし感は全体に高い。
車両価格を250万円もしくは、300万円のラインで切ってしまえば、それは言い換えればこのクラスを候補にする普通のユーザーの条件で見れば、エコ性能はカローラの圧勝だが、値段を気にしないなら向こうにはディーゼルもEVもある。
過去の実績に鑑みれば、製品の耐久性もトヨタが圧勝。昔は「壊れるのは嫌だけれど、かといって完動時にフィールが悪いクルマに乗る気にならない」ということもいえたのだが、今世代の出来だと、完動時のフィールはいい勝負なので、信頼性の高さはプラスになるだろう。
勝ったか負けたかは、買う人が何を大事にするかによるだろうが、少なくとも新世代カローラは世界のトップランクにいることは間違いない。
(池田直渡)