〈インフレでも生き残る外食チェーンは? 低価格・高価格ともに通用しなくなった国内外食産業の生存戦略〉から続く
高市早苗内閣は4月21日、日本からの武器輸出を制限する防衛装備移転三原則の運用指針を改定した。これまで「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限定されていた五類型を撤廃、殺傷能力のある防衛装備品の輸出が、厳格審査付きで原則可能となった。
【画像】今後、日本から「輸出されるかもしれない」防衛装備品たち
日本は平和主義の大転換期を迎えたことになる。武器の輸出に関しては根強い反対論があるものの、防衛産業が活性化し、軍民両用研究が進んで中小企業やスタートアップが活躍する未来も見えてくる。
オーストラリアの護衛艦購入額は2兆円規模
武器輸出の解禁に踏み切った背景の一つに、日本の防衛産業の衰退に歯止めをかけることがある。自衛隊は装備品の調達の多くを国内の民間企業に依存しており、産業の衰退が安全保障の危機にもなりかねない。
4月21日の会見で小泉進次郎防衛大臣は、防衛装備移転三原則の運用指針の見直しについて問われ、「いわば防衛力そのものと位置づけられる我が国の防衛生産・技術基盤の維持・強化につながるものと認識しています」と述べた。
2025年7月15日に日本経済団体連合会(経団連)は、「わが国の防衛装備移転のあり方に関する提言」を公表。「現状、わが国の防衛装備移転案件の約8割は自衛隊の装備品の修理等にとどまり」とし、防衛産業から撤退する事業者が出ていることや、サプライチェーンの完結性に綻びが生じつつあることを憂慮していた。
事実、日本では防衛産業からの撤退が相次いでいる。2021年4月、住友重機械工業は陸上自衛隊向けの新型5.56ミリ機関銃の選定トライアル中に辞退を表明、次期機関銃開発を中止した。2020年2月にはダイセルが火薬類などの防衛関連製品、2019年2月にはコマツが装甲車の製造から撤退すると発表している。
事業からの撤退は武器の供給途絶の懸念があることに加え、中小企業を中心としたサプライチェーンへの負の影響も大きい。防衛白書によると、戦車関連企業は約1300社、護衛艦関連企業は約8300社ともいわれる。小規模な企業の中には防衛需要依存率が50%を超えるケースもあり、防衛産業の衰退は日本を支える中小企業の体力を奪うことにもなりかねない。
日本の防衛予算において、人件費や糧食費を除いた防衛調達に関連する2024年度の物件費はおよそ4兆円。造船業の3.2兆円、航空機産業の2兆円よりも大きいのだ。武器輸出解禁に合わせてオーストラリアが日本の海上自衛隊の護衛艦を購入すると報じられているが、ブルームバーグによると受注額は1.7兆円から2.3兆円になるという。防衛産業の潜在的な市場は大きい。
そして、防衛産業は国内にある会社への恩恵が大きい点も見逃せない。予算の8~9割は国内向けの支出なのだ。武器の輸出による産業の活性化は、国内の雇用の維持や中小企業の賃金上昇といった恩恵をもたらす可能性がある。
自動車の日産は次々と国内の工場の閉鎖を発表し、ホンダも工場の集約を進めている。自動車産業が苦戦する中で、防衛産業の活性化を歓迎する声も多いはずだ。
政府はデュアルユースなどの科学技術開発に60兆円を投資
武器の輸出は防衛関連の新たな産業を興す可能性もある。
日本では科学技術の軍事利用が戦争を引き起こす一因になったとの考えから、軍事研究に対しては後ろ向きだった。長らく反対の立場をとってきたのが日本学術会議である。日本学術会議は2025年6月に国の特別機関から独立して特殊法人へ移行する法案が成立。2026年10月の法人化に向けて歩き出した。
2026年2月8日投開票の衆院選で自民党が大勝した後の3月27日、政府は2026年から5年間の科学技術政策の方針を決める「科学技術・イノベーション基本計画」を策定。具体的な施策の中に「産学官が連携して、デュアルユース技術の研究開発及び社会実装」を盛り込んだ。
デュアルユースとは軍事と民間の両分野で利用可能な技術や製品を指す。サイバーセキュリティ、全地球測位システム、AI、ドローン、繊維など広範な領域が含まれる。電子レンジや食品用ラップ、缶詰、ボールペンはもともと軍事用品から生み出されたものだ。
2025年11月12日の参議院予算委員会で、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は質疑の際、「もう民間と軍事の境がなくなって、デュアルユースになっている。防衛予算だからと、おどろおどろしい戦争のための予算ではなく、実はいろんな開発をしていく」と、デュアルユースに対して理解を示す発言をしていた。
防衛産業の活性化は中小企業やスタートアップの活躍を後押しする可能性が高い。政府は研究開発投資を5年間で60兆円、官民合わせて180兆円とする目標を掲げた。防衛省と経済産業省は自衛隊のニーズとスタートアップのマッチングも推進している。
武器の輸出解禁は、デュアルユースの研究開発を進めるスタートアップや中小企業のエコシステム構築に一役買う可能性が高いのだ。
武器輸出を巡る世論は、調査によって大きく分かれている
ただし、武器輸出には反対の意見が多いのが現実だ。政府は国民の声に耳を傾けつつ、丁寧に説明する必要がある。防衛産業の活性化を歓迎する声が少なければ、市場の健全な成長はありえない。
内閣府の調査では、防衛装備の海外への移転について肯定的な割合は68%だ。一方、NHKの調査で肯定的だったのは32%、読売新聞が40%、朝日新聞が25%である。民間の調査では賛成する割合が低い。
武器輸出の目的を「救難・輸送・警戒・監視・掃海」に限定する五類型の撤廃は、公明党が連立政権から離脱し、自民党と日本維新の会が連立合意した際に明記されたものだ。ブレーキ役の公明党がいなくなったことで武器輸出に向けた動きが加速している。
4月14日の参議院外交防衛委員会において日本共産党の山添拓議員は、武器輸出について「日本を死の商人国家に堕落させることは許されない」と批判した。武器輸出三原則の運用指針の改定が閣議決定であり、国会に諮らず密室で決めたことにも疑問を呈した。
野党を支持する国民からも、SNSでは似た意見が噴出している。武器の輸出が防衛面だけでなく、産業の活性化に寄与することもあわせて丁寧に説明し、理解を得る必要がありそうだ。
取材・文/不破聡