消費税0%案はいつの間に1%案になったのか…高市総理が”悲願”をわずか4カ月で取り下げた理由

食料品の消費税ゼロ化を衆院選公約とした高市早苗首相(自民党総裁)が、来年春から税率を「1%」とする案で妥協を図る構えを見せている。表向きはレジのシステム改修に時間を要するというのが理由だが、減税に伴う財源探しに加えて金利上昇を招くリスクは避けたいとの本音が透けて見える。減税策には評価する声があるものの、2月の衆院選公約がわずか4カ月で方針転換されることに厳しい視線が送られているのも事実だ。はたして、「1%」案はこのまま本当に実現するのか―。
【画像】消費税0%がいつの間にか「1%」にすり替わった”表向きの理由”
0%がいつの間にか「1%」にすり替わり…
「ゼロを1%にするのはブレている」「レジ改修が間に合わないことは全く言い訳にならない」
中道改革連合の階猛幹事長は6月4日、食料品の消費税減税をめぐり政府・与党内で「1%」案が有力となっていることを痛烈に批判した。
国民民主党の玉木雄一郎代表も超党派の「社会保障国民会議」において検討中である点を踏まえ、「(国民会議ではまだ)ほとんど議論していない」と慎重姿勢を見せる。
野党が反発するのは無理もない。そもそも、高市首相が率いる自民党は2月の衆院選で「飲食料品は、2年間に限り消費税の対象としないことについて、今後『国民会議』において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します」と公約した。
選挙後、野党に呼び掛ける形で「国民会議」はスタートしたが、それがいつの間にか政府内で「1%」にすり替わっているのだ。
消費税ゼロ化が「私自身の悲願」と語った高市首相
首相は「時間を要する(レジの)システム変更をできるかぎり早期に実施できる方法も検討しつつ、その実現に向けて強い思いを持って取り組んでいく」と理解を求める。だが、そもそも今年1月に消費税ゼロ化が「私自身の悲願」と言ったのは高市首相自身である。
2025年5月には「国の品格として食料品の消費税率は0%にするべき」と発言していたはずだ。
首相は物価上昇局面において「給付付き税額控除を実施するまでの2年間」に限定した策であると言っているが、国民民主党の古川元久税制調査会長は「つなぎとして消費税減税を行う必要はないのではないか」と指摘し、玉木代表は「住民税の減税と社会保険料還付の組み合わせがベスト」と主張している。
だが、高市首相は「できない理由ではなく、できる方法について知恵を絞ってもらう」と語った。
「悲願」はなぜ、わずか4カ月で崩壊したのか
高市首相は6月末にも最終判断を下した上で今秋の臨時国会に関連法案を提出する構えだ。2027年4月にスタートするスケジュールを描く。
首相の「悲願」はなぜ、わずか4カ月で崩壊したのか。6月3日、経済産業省は社会保障国民会議に「参考資料」を提出している。
それによれば、バーコードから販売時に商品情報を読み取り、POSシステム(Point of Sales)に連携する「ターミナルPOSレジ」は約70万台、タブレットやスマホなどをレジ端末として利用する「モバイルPOSレジ」(スマートレジシステム)は約30万台、キーボードなどを手動で操作し、出入金管理を行う「ガチャレジ・メカレジ」は50万台前後、それぞれ存在している。
だが、現在は「税率ゼロ」の入力ができないシステムが存在し、消費税が「0円」のものは非課税扱いにされ、0%対象の価格を記載したインボイスを発行できないシステムがある。
このため、「0%対応」に向けた大規模改修をするには最大10カ月~1年程度が必要になるという。これが「1%への引下げ」であれば、必要期間は5カ月~6カ月程度でレジのシステム改修が完了するとしている。
「国民会議」は本当に必要だったのか
経産省はシステムメーカーの見解として報告しており、それを否定するつもりはない。だが、腑に落ちないのは高市首相がこれまで語ってきたことと大きな齟齬がある点だ。
首相は衆院選公示日の前日となる1月26日、日本記者クラブ主催の公開討論会で食料品の消費税を2年間ゼロにする考えを表明。実施時期については、超党派の「国民会議」で結論がまとまれば今秋の臨時国会に税制改正関連法案を提出したいとの意向を示した。
だが、先に触れたように「1%」案に野党は慎重・反対姿勢を崩しておらず、何をもって「結論」と6月末に位置づけるつもりなのかわからない。
そもそも、政府内で「1%」案を最初から提出する考えだったならば、「国民会議」という存在は不要だったことになる。付け加えれば、高市首相の消費税減税をめぐる言動はブレまくってきた経緯がある。
高市首相は昨年10月、自民党総裁に就任した際に消費税減税に関し「選択肢としては放棄するものではないが、すぐに対応できることを優先したい」と述べていた。同11月には国会答弁でレジのシステム改修などに一定の期間がかかることにも留意すべきだとも説明した。
「責任ある積極財政」と相性が悪かったという点
さらに、12月23日の日経新聞インタビューにおいては「物価高対策としては即効性がないと判断した」と答えている。
しかし、今年1月19日の記者会見で首相は「物価高に苦しむ中・低所得の皆様の負担を減らす上でも、軽減税率が現在適用されている飲食料品について2年間に限り消費税の対象としない」と語っている。この間、わずか1カ月しか経っていない。そして、公約で「ゼロ」を掲げていたにもかかわらず、衆院選から約4カ月後にはいつの間にか「1%」と修正している始末である。
そもそも、「ゼロ」とするためにどれくらいのシステム改修期間が必要なのか調べてもいなかったのか。この半年近くは何だったのかと思いたくもなるだろう。
ましてや、一国のトップが「悲願」とまで言い切ったのに、その程度の認識しか持っていなかったことに呆れてしまう人も少なくないはずだ。これでは「国の品格」が疑われる。
1つだけ同情するとすれば、高市内閣が誕生したタイミングは自身の掲げる「責任ある積極財政」と相性が悪かったという点だろう。首相は、衆院選大勝直後の記者会見で消費税減税に関し「2年分の財源を確保した上で、できるだけ早く実現できるよう知恵を絞っていく」と語り、財源には補助金や租税特別措置見直しで賄う意向を示した。
減税には5兆円近い財源が必要とされ、財政状況の悪化懸念
減税には5兆円近い財源が必要とされ、財政状況の悪化が懸念されていることを踏まえた発言だろう。特例公債の発行に依存しない姿勢も繰り返している。
だが、足元では財政悪化懸念やインフレをにらみ、5月18日の東京債券市場では長期金利の指標となる新発10年物国債の流通利回りが一時2.800%に上昇。1997年5月以来29年ぶりの高水準となった。円や国債が売られるリスクを抱え、ドル円相場も1ドル=160円前後と下落傾向にある。
加えて、日本銀行は6月16日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%程度から1.0%程度に引き上げることを決めた。1995年9月以来31年ぶりの高水準となる見込みだ。
利上げは長期金利上昇を招き、住宅ローンの返済額のみならず国民生活に打撃を与える可能性もある。来年春からの消費税減税が現実味を帯びれば、さらなる金利上昇や円安進行につながるリスクがあり、それに連動する形で物価高に拍車をかけないとも言い切れない。
「来年春」というタイミングは首相にとっても都合が悪い
先に触れたように、高市首相は1月の記者会見で「物価高に苦しむ中・低所得の皆様の負担を減らす」としていたものの、このタイミングで消費税減税を実施し、国民民主党が唱えるような対策を講じなければ、物価や金利上昇によって国民の負担がかえって増大するかもしれないのだ。
消費税減税について、首相は「給付付き税額控除を実施するまでの2年間」に限定した策であると言っているが、実施のタイミングを見誤れば国民生活にとって良いことだらけとはならないはずだ。
あえて付け加えれば、「来年春」からの減税実施というタイミングは首相にとっても都合が悪いと言える。
食料品の消費税率「1%」案については、中道改革連合や国民民主党などが反対・慎重であると記したが、首相にはもう1つの「悲願」があるためだ。それは、自民党の党是でもある「憲法改正」である。
高市首相は4月の自民党大会で「立党から70年、時は来た。国会で議論を進めていこう」と呼びかけ、憲法改正の発議について2027年春までにメドをつけたい意向を示した。
だが、自民党は改憲を発議できる条件となる衆院で3分の2以上の議席を得たが、参院は連立政権を組む日本維新の会の議席を足しても過半数割れしている。
消費税減税をめぐる国民民主党とのスタンスの違いが障壁
そのため、自民党の麻生太郎副総裁や萩生田光一幹事長代行らは「政策的にも非常に近い」と国民民主党に連立入りを含めた秋波を送っている。
改憲をにらんだ布石を打ち始めているわけだが、ここで消費税減税をめぐる国民民主党とのスタンスの違いが障壁となる。
加えて、高市首相は鈴木俊一幹事長に衆院の議員定数削減をめぐり比例代表のみ45議席削減する案で意見集約を図るよう指示したが、この案に対しては国民民主党の玉木代表が「自民、維新に有利な中身で出してくるということであれば、我が党のみならず他の野党もなかなか『はい、そうですか』とはならない」と否定的だ。
消費税減税と議員定数削減という「2つの壁」を取り除かない限り、連立入りを含めた交渉は実を結ばないだろう。
すなわち、それは首相の「悲願」である憲法改正は遠のくということだ。ただ、高市首相は消費税減税をめぐり従来の発言を二転三転させてきた。
「つなぎとして消費税減税を行う必要はないのではないか」と修正が入るのか
仮に、改憲や連立入りに関して国民民主党の理解を得られる可能性があれば、今秋の臨時国会で関連法案を審議する際にさらなる「妥協」をすることも考えられる。逆に言えば、国民民主党は自らの政策や主張を採り入れてもらえる絶好のチャンスを迎える。
玉木代表が言うように「住民税の減税と社会保険料還付の組み合わせがベスト」となるのか、古川税制調査会長が指摘している通り「つなぎとして消費税減税を行う必要はないのではないか」と修正が入るのか。
まだまだ食料品の消費税率をめぐる先行きは不透明と言えるのではないか。いずれにしても、日銀の利上げ見込みや金利上昇、物価高は国民生活に直結する。高市首相には「ブレる」ことなく、生活を守り抜いてもらいたい。
文/竹橋大吉