高市・維新「社会保障改革」に立ちはだかる日本医師会――開業医“儲け過ぎ”を明らかにした調査結果に猛反発していた!

自民党と連立を組む日本維新の会は、年間の医療費を4兆円削減することで現役世代の負担を年間6万円減らすという目標を掲げているが、そこには大きな壁が立ちはだかっている。関連の政治団体が多額の献金を自民党にしている日本医師会(日医)の存在だ。
診療所を経営する開業医の利益団体である日医は、自らの既得権を守るため、これまで「票とカネ」を武器に自民党に大きな影響力を及ぼしてきた。その実態を克明に描いた 『日本医師会の正体 なぜ医療費のムダは減らないのか』 (文藝春秋)から、開業医が高い利益を得ていることを明らかにした調査結果について記した部分を抜粋して紹介する。
◆◆◆
診療所の内部留保は1億2400万円
「『お前たちは休日返上で働いて、その分、儲けたからいいじゃないか』と、そういったことを言わんばかりの資料が掲載されたことは極めて残念です」
2023年11月2日、東京・本駒込の日本医師会館。前日に行われた財政制度分科会の社会保障をテーマにした議論を受け、日医会長の松本吉郎は急遽、記者会見を開き、財務省が医師らを“お前呼ばわり”したかのようなけんか腰な物言いで、怒りをぶちまけた。松本が目のにした資料は、財務省が財政審に提出した「機動的調査」のデータだった。
診療報酬改定を検討する際の基礎資料としては、厚労省が2年に1度、医療機関の経営に関する「医療経済実態調査」を実施してきたが、調査のたびに対象の医療機関が入れ替わるため、経年的なデータが把握できず、サンプル数も非常に少ないという欠陥が以前から指摘されていた。抜本的な見直しが求められていたが、一向に改善されないため、今回は財務省が独自に医療機関の経営実態の把握に乗り出した。
財務省が各地の地方財務局を動員して集計したのは、都道府県や一部の政令指定都市が公表している医療法人の事業報告書などのデータ。入手が難しかった自治体を除き、38都道府県から2万1939の医療法人の直近3年間(20~22年度)の報告書を入手して経営状況を分析した。その結果、1万8207の無床診療所の平均値で、22年度の収益は1億8800万円と20年度から12%、2000万円増加したことが分かった。診療所の経常利益率(売上高に対する経常利益の割合)は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と急伸していた。
診療所の利益は、本業の医療サービスで得られる医業利益と、受取利息や受取配当金、補助金などの医業外利益からなる。この医業利益と医業外利益の合計を売り上げで割ったものが診療所の経常利益率となる。同じ3カ年度の中小企業の平均経常利益率は2.6%~3.4%で、診療所が大きく上回った。医師の高齢化やコロナ禍などで、業務をかなり縮小した診療所を除けば、経常利益率はさらに高くなるとみられた。
経営が好調な診療所に対し、1750の病院の同じ3カ年度の経常利益率は2.8%、5.8%、5.0%と、すべての年度で診療所を下回った。厚労省による過去の医療経済実態調査でも、診療所の収益率は病院より高い傾向にあったが、今回の財務省の調査でそのことが裏付けられた。その結果、診療所の利益剰余金(内部留保)は22年度が平均1億2400万円で、20年度からわずか2年間で18%、1900万円も増えていた。
院長の給与が経費の5分の1
20年度の厚労省の医療経済実態調査をもとに、財務省で一般診療所の費用構造を分析したところ、平均の年間経費1億5000万円のうち、医師給与は4000万円で、うち院長が3000万円だった。医師以外の医療従事者や事務員らの給与は4000万円、給与費以外の費用は7000万円で、医薬品・材料費2500万円、減価償却費600万円、機器賃貸料300万円などとなっており、院長の給与が経費の5分の1を占めた。日医は医療従事者の3%以上の賃上げを求めていたが、財務省は診療所の費用構造の分析から、増えた分の利益剰余金1900万円は、医療従事者の3%の賃上げに必要な経費(医師以外の医療従事者の給与の合計額4000万円を前提とすると140万円)の14年分に相当すると結論づけ、診療所の医療従事者の賃上げはストック(蓄え)で十分対応できると示した。
財政審の会見録によると、分科会長代理の増田寛也は終了後の会見で、初の機動的調査について「(これまでは)エビデンスに基づくものが欠けているということで、(財務省が)調査せざるを得なかったという分野があった。この調査自体は大変高く評価していますし、極めて中立的な調査だと思っています」と述べた。増田によれば、委員からは次のような意見が出た。
「診療所の極めて高い利益率を踏まえれば、診療所の報酬単価を大きく下げ、マイナス改定とすべきだ。その際に病院については、勤務医の働き方改革や、現場の従事者の処遇をしっかり行うなど、メリハリをつけることが重要である」
「診療所の報酬単価が高いことが診療所の必要以上の開設を促し、病院における医師不足、医師偏在の加速につながる構造となっている。地域別単価の設定を含め、診療所の報酬単価の見直しが必要である」
「財務省は恣意的」と日医会長
財務省の機動的調査で、診療所の高い収益率や内部留保が初めて明らかになり、日医執行部は「診療所を狙い撃ちにした」と受け止めた。松本は会見で、怒りを隠さずに反論した。
「(財務省の機動的調査の対象になった)この3年間は、まさにコロナ禍の変動が顕著であり、コロナ特例の上振れ分が含まれています。そもそもコロナ禍で、一番(収益の)落ち込みが激しかった2020年度をベースに比較すること自体、ミスリードと言わざるを得ません。儲かっているという印象を与える恣意的なものと言わざるを得ません」
その上で、税理士・公認会計士のネットワークである「TKC全国会」が医療機関の決算データを集計した「TKC医業経営指標」をもとに、日医が4400~4800の診療所の「医業利益率」を独自に分析したところ、20年からの3年間の平均は5.0%で、新型コロナ流行前3年間(17~19年度)の平均4.6%と、ほぼ同水準であると説明した。医業利益率とは、経常利益率ではなく、補助金などの営業外利益を除いた医業利益のみの売り上げに対する割合のことをいう。
松本は「さらにコロナ特例などのコロナ対応分を除くと、(20年からの3年度の平均は)3.3%程度と、むしろコロナ流行前よりも若干悪化している可能性があります」と述べ、「診療所の経営は好調」とする財務省の分析を否定した。
ただ、TKC指標に基づく日医の独自分析で、医業利益率ではなく診療所の経常利益率で見ると、20年度が3.8%、21年度8.1%、22年度9.8%となり、約1万8000の診療所を対象とした財務省の機動的調査の数値を全部の年度で上回っていた。
政府関係者は「診療所の経常利益率が高いとする財務省のデータが、日医の独自分析で裏付けられたようなものだ」と苦笑しながら、「日医がどうして診療所の経営状況を医業利益率で説明したのか理解できない。補助金などの医業外利益も院長や医療従事者の給与になっているのだから、医業外利益も含めた経常利益率で説明すべきだ」として、こう続けた。
「日医は収益が落ち込んだ20年度をベースに経常利益率を比較することが恣意的だと言っているが、財務省は医療法人の決算資料が閲覧可能な20年度から3年分のデータで、毎年の診療所の足下の経常利益率が高いと言っているに過ぎない。すごく儲かって、溜まり(利益剰余金)も1億2400万円あるということだ。中小企業や病院の平均よりも経常利益率が高く、しかもその財源は保険料や税金で、それが過剰に診療所に溜まる構造で、『本当にそれでいいんですか』ということだ。その意味で、『これだけ儲かってもいいんです』という日医の主張は理解に苦しむ。医療は公費で、みんなで集めたお金でやっている以上、そこはちゃんと見ていかないといけない」
(文中一部敬称略)
(杉谷 剛/ノンフィクション出版)