7年前に札幌市内で病に倒れた技能実習生がいます。長期療養を必要とする想定外の事態に救いとなる制度はありません。シリーズでお伝えしている「外国人と共に」。この現実が私たちに問うものとは何でしょうか。
家族思いのベトナム人青年が突然倒れ…
教会で祈りを捧げるのは、ベトナム人のズオン・ヴァン・バンさん。 4月、妻のソンさんと次男のタイさんと3人で札幌にやって来ました。 三男に会うためです。
トゥさんの母 ソンさん(58)「すごくショックでした」
三男のズオン・ゴツク・トゥさん。意識はなく人工呼吸器をつけたまま入院しています。
病に倒れたのは、7年前。
技能実習生が長期療養を必要とする想定外の事態。この現実が私たちに問うものとは。
家族のために来日も…19歳で突如倒れたベトナム人技能実習生
技能実習生として札幌の建設会社で働いていたベトナム人のズオン・ゴツク・トゥさん。
「家族のために一生懸命働きたい」と語っていました。 けいけんなクリスチャンとして、週に1度、教会へ。
2019年9月、19歳の時仕事中に頭痛を訴え、倒れます。
診断は「脳動静脈奇形」。意識の回復は難しいとされました。
トゥさんの母 ソンさん「今日会えました。何を言えばいいかわからなかった。みんなトゥさんのことを愛しているよ、頑張ってくださいといしか言えない」
実習生が長期療養を強いられることは、想定外の事態。
日本に知り合いがいないトゥさんを支援してきたのは教会の信者や友人たちでした。西千津(にしちず)さんもその1人です。
カトリック札幌司教区 西千津さん「何度も何度もお願いをしたのは札幌に住む地域住民が倒れたときに札幌市で何ができるかを考えてくださいとお願いして」
技能実習生の長期療養という「想定外」… 問われる制度設計
在留資格のある2019年9月から2020年3月までは技能実習生として加入していた保険で医療費を賄ってきました。
しかし、在留期限が過ぎると不法滞在となってしまいます。入管や札幌市、外国人相談窓口、監理団体、実習先などが話し合い活用できる制度を模索しました。
まずは、在留資格。技能実習生としての期間が終わっても医療を受け続けるため、国民健康保険に加入することができる「告示外の特定活動」という在留資格を取得。
次に、医療費。トゥさんが働いている間、年金を納めていたため障害年金などを利用し、なんとか療養を続けることが可能となりました。
倒れてから7年、ようやく家族が再会
支援者は毎週、ベトナムにいる家族とビデオ通話をつなぎ、声を聞かせ続けました。
カトリック札幌司教区 西千津さん「お母さん、お父さんが万が一この後何かあった時は火葬して遺骨を返してくださいという話になった。その話をしてて、お母さんとしても息子に会いたいという気持ちになって(日本に)行きたいという決断をされた」
倒れてから7年、ようやく家族が再会しました。
面会の合間を縫って3人はトゥさんがよく通っていた教会にも足を運び、これまでの感謝と息子の回復を祈りました。
トゥさん父 ズオン・ヴァン・バンさん(60)「あした、ベトナムに戻ります。私たちの息子のために祈りをお願いします」
来日して約1週間。この日帰国の途につきます。
トゥさんの兄 タイさん(26)「地理的な距離のため頻繁にこちらにうかがうことはできませんが、今回はお会いできてうれしく皆様に感謝申し上げます」(翻訳機)
これまで息子を支えてくれた人へたくさん感謝の言葉を残してベトナムへ帰りました。
トゥさんのことを多くの人に知ってもらおうと活動する西さん
今、西さんはトゥさんのことを1人でも多く知ってもらおうと活動しています。
カトリック札幌司教区 西千津さん「外国人ではなくで1人の人を地域で受け入れる。地域住民のために何ができるかを色んな人に考えてほしい。労働者だと労働できない人はどうなんだと。彼のような状態になったとしても何ができるか模索できる日本社会になってほしいと思う」
西さんは、トゥさんのように外国人の長期療養の事例を特例にせず、制度として確立していくことを訴えています。
外国人を労働力ではなく人として…社会に問われた課題
森田絹子キャスター 西千津さんによりますと、倒れてすぐに支援者につながったり、勤め先の企業ですとか、入管などの関係機関が連携できたりしましたが、このトゥさんの例は「特例だった」ということです。
堀啓知キャスター 外国人との共生を考える場合は、珍しいケースも含めて想定した制度を作っておくことが必要なのかなと感じるわけですが、伊藤さんいかがでしょうか。
コメンテーター伊藤順子さん この場合はすごく難しいなと思いました。やっぱり、外国人を受け入れていく方向に、国自体としても舵を切っているのであれば、働きやすいというところを考えなければいけないと思うんですが、やっぱり「想定外の事態」って、いっぱい起こると思う。あらかじめ全て用意しておくことは、実務的に難しいだろうなっていうところがある。なので、一つ一つケーススタディとして積み上げていって、考えて、どうやったら日本らしく受け入れられるのか考えていくのが、一番なのかなと思いました。
コメンテーター野宮範子さん 「労働力」ではなくて「労働者」として、その技能実習生っていうのは、もうすでに日本の労働基準法のもとで認められているんですけど。さっき西さんがおっしゃったように「働けなくなった場合」、私たちだっていつ病気やけがに見舞われるか分からない。そうなった場合にどう命が守られていくのか。本当に重い課題を突きつけられてるなと思いました。
今年4月、「治療と仕事の両立支援」という法律が整備されて、企業側に、例えばがんとかを患っても、経営者側が、治療と仕事が両立できるように、努力義務ですけどね、支援しましょうねという方向にあるんですね。日本で働いている人は、それは外国人であろうと日本人であろうと、そういう意味では、あの守られていかなきゃいけないと思うので。本当にちょっと今すぐ解決策は出ないんですけど。働きたいと思ってもらえる国にするために、私たちも色々考えていかなきゃいけないと思いました。
堀キャスター 第2、第3のトゥさんのような存在がいつ現れるか分かりません。「今回は運が良かったね」で、絶対終わらせちゃいけないと思いますので。日本で働くうえでの安心感とか、権利、そういうものを整備する必要が、今回のケースは問いかけてるんじゃないかなと思います。