今年9月、札幌に2か所目となる児童相談所が開所しました。児童福祉の根幹を担う場所で日々、子供たちや、その家庭と向き合う職員の仕事とは、どんなものなのでしょうか。子供を守る最後の砦といわれる児童相談所の現場です。
《整理整頓は?食事は…?家庭訪問で状況確認する児童福祉司》
札幌市の児童福祉司、西澤耕平さんは、担当する2軒の母子家庭を、これから訪ねるところでした。
児童福祉司 西澤耕平さん(36)「いまから清田区のほうの家庭訪問に行くので…」
児童虐待や非行、そして身体や発達の障害など、さまざまな相談を受け、支援につなげていく仕事に、西澤さんは日々追われています。
児童福祉司 西澤耕平さん(36)「整理整頓ができているか、ご飯作っている様子があるか、児童相談所が状況の確認をできていないと、それこそ事件が発生したり、大きなことが発生したりする可能性が十分あるので」
児童相談所が対応する事案は、虐待だけではありません。4つの担当課のうち、西澤さんが所属するのは相談判定課です。一つとして同じケースがない中、それぞれどのような支援が必要なのか。その手立てを探るのが、児童福祉司です。
西澤さんが勤務するのは『札幌市東部児童相談所』。今年9月に開所した、札幌で2か所目の児童相談所です。
《札幌の虐待件数は年間2500件ほど…深刻な高止まり状態》
貴田岡 結衣記者「担当課の職員たちが集まり、緊急で会議を行っています」
幼い子供が、心理的虐待を受けている疑いがある―。警察から新たな通告が『東部児童相談所』に入りました。札幌市が認定した直近5年間の『虐待件数』では、毎年度2500件ほどと、深刻な高止まりの状況が続いています。
『東部児童相談所』では、児童福祉司のほか、児童心理司や看護師、医師など120人ほどが業務にあたっています。
一時保護所担当の保育士「このドアの先が子供たちが生活しているユニットのエリアになります」
『東部児童相談所』には、一時保護所も併設されています。緊急時には、36人の子供を受け入れることが可能です。
児童相談所による一時保護は、緊急保護をはじめ、援助方針を決めるための保護、生活指導の目的があります。現在、一時保護を必要とする事案も多く、満床に近い状態が続いています。
具体的に施設内はどんな作りになっているのでしょうか。プライバシー保護などの観点から、記者や取材カメラの入室は難しいため、一時保護所を担当する保育士にカメラを渡し、撮影してもらいました。
一時保護所の保育士「こっちが廊下で洗面台がありまして各個室になっています」
『東部児童相談所』の一時保護所は、できるだけ家庭的な環境作りが工夫されています。
《児童福祉を支え、子供を守る最後の砦〝児童相談所〟》
一時保護所担当の保育士「僕たち出来るところは最後の砦。ここが崩れてしまうと児童福祉の根底が崩れちゃうんじゃないかという思いがある」
児童福祉司の西澤さんが、担当する家庭に電話を入れていました。
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん(36)「もしもし、札幌市東部児童相談所の西澤と申します。先日行った検査の結果について、ご説明に来週とか自宅にお伺いできたらと思ったんですけれど…」
職員の机に一台ずつ置かれた電話。その先に、さまざま様々な支援を繋いでいます。
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「すみません。ありがとうございました。失礼します。すごい…電話に出てくれた」
電話を終えると、西澤さんは急いで別の部屋に向かいます。
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「これから定例会議になるので、援助の方針などを話し合います。一時保護するとか解除するとか、あと一時保護が長くなっているお子さんについて、児童相談所としての検討とか」
西澤さんは現在、一時保護の5人と継続支援の子供20人ほどを担当しています。この日の定例会議では、西澤さんが担当する一時保護所にいる女の子のケースが検討されました。
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「一時保護所の中でも集団生活をしていないので、その辺りの行動観察の部分も取れていない」一時保護担当「最近は少しずつ、職員との関係もできて、とても頑張っているという印象は受けている」家庭支援課長「窃盗とか暴力行為ってADHDといった障害的なものを起因とした感じ?」相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「家庭環境が大いに関係あるかな、愛着(障害)の認められなさとか」
医療的な支援は必要か。家庭の様子はどうかー。複数の人が集まって、さまざまな視点から「児童相談所としての判断」を模索します。
《”児相の在り方”が問われた、札幌の2歳女児虐待死事件…》
札幌では6年前、児童相談所のあり方が大きく問われる出来事が起きています。2歳の女の子が、虐待を受け、衰弱死した事件です。“未然に防ぐことができたのではないか…”いまも西澤さんら、児童相談所の職員たちの胸に深く刻まれています。
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「子供のやりたいこと、したいこと。保護者のやりたいこと、したいことと。“児相がこのほうがいいんじゃないか”って思うところはズレていることが大きくて。それを擦り合わせて、なるべく同じ方向を向くようにというのができたらいいが、それに時間がかかってしまったりとか」「“これが最善だったのか”と常に考えて…。“もっとこういう話をすればよかった”とか“もっとこういう視点から話を進めればよかったな”と思う部分は正直よくある」
西澤さんが、児童相談所で働き始めたのは2022年。札幌で起きた虐待死事件は、異動前の出来事でした。しかし、二度と悲劇を繰り返さないために、西澤さんは一人一人と懸命に向き合っています。
『東部児童相談所』には、夜になっても相談が舞い込みます。
家庭支援課 地域支援係 鈴木崇寛係長「要支援の世帯だってことですよね。いま継続指導とかで動いている感じなんですかね」
シフト制で夜間の対応にあたります。『東部児童相談所』がカバーしているのは、札幌市内の白石、豊平、清田、厚別区の4区。札幌中央区にある、もう一か所の児童相談所とも、リモートで情報共有をはかります。
家庭支援課 地域支援係 鈴木崇寛係長「令和元年(2019年)の事件があって、夜間帯の対応を手厚くというところがもちろんある。そこの部分を2所に分かれた後も充実させて継続できる形にした」
家庭訪問を終え、東部児童相談所に戻った西澤さんの姿もありました。
《差し伸べた手が拒まれることも…葛藤の日々》
相談判定課(児童福祉司)西澤耕平さん「児童相談所と名乗るだけで壁を張られる。『え?なんですか?』という保護者はいらっしゃって、児相は取っつきにくいとか、児相が関わると、大ごとになっていると思われてしまうことはあるので、いきなり突き詰めた話をしないとか、日常の会話から相手が困りごとを出せるように意識してやっている」「ケース対応や相談対応が重なることはあるので、そうした精神的に追い詰められるタイミングとかで、保護者や児童から、あまり嬉しくない言葉掛けをされることもある。人間なので落ち込んだり、ちょっと嫌な思いをしたりということも正直ある」
差し伸べた手が、常に受け入れられるわけではないと言います。支援は、年単位にも及ぶこともあり、押し寄せる問題に職員は追われる日々です。
それでも、子どもたちの成長に力をもらいながら。痛ましい事件を再び繰り返さないため、児童相談所の職員たちは、その歩みを進めています。
堀啓知キャスター) 児童相談所が取り扱う事案としては、虐待が多い印象ですが、発達障害であったり、家庭内での非行であったりなど、対応に行き詰ってしまった保護者からの相談も受け付けているんですよね。
森田絹子キャスター) 西澤さんも、虐待事案のその後の支援や障害に関わる担当課に所属しています。児童福祉司のみなさんを取材すると、幼少期という子供にとって大切な時期に関われること。そして一歩一歩成長している姿を見ることにやりがいを感じているということです。
堀啓知キャスター) 何かしらの困難さを抱える子供や家族をどう支えていくのか。支援任せでなく、地域でも考える必要があります。