高市早苗首相は10日の衆院予算委員会で、自民党総裁選の演説会で自身の地元奈良の鹿に関して発言した内容を撤回するよう求められ、「撤回しろといわれても、撤回するわけにはまいりません」と、強い調子で拒否した。
立憲民主党の西村智奈美議員の質問に答えた。
高市首相は総裁選の演説会で、一部の外国人観光客が奈良公園の鹿に危害を与えているような動画が拡散されていたことを念頭に「奈良の鹿を足で蹴り上げるとんでもない人がいる。外国から観光に来て、日本人が大切にしているものを痛めつけようとする人がいるとすれば、何かが行き過ぎている」と指摘。外国人観光客に対する発言として批判されたが、高市首相はその後の討論会で「自分なりに確認した。奈良公園の鹿も被害を受けている」として、根拠があっての発言だと繰り返し主張した。
西村氏に、あらためて根拠を問われた高市首相は、今年4月に県が県立の都市公園条例施行規則の運用を一部改正し、鹿への暴行などを禁止行為として追加したことや、奈良県警のDJポリスが英語や中国語で注意喚起を行っていることに触れ「ルールを逸脱するような行為があるにもかかわらず、見て見ぬふりをすればかえって、国民のみなさんが不安を感じるし、ルールを守って暮らしておられる外国人の方が住みづらくなることもある。しっかりルールを守っていただくことは大事と考えている」と述べた。
これに、西村氏は外国人だけでなく日本人も鹿への暴行で有罪判決を受けたケースがあるとして「外国人だけの問題なのか」と指摘。高市首相は「外国人だけの問題ではない」とした上で、日本人による鹿への加害行為は報道で把握していることを明かした上で、自身が子ども時代から「奈良公園の鹿に関しては神様のお使いでとても特別な扱いをするということ」を学び、特別な思いを持っていると口にした。
その上で「(総裁選での発言は)けして排外主義ではない。特にコロナ禍の後で、ものすごい勢いで観光客が増えた。日本人以上に、なかなかルールを知るすべがない外国人の方による残念な行為が目立ってきたのも事実。そういうことには対応していかないといけない」とも訴えた。
西村氏から「不確かな情報が、外国人の方々への的外れは誹謗(ひぼう)中傷になっていることを、危惧している」と指摘されると、高市首相は「まず、私の発言は不確かな情報に基づいたものではないと理解してほしい」と反論。「私自身が経験したことや、観光事業者の証言も複数あり、条例の運用改正も行われた。外国人をことさら批判しているのではない」とした上で「外国に出る時は、その国の文化や禁じられていることを調べていく」として、さきの外遊でも「着ていくスーツの色が、相手の国のおめでたい色やそうではない色もあるし、そういうことを考えながらパッキングする。相手の国に行った時は、相手の国の文化や風習に合わせたルールを守る。外国人の方が差別されないためにも大切なことと思っている」と訴えた。
西村氏は「総裁選の時の発言は、外国人の問題として指摘したと、みんなが受け止めた。日本人もやっているのに、なぜそこで外国人のことだけを言ったのか。総理になろうとしている場で、あのような発言は私ならしない。ああいう場で言うようなことではないと思う」と食い下がり、「あの発言は撤回すべきではないか」と、発言の撤回を求めた。
これに対し、高市首相は「現在の私は、内閣総理大臣としてここに立っている。あれは自民党総裁にもなっていない中での発言」とした上で「一定の根拠があって申し上げたことだ。私は、外国人との秩序ある、いい形の共生を実現しようと思っている。総裁選のさなかの発言について撤回しろと言われても、撤回するわけにはまいりません」と、強い調子で突っぱねた。
西村氏は一瞬、言葉を失ったが「大変残念です。今後も十分注意していただきたい」と指摘するにとどめた。