日本のタンカーが攻撃されても自衛隊は何もできない…ホルムズ海峡封鎖に祈ることしかできない法律の高い壁

2026年2月28日に発生した、イランに対するアメリカとイスラエルによる攻撃を契機として、中東情勢はその緊迫度を大きく増している。なかでも、イランの軍事組織であるイスラム革命防衛隊は、ホルムズ海峡を通航しようとする特定船籍の外国船舶を攻撃すると宣言し、同海峡を事実上閉鎖した。すでに、タンカーなど民間船舶に攻撃が加えられているうえ、一部報道ではイランがホルムズ海峡に機雷を敷設したとの情報もある。
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾の間に位置し、最も狭いところでは幅が約33キロという海峡である。ここを、全世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給量の約2割がタンカーに積載されて通過するという、まさに世界規模での海上交通の要衝と言える。
そのホルムズ海峡が閉鎖されたとなれば、世界経済に与える影響は計り知れない。もちろん、石油や天然ガスの輸入を船舶による海上輸送に頼っている日本も、例外ではない。
そこで思い起こされるのが、2015年に国会論戦を通じて日本の国論を二分し、翌2016年に施行された、いわゆる「平和安全法制」である。
このとき、まさに国会で議論されたのが「ホルムズ海峡に機雷が敷設された際の日本の対応」であった。
当時、日本政府は、ホルムズ海峡に機雷が敷設されるという状況は「存立危機事態」にあたり得るため、その機雷を自衛隊が掃海することが可能であるという整理を行っていた。あらためて、当時の国会答弁を整理しながら、現在日本は何ができるのかについて考えてみよう。
まず、今回の議論の前提となる存立危機事態とは何かという点から見ていこう。
存立危機事態とは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義されている。
これをもう少しわかりやすく言えば、「日本と密接な関係にある他国に対する軍事攻撃が発生した場合に、日本がその状況で何らの行動も取らず、武力を用いた対処を行わなければ、日本国民に対して日本が武力攻撃を受けた場合と同様の深刻かつ重大な被害が及ぶことが明らかな事態」ということになる。
存立危機事態が認められれば、日本は限定的な集団的自衛権(自国と密接な関係にある他国が攻撃を受けた際、自国が攻撃されていないにもかかわらず、その攻撃に共同で対処することが出来るという国際法上の権利)を行使することが可能となる。
存立危機事態がこのように定義されたのには、日本政府の憲法解釈が大きく関係している。日本政府は、武力行使を禁じた憲法第9条のもとにおいても、日本を防衛するための必要最小限度の実力は行使できるとしてきた。その理由は、他国からの武力攻撃によって「国民の平和的生存権や、生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される」ような事態に対処することを、流石に憲法は禁じていないと解釈したためだ。そのため、日本が直接攻撃された場合は当然として、それと同様の深刻な被害が他国に対する攻撃によっても生じる明白な危険がある場合には、限定的に集団的自衛権を行使できると整理したわけだ。
そして、平和安全法制が国会で審議されていた当時、日本政府は「あくまでも例示」としながらも、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合にはそれが存立危機事態に該当し得ると説明した。
これは、日本が輸入する原油の8割、天然ガスの3割を輸送するタンカーが、ホルムズ海峡を通過しており、もしこれが滞れば、国民生活に死活的な影響、すなわち国民の生死にかかわるような深刻、重大な影響が生じると判断したためである。
そして、法案審議時の日本政府による国会答弁では、どこかの国が別の国に対する攻撃の一環としてホルムズ海峡に機雷を敷設した場合、その機雷を処理することは武力の行使にあたり、かつ日本が攻撃を受けたわけではないことから、集団的自衛権の行使が必要と説明された。そのため、こうした状況に対応するためには、存立危機事態の認定が必要になったというわけだ。
それでは、現状でホルムズ海峡における機雷敷設や船舶への攻撃は、存立危機事態に該当するのだろうか。結論から言えば、それは難しいだろうというのが筆者の考えだ。
これにはいくつか理由があるが、中でも重要なのは「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生し得ないという点だ。これは、平和安全法制が国会で議論されていた際に見落とされていた論点と言って良いだろう。
そもそも、ホルムズ海峡における機雷敷設が存立危機事態に該当し得るための大前提は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、その一環として機雷が敷設されることだ。
日本と密接な関係にある他国とは、「外部からの武力攻撃に対して共通の危険として対処しようという共通の関心を持ち、我が国と共同して対処しようとする意思を表明する国」を指している。
そして、平和安全法制が議論されていた当時の国会論戦では、政府側も野党側も、「日本と密接な関係にある他国との間の武力紛争の最中に、ある国がその国を攻撃する目的で機雷を敷設する」という前提の上で舌戦を繰り広げていた節がある。
たとえば、今回イランが明確にアメリカに対する直接攻撃の一環として機雷を敷設したのであれば、これは問題とならなかった。しかし、実際にはイランは半ば無差別攻撃に近い状態で機雷を敷設し、また自爆型無人機を飛ばしている。
そして、国際法上は民間船舶への攻撃に関して、基本的にその船が掲げている旗の国、すなわち旗国に向けられたものと見なされる。つまり、今回の事例では、イランが武力攻撃を行っている対象は被害船舶の旗国ということになる。
さらに、タンカーなど外洋を航行する大型の民間船舶の場合、運航コストや税制優遇の観点から規制の緩いリベリアやパナマ、マーシャル諸島などを旗国とする、いわゆる便宜置籍船が主流であるため、これらの国々が「日本と密接な関係にある他国」に当たるとは思えない。
また、仮にそこをクリアしたとしても、民間船舶への攻撃が自衛権行使の引き金となる武力攻撃に当たるためには、当該攻撃を行った国が明らかであり、かつ攻撃国がその船舶(より正確にはその旗国)を意図的に狙っていたことが、国際法上の要件として求められる。
つまり、そもそも今回のイランによる措置はホルムズ海峡付近における航行の自由や通航制度に対する違反にはなり得るものの、武力攻撃とまでは言えない可能性があり、かつ被害国の性質も相まって、存立危機事態の認定は極めて困難ということになる。
では、存立危機事態の認定が困難とすると、ホルムズ海峡を通るタンカーの護衛のために日本がとり得る措置としては、どのようなものが考えられるだろうか。
残念ながら、現状の法制度ではその選択肢は非常に少ない。
たとえば、海上の治安回復を目的とする「海上警備行動」では、武器を使用して防護できる対象船舶は日本籍船に限られるため、実効性に疑問がある。一方で、あらゆる船籍の民間船舶を防護できる「海賊対処行動」では、船舶から他の船舶への乗っ取りなどを指す海賊行為しか取り締まれず、自爆型無人機の撃墜などはできない。
一案としては、「武器等防護のための武器使用」がある。
自衛隊法第95条に規定されるこの武器等防護は、日本の防衛力を構成する重要な物的手段たる自衛隊の武器等を破壊や奪取から守るための武器使用権限を、その任務を与えられた自衛官に付与するというもの。
事前に武器等を退避させたり、人に危害を加えられるのは正当防衛または緊急避難に該当する場合に限るなど、武器使用には厳しい要件が課されている。
しかしそのおかげで、日本の領域外で他国軍からの襲撃に対処したとしても、憲法上の問題は生じないというのが日本政府の見解だ。
そして、基本的に武器等防護のための武器使用は、自衛隊が保有する武器等を守ることを目的としているが、その効果がそれ以外のものに及ぶことがあり得る。
たとえば、海上自衛隊の護衛艦が自艦防護のため、接近する自爆型無人機を撃墜したとする。このとき、たまたま民間船舶が護衛艦と接近した状態で並走していたとすると、自艦防護が結果的にこの民間船舶をも防護したことになるが、こういったケースが該当する。
しかも、あくまでこれは自艦防護だから、並走している船舶の船籍に制限はなく、事実上どの国の船でも防護は可能だ。
ただし、これはあくまでも「裏ワザ」の類であって、派遣される自衛官に対して「これで大丈夫だ」と胸を張って送り出せるようなものではない。本来であれば、海上警備行動のあり方を見直すなど、法改正が先決だろう。
また、こうした直接的な護衛活動への参加以外にも、ホルムズ海峡における事態を「重要影響事態(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)」に認定し、そこで活動するアメリカ軍や欧州各国の艦艇部隊に海上自衛隊の補給艦による洋上補給を含めた後方支援活動を実施することも考えられる。
3月12日現在、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡への機雷敷設を実施したと報じられているが、過去には湾岸戦争後に自衛隊艦艇が派遣され機雷掃海任務に従事したことがある。
今回もどこかのタイミングで自衛隊がホルムズ海峡の機雷掃海任務のために自衛隊を派遣すべき、という議論が沸き起こる可能性もある。
ただ、機雷掃海・掃討を行う機雷処理活動に関して、そもそもこれを行う掃海艦艇はほぼ非武装であり、現場における戦闘が終結した後でないと活動を実施することは困難だ。そのため、今すぐに自衛隊がホルムズ海峡に派遣されて機雷の処理を行うような事態は想定されないだろう。
いずれにせよ、天然資源の輸入を海上輸送に大きく依存する日本にとって、ホルムズ海峡の安定はまさに国家の命運を左右すると言っても過言ではない。
それに対して、現状では法的な縛りがあまりにも厳しく、自衛隊の派遣が難しいばかりか、仮に派遣されたとしても動きは相当制限されてしまう。今回の事例を踏まえて、あらためて日本という国のあり方そのものについて、検討が必要ではないだろうか。
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(軍事ライター、国際法・防衛政策研究者 稲葉 義泰)