’25年に後期高齢者数は過去最多を更新する見込み。要介護者が急増し、費用の高騰と人手不足を機に、介護による貧困化が加速し始めた。ただでさえ困窮する氷河期世代の生活が一気にどん底に転落するリスクが高まっている――。介護に翻弄された末に行き着く先とは? 超高齢化社会の日本が直面する大問題に迫った。◆介護殺人は年間1000件は起きている!?経済的に困窮しながら親の介護をする場合、介護サービスを受けられないなど、多くのリスクを抱える。精神的に追い詰められた結果、虐待に走ることも。厚生労働省によれば、養護者による高齢者虐待は増加傾向が続き、’23年度の発生件数は1万7100件に上る。発生要因の1位は介護疲れ・介護ストレスだ。暴力がエスカレートした場合、介護殺人という最悪の結末を迎える。これまで約30件の介護殺人を担当した弁護士の神尾尊礼氏が解説する。「介護殺人の犯人も多くが、1年のうち364日はきちんと介護をしている。ところが、粗相をしたり、言うことを聞かなかったり、些細なことで手を上げた結果、偶発的に死に至ったケースが圧倒的に多い」研究者によれば、介護殺人の年間発生件数は約40件。だが、実際はもっと多いという。「起訴されるのは2割ほどで、大多数は裁判にならないのです。というのは、暴力はあくまで引き金で、持病や既往症と相まって死に至るケースがほとんど。暴力と死の因果関係が証明できないため起訴されない。こうしたケースも含めれば、介護殺人は年間1000件は起きているでしょう」◆高齢の母に手を上げた介護当事者の心理介護虐待をしてしまう人はどのように追い詰められていくのか。53歳だった’14年に認知症を発症した80歳の母親の介護を始めたのは、科学ジャーナリストの松浦晋也氏だ。50代・単身・実家暮らしと氷河期世代と重なる部分も多い松浦氏は、2年半に及んだ自宅介護を“敗戦”と振り返った。「熱心に介護すればするほど、親の抵抗に遭う。介護のプロを早期に入れるべきでした。プロでさえ自分の親の介護はできないと言う。家族が介護するのは現実的ではない」奮闘する松浦氏だったが、ストレスは日に日に蓄積し、介護開始から2年半ほどたった頃、ついに限界に達する。「母の過食が再発し、夕食が少しでも遅れると買い置きの冷凍食品を食べようとして調理できず、台所に散らかすのです。『母を殴れば、さぞ爽快だろう』『明日もやったら殴れ』と、悪魔の囁きが聞えました。本気で殴れば、下手をすれば死んでしまう。理性では絶対いけないとわかっていました。ところが翌日、夕食の買い物が遅れ、大急ぎで帰宅すると冷凍食品が散乱している。