ミサイルも魚雷も無し!? 初の新ジャンル自衛艦「OPV」とは? “武装貧弱”でも日本に必須なワケ

防衛省の新艦種「哨戒艦」が横浜市のJMU磯子工場で2025年11月13日、2隻同時に進水しました。艦名は「さくら」と「たちばな」。哨戒艦とは、どういうコンセプトを求めた船なのでしょうか。
海自初の新艦種「OPV」って何の略?
JMU(ジャパンマリンユナイテッド)横浜事業所磯子工場で2025年11月13日、防衛省が発注した哨戒艦2隻の命名・進水式が行われました。「さくら」「たちばな」と名付けられた2艦は、これまで海上自衛隊が保有していなかった新しい艦種で、艦種記号も「Offshore Patrol Vessel」を略して「OPV」というのが使われます。
配備先は、2025年度末に新編が計画されている「水上艦隊」の傘下に置かれる「哨戒防備群」となります。
哨戒艦はJMUを主契約者に、三菱重工業を下請負者として建造が進められています。中国など周辺国の海洋活動の急速な拡大と活発化が続く中、日本周辺海域の警戒監視を平時から長期間にわたって行い続ける艦艇として導入が決まりました。
2023年度の防衛省予算で4隻の調達費用約357億円が盛り込まれており、今回、進水した「さくら」は1番艦、「たちばな」は2番艦に当たります。
主任務である洋上での警戒監視の特性を踏まえて、長期にわたる滞洋性を確保するとともに、乗組員数は約30人という少人数での運用を可能とするため、自動化・省人化を図っているのが特徴的です。
海上幕僚監部の広報担当者は「商船で使われている技術を盛り込み、自動で操舵できる機能を導入している」と説明します。
哨戒艦が搭載する航空機とは
哨戒艦の全長は95m、最大幅12m。基準排水量は1900トンで、機関はディーゼル電気・ディーゼル複合推進方式(CODLAD形式)を採用し、ディーゼル主機と推進電動装置をそれぞれ2基ずつ搭載しました。速力は約25ノット(約46.3km/h)以上を発揮できるようになっています。
ただ、警戒監視という用途に限定することから、固定の武装は30mm機関砲1基のみ。このほかに後日装備として小型UAV(無人航空機)や電磁波情報収集器材を搭載することを予定しています。UAVやヘリコプターの発着艦に対応した多目的甲板が艦尾側に配置されているほか、艦尾揚収装置や多目的格納庫、多目的クレーンも備えます。また、7.5mの複合型作業艇を2隻搭載します。
「多目的甲板では海上自衛隊が運用するSH-60K/LやMCH-101の発着艦は可能だが、ヘリコプターのローターをたたみ、格納庫に入れて行動することはできない。格納庫ではUAVの整備などを行うが、『多目的』と書いてあるとおり、それ以外の使い道もあるかと思う」(海幕広報室)
哨戒艦に搭載される小型UAVは米シールドAI (Shield AI)が開発した垂直離着陸(VTOL)型の無人航空機システム(UAS)「V-BAT」です。同機はわずか4.6m×4.6mという狭いエリアからでも発着可能という特徴を持ち、格納時はピックアップトラックやUH-60の荷台に収まってしまうほど、コンパクトになります。こうした設計によって、2人チームで30分以内に展開することが可能。EO/IR(電子光学・赤外線)ペイロード搭載時の最大飛行時間は12時間で、最大航続距離180kmとなっています。
「V-BAT」は2025年度の防衛省予算で、水上艦艇の警戒監視・情報収集能力を向上させる「艦載型UAV(小型)」として、6機を取得する費用40億円が盛り込まれました。今年6月には、同機の操縦教育を受けるため海自隊員が渡米しています。
地方の中小港湾への接岸も考慮
また、さくら型哨戒艦には、自衛艦としては珍しく艦首喫水線下にバウスラスターが装備されています。これは、タグボートの力を借りずに出入港を可能にするためのもので、これにより十分な設備がない港でも接岸でき、運用の幅を広げています。これに加えて波の荒い外洋で行動することを前提としているため、横揺れを抑えるためアクティブ方式の特殊な減揺装置も採用されています。
海幕広報は「護衛艦(DE)とミサイル艇の役割を併せ持つという感じになる」と説明します。
「ミサイルのような装備はないので、基本的には平素の警戒監視を主任務とすることに特化した仕様になっている。これまでそういった任務をDE(沿岸防衛用の小型護衛艦)やミサイル艇が担いがちだったので、それを代替していくことになる。あぶくま型DEの乗員が120名なのに対して、さくら型は30名になるのでだいぶ少ない。自動航行などのシステムによる省人化もあるが、純粋に武器がないのが大きい。搭載武装が最低限というのは、それに関わる整備員がいらないということであり、そういったオペレーションに関する人数が減っているのが大きい要素と言えるだろう」(海幕広報)
2022年末に策定された現行の「防衛力整備計画」において、さくら型哨戒艦は約10年で12隻を整備する方針が掲げられています。すでに、さくら型は2026年度予算の概算要求で5番艦と6番艦の建造費用287億円を計上済み。なお、2026年3月には3番艦と4番艦の命名・進水が予定されています。
このたび進水した「さくら」は2027年1月に、「たちばな」は同2月に就役する予定です。艦名の由来では京都御所・紫宸殿の正面に植えられている「左近の桜」「右近の橘」についても言及されており、3番艦以降の艦名にも要注目でしょう。(深水千翔(海事ライター))