半年前の投稿が突如「炎上」、排外的なデマがみるみるうちに拡散…対応に苦慮する自治体

インターネット上の排外的な誤情報の拡散が原因で、自治体が対応に追われるケースが出ている。福岡県内では外国人が絡む三つの事案が相次いで「騒動」に発展した。いずれも自治体側の説明などで沈静化したものの、外国人が標的にされやすい実情が浮き彫りになった。有識者は「デマの拡散には、公的機関の迅速で明確な火消しが求められる」と指摘する。(田中浩司、饒波あゆみ)

「不本意な形で広まり、残念だ」。北九州市の永井佑市議(35)は困惑気味に話した。永井市議は2月、同市教育委員会が1日だけ実施した「にこにこ給食」について、自身のSNSに「食物アレルギーに配慮し、ムスリム(イスラム教徒)など宗教にも配慮した給食が実施されるようです」と投稿した。
にこにこ給食は、多くの児童・生徒が同じ献立を食べられるように、食物アレルギーの原因となる食材28品目を除去する取り組み。豚肉も除去対象で、結果としてムスリムも食べられる献立になっていた。
ネット上に残る永井市議の投稿が突如「炎上」したのは、半年以上過ぎた9月中旬。ネット上の様々な情報と結びつけられ、「北九州市でムスリムに対応した給食が始まった」という誤情報が拡散した。SNSには「ムスリム配慮はいらない。ここは日本」「売国奴」など多数の抗議コメントが次々と書き込まれた。
市には同19日以降、電話やメールで1000件以上の抗議が寄せられ、市教委は同24日に開いた記者会見で「ムスリムに特化した給食の提供を決定した事実はない」と否定した。その後、抗議は減ったものの、「宗教よりアレルギーに配慮しろ」などの意見が断続的に届いているという。
永井市議は投稿の意図を「どの子も食べられる給食ということを伝えたかった」と説明し、炎上については「特定の対象を標的にするのは、暮らしの余裕のなさが背景にあるのではないか」と推し量った。

市教委の会見の2日前、福岡県も同様の「打ち消し会見」を行っていた。中国在住の人物が代表を務める不動産会社が朝倉市で計画している大規模マンション建設を巡り、「県が(開発を)許可した」とネットで拡散され、「許可していない」と明確に否定した。
事業者は昨年5月の地元説明会で、入居予定者は「中国40%、香港・台湾40%、日本・韓国が20%」と説明した。その後は動きが止まっていたが、今年9月に建設中止を求める署名活動が広がった。県には問い合わせの電話などが約100件寄せられた。
事業者は読売新聞の取材依頼に応答していないが、10月、ウェブサイトに「一般的な分譲マンションで国籍を問わず販売」「特定の国籍者の移住を推進する目的はない」とコメントを掲示した。県の担当者は「申請があれば基準に照らして審査する」と話した。

SNS内で自浄作用が働いたケースもある。
「福岡市が来年4月に中国から800人を公務員として受け入れる」。9月29日、SNSに投稿された情報は、別の人物が「至急拡散してください」と書き込むと一気に広がり、市には事実確認など計100件超の電話があった。
その数時間後。誤解を招く投稿に利用者が背景情報を付加できる「コミュニティノート」機能で、「2012年の記事をもとにした古い内容。中国公務員の海外研修で、結論として受け入れは行われませんでした」と注意喚起された。抗議の殺到には至らず、静観した市の担当者は「今回は発信する必要がなかったが、どこまで対応するか難しい面もある」と話した。

同時期に起きた3事案は、時間を経てネット上で掘り起こされたのが特徴だ。7月の参院選で外国人政策が争点に急浮上し、排外主義が話題となったことが影響した可能性がある。
同様の動きは全国でも起き、国際協力機構(JICA)が4市をアフリカ各国の「ホームタウン」に認定した交流強化事業は9月、誤情報の拡散などを契機に撤回に追い込まれた。高市内閣は外国人増加に伴う国民の不安を和らげるため、外国人政策見直しを打ち出しており、こうした社会情勢への影響が注目される。
迅速な火消しが重要

早稲田大学文学学術院の田辺俊介教授(政治社会学)の話「JICA事業のように『止められる』という成功体験になり、必要な外国人政策がやりにくくなるのは一番悪いパターン。デマは後手に回ると臆測が広がり、収拾がつかなくなる。公的機関が早めに火消しすれば情報を中和できる」