日本が事実上の労働移民受け入れを「移民ではない」建前で進める愚策…治安悪化、失業増加の”悪夢”回避法

「一部外国人の騒乱や迷惑行為、凶悪犯罪が頻発し、国民の不安や不満を超えて怒りになっている」
2025年11月11日、自民党外国人政策本部の初会合で、新藤義孝本部長はこう述べた。外国人受け入れにまつわる課題に対し、政権与党がようやく重い腰を上げた瞬間だった。
この会合の背景には、政府の矛盾した政策がある。
その20カ月前、2024年3月、政府は特定技能の受け入れ枠を5年間(2024~28年度)で82万人へと、従来の2.4倍に拡大する方針を閣議決定していた。さらに同年10月には、厚生労働省が、外国人労働者数が230万2587人と過去最高を更新したことを発表。前年比25万人増という急激な増加だった。
受け入れを大幅に拡大しておきながら、噴出した問題への対応を今になって協議する……。順序が完全に逆であるのは明らかだろう。
外国人共生担当の小野田紀美経済安全保障担当相も、同日の会合で「排外主義と一線を画しつつ、毅然と対応することが秩序ある共生社会の実現に必要だ」と強調した。だが、その「秩序ある共生社会」に必要な予算も体制も、まだ発表されていない。
それにもかかわらず、日本政府は2027年には技能実習制度を廃止し、「育成就労制度」へ移行することが決まっている。この育成就労制度は、3年後に「特定技能2号」へ移行すれば、家族帯同や永住への道が開かれる。事実上の労働移民受け入れが、「移民ではない」という建前のまま、急速に進んでいるのだ。
2024年、日本の出生数は70万人を割り込んだ。2040年には現役世代1.5人で高齢者1人を支える社会が来るという深刻な人口減少を日本は迎える。このまま人口減少が進めば、さらに税金は高くなり、公共サービスやビジネスが回らなくなるのは必然だ。そこで、人口減少社会に歯止めをかけるための外国人受け入れの動きとなっているのだが……。
しかし、欧米を見渡せば、かつて移民を積極的に受け入れた国々が今、方針転換を迫られているのをご存じだろうか。
カナダは従来の移民受け入れを2割削減。スウェーデンでは移民帰還政策が来年から始まる。ドイツやフランスも、同様の問題を抱えて移民制限に舵を切っている。
移民を積極的に受け入れていた国々で何が起こったのだろうか。
スウェーデン第3の都市マルメ(人口約36万人)では、外国生まれの住民が約3分の1、そして親が外国生まれなど外国にルーツを持つ住民が約5割に達している。特にローゼンゴード地区では移民背景を持つ住民が多数を占め、失業率も高く、過去にはギャングの闘争や暴動が起きたこともある。
移民比率が非常に高いこの地区では、言語習得や社会的分断が課題とされ、スウェーデン生まれの住民が他地域へ移住する現象「ホワイト・フライト(白人住民の流出)」も報告されている。日本でも、いずれ似た現象が起こらないとは限らない。
スウェーデンの第二の都市、外国生まれが3分の1を占めるヨーテボリに住む50代のマヤさんには2人のティーンの子供がおり、こう話す。
「ヨーテボリは30年前とは随分変わってしまいました。移民が母国の民族紛争をスウェーデンに持ち込んでいます。彼らの中でギャングになった者はそれで抗争を起こしています。ドラッグや犯罪が増えたので、私は子供たちのために高級住宅地に引っ越さないといけなくなりました。スウェーデンに母国の紛争を持ち込む移民は迷惑です」
その結果、スウェーデンは2026年から、自主帰国する移民に最大35万クローナ(560万円)の支援金を支給する制度を導入する。これは「帰還促進」にまで踏み込んだ大きな政策転換であり、統合に莫大な投資をしてきた国ですら持続可能性に疑問を抱いていることを示している。
人口の3分の1に外国のバックグラウンドがあるというのは決して極端な例ではない。ドイツの総人口の約3割も移民背景を持つとされる。その背景には、2015年、シリア内戦で大量の難民がドイツに到着したとき、当時のメルケル首相は「Wir schaffen das(私たちはやり遂げられる)」と発言し、積極的に受け入れたことがある。この言葉はドイツの「歓迎文化」を象徴するものとなった。
しかし現実は、移民背景を持つ若者の失業率はドイツ人より高く、おおむね2倍近い差があり、義務教育未修了率は、ドイツ人の約4倍に達する(2024年ドイツ連邦統計局調べ)。メルケルの「やり遂げられる」という理想と、現実の統合課題の落差は大きい。
移民統合政策において先進国のお手本になって来たカナダは、人口の約23%が外国生まれだ。2025年以降、年間約50万人規模の受け入れを2027年には36.5万人へと段階的に削減すると発表した。これは従来から2割の削減であり、住宅不足と社会インフラの逼迫が主な理由だ。アルバータ州は約4分の1が外国生まれだが、移民の成長率はカナダ国内第一位。
カナダ・アルバータ州身のジョンさん(匿名:26歳)は「正直、僕の周りの若い人たちは国が推進しているLGBTQなんかどうでもよいと思っていて、一番気にしているのは移民問題です。僕の故郷は様々な民族の人が住んでいますが、移民2世3世の若者でさえ、不満を募らせています。大家族で移住してくるので不動産価格が上がり、ビジネスオーナーも移民のほうが安いからと、カナダ人の若者よりも移民のほうに仕事を与えていて、それに不満を持っている若者が多いんです」
環境が異なるが、日本でもこうした不動産価格上昇や仕事を得にくくなる可能性はあるかもしれない。
一方、欧米の苦境とは対照的に、厳格な選別により外国人受け入れを機能させている国もある。シンガポールでは、人口の約31%が外国人だが、社会的摩擦は比較的抑制されている。その鍵は「誰を受け入れるか」の明確な基準だ。高技能外国人にはEmployment Pass(EP)制度を適用し、月給5600シンガポールドル以上(約68万円)などの要件を課す。永住権取得にはさらに高いハードルがあり、結果として高技能人材は定着し、税収・イノベーションに貢献している。
一方、低技能労働者にはWork Permit制度を適用。期限付き就労許可のみで、家族帯同不可、永住権への道もない。雇用主には外国人雇用税を課し、自国民雇用を促進する仕組みだ。この制度には人道的ではないとの批判もある。
しかし「誰を、どのような条件で受け入れるか」を明確にすることで、日本のように「受け入れてから統合に困る」事態を回避している点は注目に値する。
北欧、西欧、北米諸国が、いまや選別的な移民政策に舵を切っているのだ。ただし国ごとに強弱があり、スウェーデンのように急激な転換をした国もあれば、デンマークのように従来から制限的だった国もある。
こういったヨーロッパの移民制限について、ハンガリーのユース・リサーチ・インスティテュート(YRI)のゲオルギナ・キッシュ=コズマ博士は次のように指摘する。
「大量移民は受入国の社会構成を急速に変えます。言語教育、社会統合プログラム、文化的摩擦の調整に、時間とリソースが費やされ、社会が消耗してしまいがちです」
キッシュ=コズマ博士がいうにはコストには、言語教育や生活支援プログラムなどの経済的なコストと、文化的摩擦や価値観間の変容などの社会的コストの2種類があるという。
2022年にYRIがイギリス、フランス、イタリア、ドイツ、ハンガリーで5000人を対象に実施した調査では、61%が「人口減少には少子化対策で対応すべき」と回答し、移民政策を支持したのはわずか24%だった。
さらに、カナダの2024年の調査では、国民の44.5%が「移民が多すぎる」と答え、主な理由として「手ごろな価格の住宅がない」ことを挙げた(世論調査会社エコス・リサーチ)。
「少子化対策で対応」は排外主義の表れではない。数十年にわたる統合の困難を経験した人々の、現実的な判断と見るべきだろう。
実は日本は過去に労働移民の受け入れに失敗を重ねてきた。1989~90年の入管法改正で「定住者」資格が創設され、日系ブラジル人を中心に外国人労働者が急増した。全国の在日ブラジル人は1990年末の約5万6000人から増え続け、2007年末には約31万3000人でピークに達した。
しかし日本語教育や生活支援体制は十分ではなく、非正規雇用に依存する構造が強かった。2008年のリーマン・ショック後には約7万人規模で減少し、多くが帰国を余儀なくされた。長期定住を前提とした政策設計が欠けていたため、経済危機の際に「調整弁」として切り捨てられる構造が露呈した。
それだけではない。日系ブラジル人の子供たちの中には日本語の読み書きが十分に出来ず、親も日本語をサポートできなかったため、不登校になったり義務教育も終えられなかったりした子も続出したという。言語支援や制度的サポートが不十分だと、何の罪のない子供たちが苦しむはめになるのだ。
2008年以降のEPA(経済連携協定)による看護師・介護士受け入れも、構造的な問題を抱えている。累計で約6400人を受け入れてきたが、日本語での国家試験合格が必須とされ、合格率は国内平均を大幅に下回る。例えば2024年の看護師試験では、EPA候補者の合格率はフィリピン6.2%、インドネシア0%、ベトナム16.4%にとどまり、全体平均87.8%との差は顕著だった。
合格できなければ原則4年で帰国となり、現場で重要な役割を担っていても制度上は定着できない。言語教育や統合支援への投資不足が根本的な課題であり、制度設計が「人材確保」ではなく「一時的な労働力調整」に偏っているため、長期的な定着や社会統合にはつながっていない。
日本が直面する深刻な人口減少に対応するには、外国人労働者に来てもらいつつ自国の出生率を改善しなければいけないだろう。
しかし、それならば最低限、①明確な数値目標(年間何万人をどの分野で受け入れるのか)、②予算の明示(言語教育・子供の教育支援・社会統合にいくら投じるのか)、③受け入れ自治体への財政支援、④定期的な政策検証と見直し、が不可欠である。これらが欠けていたために、過去の日系ブラジル人政策やEPA看護師制度は十分な成果を上げられなかった。
大量移民に積極的だった北欧、西欧や北米の国々は、移民受け入れと社会統合に莫大な投資を行ってきた。それでもなお、近年は、選別的移民政策へと舵を切っている。
日本では群馬県大泉町の外国人比率が21%を超えており、文化的摩擦は起きていないようだが、行政サービスや教育現場の負担が自治体に重くのしかかっているという。
埼玉県川口市のクルド人コミュニティに対するヘイトがソーシャルメディアで見られるが、実はクルド人は人口60万人の川口市に1500人ほどしかいないという。
川口市の外国人住民はクルド人以外にもおり、外国生まれは全体で約8%に達していると言われる。重要なのは、川口市では外国人の人数が過去20年で約3倍になっているのにもかかわらず、犯罪の認知件数は逆に約3分の1に減少しているのだ。それでも、ヘイトや文化的摩擦が起きている。
そもそも在留外国人は総人口のわずか3%強に過ぎないのに、すでに排外主義が起こっている日本。
だからこそ日本は「移民ではない」と言いながら事実上の移民を受け入れる欺瞞をやめるべきだ。今後は、どれだけの規模を、どのような支援とともに受け入れるのか、また外国人労働者や移民がもたらす経済的・社会文化的な利益を国民に明示し、彼らが日本社会に溶け込み共生できるように政策と投資を設計しなくてはいけない。
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(ユース・リサーチ・インスティテュート(YRI)研究員・ジャーナルマネージャー/フリーランスジャーナリスト 池田 和加)