瀬戸義章(ライター)<沖縄からハワイやアメリカ大陸へ旅立った移民たち。その子孫の「自分は何者か」という問いかけに応じる沖縄県立図書館の取り組みが注目されている>日本が「移民送出国」であった事実を、私たちはどれだけ意識しているだろうか。明治維新から1970年代初頭にかけて、日本列島から海を渡った移民の総数は百数十万人に上る。特に沖縄からは、ハワイや北米、南米へと、多くの人々が旅立っていった。数世代を経た今、移民の子孫が「自分は何者か」という問いを胸に自らのルーツを求めている。その声に応えたのが、沖縄県立図書館の調査サービス「ファインディング・オキナワン・ルーツ」だ。海外に住む沖縄県系人(ウチナーンチュ)たちに祖父母・曽祖父母の渡航記録を伝えるこの取り組みは、先進的な図書館活動を顕彰するNPO法人「知的資源イニシアティブ(IRI)」の「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2024」において、大賞とオーディエンス賞のダブル受賞を果たした。授賞理由は「移民ルーツ調査から始まる国境と世代を超えたコミュニティの形成」という、大きなビジョンだ。サービス開始のきっかけは2016年、ある70代の男性が来館したことだった。男性はハワイへの移民3世で、日本への旅行を機に祖父母の資料がないかと訪ねてきたのだ。手掛かりは名前の発音と生年月日だけ。職員が膨大な渡航名簿を数時間かけて調べ、やっとのことでたった一行の記録を見つけ出した。それでも、彼は泣き崩れんばかりに喜んだという。この出会いが「祖先を探したい」という切実なニーズを図書館に確信させた。同年、沖縄県で5年に1度開催される国際交流イベント「世界のウチナーンチュ大会」に調査ブースを構えると長蛇の列が。ウチナーネットワークを継承・拡大するという県の理念とも合致し、2018年には正式な事業として予算化され、専門的な調査体制を整えた。現在、依頼は年間数百件に上り、ハワイやブラジルで開かれる沖縄フェスティバルにも出張ブースを設けている。図書館が国際的なハブに活動を支えるのは、国境を超えたパートナーシップだ。世界各地の沖縄県人会が、現地での情報提供や調整役を担う。今年8月には、ハワイ沖縄系図研究会と、移民関係資料の提供や共同調査を取り決めた協力覚書も締結した。一方で、海外資料の収集は急務だと、同館で移民関係事業を担当する小波津(こはつ)真紀子は危機感をあらわにする。