神戸「客を取られた」…万博3兆円の経済効果は大阪が「独り勝ち」、周辺への波及効果は限定的

約2558万人が訪れた大阪・関西万博(昨年4~10月)の経済波及効果が相次いで発表されている。国や調査研究機関は3兆円台の効果があったとするが、大阪の周辺府県への波及は限定的で、「大阪独り勝ち」と指摘する声も出ている。(神戸総局 森克洋、鳥取支局 久保田万葉)
神戸の中華料理店「2~3割減った」
神戸市の中華街・南京町にある中華料理店「昌園」の店長・陳明恵さん(50)は、万博期間中は来店者が「2~3割減った」と感じた。「万博会場を回ることに精いっぱいで、神戸まで来る余裕がなかった人が多かったのでは。万博の効果があるどころか、客を大阪に取られてしまった」と訴える。
経済産業省の推計では、万博の経済波及効果は約3・6兆円。会場建設に投じられた費用に加え、来場者による会場内外での買い物などの消費が大半を占めた。アジア太平洋研究所(APIR)も3兆541億円と推計する。
APIRによると、兵庫県では、買い物や飲食などの「来場者消費」が996億円に上った。ただ、県が万博中に観光イベントを実施した個人・団体にアンケートを行ったところ、76%がビジネス効果は「なかった」と回答した。
神戸市の有馬温泉街にある老舗旅館「上大坊(かみおおぼう)」代表の堂加雅丈さん(68)は、万博中の客足は「前年並み」だったと振り返る。子どもの頃にあった1970年大阪万博では、観光バスが温泉街に押し寄せた記憶があるが、今回は「万博ついでに立ち寄る人がたまにいる程度だった」との印象を持ったという。
「ストロー現象」指摘も
実際、観光客は大阪に偏った。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(東京)は携帯電話の位置情報データを活用し、万博来場者(訪日客のぞく)がどれだけ、大阪、京都、兵庫、奈良4府県の主要観光地を訪れたのかを調べた。
大阪城が前年同期の来訪者数と比べて9・2%増えたのに対し、南京町は18%減、有馬温泉は6・3%減、清水寺(京都市)は22%減だった。大阪経済大の下山朗教授(経済学)は「周辺のレジャー消費が大阪に吸い上げられる『ストロー現象』が起きた可能性がある」と説明する。
京都市観光協会によると、清水寺などの観光地では万博の時期、日本人宿泊者の減少を上回る数の外国人が宿泊した。訪日ブームが万博の影響を見えにくくしたようだ。
APIRの推計では、来場者消費の総額1兆6439億円のほぼ半分にあたる7697億円が大阪府に落ちた。下山教授は「大阪の独り勝ちだった」とし、大阪中心に活発化した経済・消費活動の恩恵が隅々に及ぶ「トリクルダウン」は期待ほどには起きなかったとみる。
ただ、一定の経済効果が周辺にあったのも事実だ。
60億円の恩恵があったとされた徳島県。JR徳島駅近くで土産物店を営む森竹啓介さん(60)は売り上げが前年より1割ほど増えたといい、「万博はありがたかった」と言う。万博会場で配布された高速バスなどの割引券で約1万3000人が来県した。県の担当者は「万博効果を実感した」と受け止めている。
大阪でも「特需は終わった」
閉幕から7か月超。大阪でも万博の効果は薄れてきた。
東京商工リサーチによると、万博中は減少傾向にあった大阪府内の企業倒産(負債額1000万円以上)は今年に入ってサービス、建設業などで相次ぎ、1月から4か月連続で前年同月の倒産数を上回った。同社担当者は「万博特需は終わった」と分析する。
下山教授は、今後の課題について「万博で増えたファンに魅力をプラスアルファで示すことが大切になる」と述べ、万博のつながりを生かしていくべきだと指摘する。
動き出している自治体の一つが鳥取県だ。関西パビリオン内の県ゾーンを訪れたタイの財閥関係者と商談にこぎ着け、4月下旬にバンコクでベニズワイガニなど特産品の試食会を実施した。今後、ビジネスマッチングも予定しており、タイ商圏への販路拡大を見据えている。県の担当者は「万博は普段はなかなか出会わない人たちに鳥取をPRできる契機になった。今後も協力を進めていきたい」と話した。
◆経済波及効果=コンサルティング大手「デロイトトーマツグループ」によると、大規模イベントなどがもたらした新たな需要に対し、企業や行政、個人が直接・間接的に使った金額を試算したもの。経産省が発表した万博の推計値は、例えば、万博で昼食に3000円使った場合、普段の昼食代が800円だとすれば、差額の2200円を波及効果とする考え方に沿って計算された。