「このままではもうしようがない」「埋めなくちゃ」白血病の妹へのリンパ球提供を控えた男性を襲った“バカラ狂いのリフォーム業者”…被害者を監禁した状態でギャンブルに勤しむ殺人犯の“ヤバすぎる犯行計画”とは

千葉県松戸市で起きた凄惨な強盗殺人事件。ギャンブルで作った借金の返済を免れようとする身勝手な男たちによって、一人の男性の命が理不尽に奪い去られた。後に法廷で明らかになったのは、被害者を縛り上げたままカジノクラブでバカラ賭博に興じるという、常軌を逸した加害者たちの行動……。身勝手な欲望の果てに行われた、残酷な犯行の経緯をたどる。
※登場人物はすべて仮名
借金550万円の返済を免れるための呆れた計画
平成18年(2006年)の春、茨城県取手市に事務所を構え、個人宅への訪問営業による住宅リフォーム業を営んでいたハシヅメシュン(当時42歳)の資金繰りは完全に破綻していた。会社の業績悪化に加え、彼自身がバカラ賭博などのギャンブルに深くのめり込み、多額の浪費を重ねていたためである。
ハシヅメは借金を返済するため、知人から会社の株式譲渡を名目にして現金を騙し取ったり、工事代金の立替えを理由に借金をするなど、自転車操業を続けていた。
そうした中でハシヅメが頼ったのが、前年頃から親しく交際するようになった知人のコンドウミナトさん(当時47歳)だった。ハシヅメは平成18年4月7日からのわずか数日間で、コンドウさんから合計550万円もの大金を借り入れた。その際、返済期日は4月25日頃と約束している。しかし、4月13日頃になってコンドウから「アパートの購入資金を準備するため、返済を早めてほしい」と依頼された。
手元に返済資金などあるはずもなく、工面の目処も立たなかったハシヅメ。彼の脳裏に、極めて短絡的で凶悪な思考が浮かび上がった。
「コンドウを殺害して借金を帳消しにしてしまおう」
「彼を殺すのであれば、持っている金品も奪ってしまおう」
しかし、ハシヅメは一人で犯行を実行するには不安があった。そこで、自らの会社で営業担当として働いていたナカニシユウ(当時59歳)を計画に引き入れることを思いつく。
4月17日の午前10時頃、事務所の駐車場でナカニシと会ったハシヅメは、「コンドウさんのところにお金を取りに行こうと思う。押し込みみたいな形なんだけど」と持ちかけた。ナカニシもまた金に困窮していた事情があり、分け前を貰えるならと、とくに反対することもなくこの誘いに同調した。
奇妙な絆で結ばれた二人による犯行準備は着々と進められた。ハシヅメはナカニシに指示して事務所の脇から緊縛用のロープを運ばせ、自らは包丁をタオルにくるんで車内に隠した。コンドウさんの自宅へと向かう道中、ナカニシは「縛るならガムテープも買っておいた方がいい」と自ら提案し、コンビニエンスストアに立ち寄ってガムテープと軍手を購入している。
意外にも、ハシヅメが当初企てたのは、力ずくで金を奪うことではなかった。
コンドウさんに対して「得意先に支払う金が用意できないので、自分の目の前で強盗に入られ、二人とも縛られてキャッシュカードを奪われたという『狂言強盗』に協力してくれないか」と頼み込み、金を騙し取るという歪んだシナリオを描いていたのだ。
緊縛された被害者を放置し、賭博に興じる
4月17日の午後7時30分頃、ハシヅメとナカニシは時間差をつけて千葉県松戸市にあるコンドウさんの自宅に侵入した。ハシヅメは玄関先でコンドウさんに対し、用意していた狂言強盗のシナリオを語り、協力を求めた。
しかし、突然の不可解な要求に対し、コンドウさんは「何で協力するのかな」と渋る姿勢を見せた。当然の反応である。さらに彼には、決してこのような危険なトラブルに巻き込まれるわけにはいかない切実な事情があった。白血病で闘病中の妹を救うため、自らがドナーとなってリンパ球を提供する日が目前に迫っていたのだ。妹の命を預かる大切な身体である以上、犯罪の片棒を担ぐような理不尽な要求など到底呑めるはずもなかったのである。
交渉が通じないと見るや、ハシヅメは本性を現す。隠し持っていた包丁を取り出してコンドウさんの目の前に突きつけ、脅迫に出たのである。刃物の前で無抵抗となると上半身をハシヅメが持参したロープで縛り上げ、ナカニシが両手首をガムテープでぐるぐる巻きにした。さらにハシヅメはコンドウさんの口に猿ぐつわを噛ませ、声を発せられない状態にした。
応接間の1人用ソファに縛り付けられたコンドウさんを前に、ハシヅメは居間のテーブル脇にあった財布を奪い取っていく。中には現金数万円と、キャッシュカード3枚、クレジットカード1枚などが入っていた。ハシヅメはここでも引き続き狂言強盗への協力を口にしながら、キャッシュカードの暗証番号を教えるよう何度も執拗に迫った。
コンドウさんは暗証番号を教えることを拒み続けた。すると、その横で本件の包丁を手にして弄んでいたナカニシが苛立ちを露わにする。ナカニシは手にしていた包丁を振り下ろし、ソファの肘掛けに激しく叩きつけた。
「早く言えよ」
怒気を孕んだナカニシの脅迫に恐怖を感じたのか、コンドウさんはついにキャッシュカードの暗証番号を口にしてしまう。
ここからのハシヅメの行動は、常軌を逸している。
暗証番号を聞き出したハシヅメは、コンドウさんの所有する自動車に乗り込み、現金を引き出すために単身で埼玉県川口市へと向かった。向かった先は、銀行のATMではない。
彼が日頃から入り浸っていた違法カジノクラブであった。ハシヅメはカジノの従業員に奪ったキャッシュカード3枚と暗証番号を記したメモを渡し、現金の引き出しを指示した。
従業員がATMを回って合計150万円を引き出している間、ハシヅメはそのカジノクラブの店内で、奪ったばかりの金を元手にバカラに興じていたのである。
その間、コンドウさんの自宅に残されたナカニシは、逃亡を防ぐためのさらなる行動に出ていた。すでにロープとガムテープで体と手首を縛られ、猿ぐつわをされているコンドウさんに対し、ナカニシは彼の体をソファごとガムテープで二重、三重に巻き付け、完全に身動きが取れない状態にして監視を続けていたのだ。
翌18日の午前零時を過ぎた頃、ハシヅメはようやくコンドウさん宅へと戻ってきた。ギャンブルを終えたハシヅメの次の目的は、自らの借金を帳消しにするための「殺害」を実行に移すことであった。
「外の空気を吸おう」河川敷での凄惨な殺害と死体遺棄
ハシヅメは、緊縛され猿ぐつわをされたままのコンドウさんを自車の後部座席に押し込み、その隣にナカニシを座らせた。犯行に使用したロープや包丁などの道具をすべて車に積み込み、忘れ物がないかを確認した後、車を発進させた。
深夜の道路を走行しながら、ハシヅメは茨城県取手市内の駐車場や目的地の河川敷付近などをあてもなく連れ回した。殺害場所を探していたのか、あるいはタイミングを見計らっていたのか……。
途中で立ち寄った駐車場で、ハシヅメはナカニシを車外へ呼び出した。「このままではもうしようがないし、自分が後ろから刺すんで、ナカニシ、悪いけど、コンドウさんに外の空気吸おうという形で表に連れ出してくれないか」。明確な殺意の伝達に対し、ナカニシは拒否することもなく無言で車に戻った。
午前4時頃、車は取手市内の利根川河川敷付近に到着する。ナカニシはコンドウさんに対し「ちょっと休むから」と声をかけ、自らが先に降車して後部座席のドアを開け、緊縛状態のまま外へ出るよう促した。
暗闇の河川敷で、ナカニシの後ろを歩いていたコンドウさんの背後に、ハシヅメが音もなく忍び寄る。ハシヅメは手にしていた刃渡り約16.7センチメートルの包丁を突き刺した。
不意の激痛に驚いたコンドウさんが振り返り、バランスを崩して仰向けに倒れ込む。ハシヅメはそのまま馬乗りになると、今度は左胸の心臓付近をめがけて包丁を深く突き刺した。刃は下大静脈を損傷し、致命傷を与えた。この刺突の最中、必死に叫び声を上げようとするコンドウの口を、ナカニシが自らの手で強く押さえつけ、周囲に声が漏れるのを防いでいた。
二人の男による冷酷な連携の前に、コンドウさんは大量の血を流して絶命した。
殺害を終えると、ハシヅメは死体の上半身を、ナカニシは足の部分を持ち上げ、車のハッチバックに死体を積み込んだ。車を走らせながらハシヅメが「埋めなくちゃ」と死体遺棄の意向を伝えると、ナカニシはここでも反対することはなかった。
午前7時頃に一旦別れた二人は、午前10時頃に事務所で再び合流する。途中でスコップとはさみを購入したナカニシは、ハシヅメとともに茨城県鉾田市の山林へと向かった。夕方頃、彼らは山林の奥深くに穴を掘り、死体を埋めて隠蔽した。さらに、死体が野犬などに掘り返されて発覚することを防ぐため、埋めた土の上にわざわざ猫よけ剤を撒布するという、死者に対する尊厳を著しく欠く念の入った工作まで行っていたのである。
〈 白血病の妹へのドナーを名乗り出た男性を惨殺…法廷では「強盗にならないような強盗だと思っていた」と言い訳を繰り返す“身勝手すぎる強盗殺人犯”にくだされた判決とは《被害者遺族の沈痛な叫び》 〉へ続く
(藍沢 宙人)