「生き地獄から解放されたい」元検事正からの性的暴行訴えた女性検事を苛む『二次被害』の実態は 職場で実名拡散…生きがいの仕事に辞表

元大阪地検の検事正から性的暴行を受けたと訴えている女性検事のひかりさん(仮名)。4月、地検に辞表を提出しました。
ひかりさんはなぜ、生きがいに感じていた「検事」の仕事を辞める決心をせざるを得ない状況に追い込まれたのか…そこには、申告や相談によって引き起こされる『二次被害』という性被害の思わぬ代償がありました。
「今まで生きて頑張ってきたこと全部否定…とにかくみじめで」
(ひかりさん)「今まで生きて頑張ってきたこと全部否定されて…泥水で汚されてしまって、グチャグチャにされてバラバラにされているような。とにかくみじめ、みじめで」
言葉を詰まらせながら当時のことを振り返る女性。ひかりさん(仮名)は、検察官として性被害や虐待など数々の事件を担当してきました。
そのひかりさん自身が被害者となる「事件」が起きました。
自分の身に起きたことを受け止められない…きっかけは8年前
元大阪地検・検事正の北川健太郎被告(66)。北川被告は8年前、検事正としての影響力に乗じ酒に酔うなどして抵抗できないひかりさんに性的暴行を加えたとして準強制性交の罪に問われています。
懇親会の後、泥酔した部下のひかりさんをタクシーに押し込んで官舎へと連れて行ったとされています。
ひかりさんは自分の身に起きたことを受け止められなかったといいます。
(ひかりさん)「目が覚めたらレイプされてるという、衝撃的なことが起きてしまったことで、現実として受け止めきれなかったんです。完全に心と体が分離してる状態だった」
「検察がもみ消そうとするのではないか」被害申告に悩み
そんな中、北川被告は手紙などで「口止め」をしてきたといいます。
【北川被告から送られてきたとする手紙より】

「今回の事件が公になった場合、私は絶対に生きてゆくことはできず、自死するほかないと考えている。大阪地検の検事正による大スキャンダルであり発覚した場合、私のみならず検察組織に対しても強烈な批判があることは明らかです。あなたも属する大阪地検のためということでお願いします」
「検察組織」のために被害を公表しないよう求めてきたといいます。また、相手は大阪地検のトップで適正な捜査がされるのか心配もあったと話します。
(ひかりさん)「大スキャンダルだから本当に検察がもみ消そうとするのではないかという怖さも当然あった。だからそんなリスクを負って、今、被害申告して意味あるのか、すごく悩んだ」
「私は5年前から止まったまま…」PTSDと診断され被害申告を決意
被害申告が出来ない中でなんとか仕事を続けていたひかりさんですが、事件から5年後、PTSDと診断されます。その時ようやく、決心しました。
(ひかりさん)「家族とも笑って暮らせなくなってたから。何でそうなのかと考えたときに自分の尊厳を踏みにじった北川被告を処罰していないから。だから私は5年前から止まったままなんだって思ったんで、そこでやっと決心した。自分のね、検事としての正義感ももあったし、自分の被害がないことになるものやっぱり辛かったので」
ひかりさんの心の支えになったのは、子どもが書いてくれた手紙の数々でした。
(ひかりさん)「子どもは母が検事であることに誇りを持っていて、ママの仕事かっこいいからって応援してくれていて」
事件から6年後に被害申告 北川被告は逮捕・起訴されるも…
そして事件から6年後、ひかりさんはおととし4月、検察上層部に名前を伏せるよう求めた上で被害を申告。北川被告は逮捕・起訴されました。
これに対し北川被告側は「ひかりさんが抵抗することが著しく困難な状態であったという認識はなかった。また、同意があったと思っていたため犯罪の故意がない」などと無罪を主張し、裁判は長期化の様相を見せています。
申告で思わぬ代償…職場での二次被害に「もう誰も信用できない」
また、6年越しの被害申告はひかりさんにとって思わぬ代償も伴ったといいます。職場での二次被害です。
PTSDだと診断され休職していましたが、被害を申告し元検事正が逮捕・起訴されたことを受け、復帰に向けて準備を始めていました。
ところが職場では予期せぬ反応が待っていたと話します。
(ひかりさん)「事件の被害者が『ひかりさんだ』って実名をさらして拡散して…」
被害者がひかりさんであることや、根拠のない憶測や誹謗中傷が職場に広がっていたといいます。
その後、ひかりさんの名前を複数の職員に漏らしたとして事件当時、同じ大阪地検にいた副検事が戒告の懲戒処分を受けました。
(ひかりさん)「本当ショックでした。しかも自分の職場にいるというのがもう怖くて。もう誰も信用できないっていうふうに追い込まれていきました」
「性被害者の心理がもっと世間に周知された方がいい」
元検察官でひかりさんの代理人の田中嘉寿子弁護士。性被害事件ではこうした被害者の情報の拡散といった「二次被害」が起きやすいといいます。
(田中嘉寿子弁護士)「(性被害は)目に見えないし。『ちゃんと注意してたら被害に遭うはずがない』とみんな思っているんです。どこか心の底で。被害者バッシングが非常に起きやすいんですよ」
その原因は「なぜ抵抗したり逃げたりしなかったのか」などといった性被害者への理解不足にあるといいます。田中弁護士は性暴力に直面した際、被害者には“ある状態”が起きやすいと指摘します。
(田中嘉寿子弁護士)「被害者もなぜ逃げられなかったか自分ではあまり分かっていません。“凍結反応”と言って人が恐怖に直面したときに、カッと心身が凍りついて動きが非常に悪くなる状態。性被害者の心理がもっと世間に周知された方がいいと思う」
「生き地獄から解放されたい」職場に辞表
今年4月末、ひかりさんの姿は大阪地検の前にありました。辞表を提出するためです。
職場での二次被害にも追い詰められていたひかりさん、検察庁内にハラスメント被害の実態調査を行う第三者委員会を設置するよう求めていましたが、それも叶わず職場を去る決断をしたのです。
「検察官」が生きがいだったひかりさんにとって苦しい選択でした。
(ひかりさん)「もう生き地獄から解放されたい、もう戻る場所がないから辞表を出さざるを得なくなりました」
なぜ被害者が職場を去らなければいけないのか…社会に重い問い
辞表提出から約2週間後。
(ひかりさん)「お忙しい中このようにたくさんの方々が寄り添ってくださり本当にありがとうございます」
ひかりさんは大阪・中之島で開催された、花を手に性暴力の根絶を呼びかける「フラワーデモ」に参加していました。
性被害を訴える人たちが自分の話を順番に語っていきます。ひかりさん自身も被害者ですが、別の女性が泣きながら話す間、ずっとその背中をさすっていました。
(ひかりさん)「自分が検事のときに被害者にやっていた気持ちがちょっと出てしまって、すごい辛い経験を思い出しながら話すから再体験でますます辛いんですよ。それがとても分かるから。だから思わず飛びこんでしまいました」
性被害の『二次被害』 ひかりさんが突き付けた問いに司法や社会は…
性被害をめぐっては、被害を申告しにくく、申告したとしても立証が難しいうえ、二次被害に悩まされるケースが少なくありません。
内閣府の調査によると、不同意性交等の被害を受けた人のうち「誰にも相談しなかった」人は55.7%にのぼり、「警察に連絡・相談した」人はわずか1.4%。
また密室での犯罪になるケースが多いことから、立証が難しいという背景などもあり、不同意性交等罪の起訴率は35.5%(2024年)にとどまっています。
さらに、捜査段階で『二次被害』を受けることもあるといいます。
別の性的暴行事件で被害届を出したという女性によりますと、検察官からの聴取のなかで、「起訴しても被害者は損をするばかりだから諦めてください」「成人同士だからこういうこともあるでしょうと裁判で言われやすいです」などと言われ、傷ついた経験があるということです。
勇気を振り絞り被害を申告した人がなぜ職場を去ったり、捜査のなかで傷ついたりしなくてはならないのか。こうした『二次被害』が多くの被害者にとって声を上げることを躊躇させる要因の1つでもあります。
性被害について、司法や社会はどう向き合うべきか。ひかりさんの姿は重い問いを投げかけています。
(2026年6月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)