白血病の妹へのドナーを名乗り出た男性を惨殺…法廷では「強盗にならないような強盗だと思っていた」と言い訳を繰り返す“身勝手すぎる強盗殺人犯”にくだされた判決とは《被害者遺族の沈痛な叫び》

〈 「このままではもうしようがない」「埋めなくちゃ」白血病の妹へのリンパ球提供を控えた男性を襲った“バカラ狂いのリフォーム業者”…被害者を監禁した状態でギャンブルに勤しむ殺人犯の“ヤバすぎる犯行計画”とは 〉から続く
借金返済を逃れるために知人のコンドウミナトさん(当時47歳)を殺害し、奪ったキャッシュカードの金でバカラ賭博に興じていたハシヅメシュン(当時42歳)とナカニシユウ(当時59歳)。彼らの身勝手な犯行は、一人の男性の命を奪ったにとどまらない。白血病で闘病中であった彼の妹の生きる希望をも無残に打ち砕く結果をもたらした。
法廷で責任逃れの弁明を繰り返した二人の男たち。奪われた“命のバトン”の重さと、決して癒えることのない遺族の悲痛な叫び、そして裁判所での記録を追う。
※登場人物はすべて仮名
止まらない暴走
コンドウさんを山林に埋めた後も、ハシヅメとナカニシの犯罪は終わりを迎えることはなかった。彼らはコンドウさんから奪ったキャッシュカードを使用し、事情を知らないカジノの従業員や知人を利用して、4月17日から19日にかけて合計6回にわたる、ATMからの引き出しや偽造した払戻請求書の行使を繰り返した。コンドウさんの口座から総額524万円もの現金を窃取・詐取したのである。
しかし、手に入れた大金の大半は、ハシヅメの借金返済やバカラ賭博、野球賭博などのギャンブルによってまたたく間に消費されていった。再び金に窮したハシヅメは、新たな標的として、小規模で警備が手薄な特定郵便局への強盗を計画する――。
6月27日、ハシヅメは「コンドウさんの死体遺棄現場を確認する」という口実でナカニシを呼び出した。茨城県鉾田市に向かう道中、ハシヅメはナカニシに郵便局強盗の計画を持ちかけた。ナカニシは当初「交番が近い」などと消極的な姿勢を見せたものの、ハシヅメの車を降りることはなく、最終的にはハシヅメの指示に従って動くことになる。
午後3時55分頃、ナカニシは切手を買うふりをして鉾田市内の郵便局に入り、下見を行った。局員の人数、客の有無、入り口の配置やカウンターの仕切りなどを詳細に確認し、車に戻るとその間取りを紙に書いてハシヅメに報告した。
午後4時50分頃、ハシヅメはナカニシを約100メートル離れた神社脇の空き地に待機させ、単身で郵便局へと押し入った。ハシヅメの装備は周到だった。包丁、ガムテープ、サングラス、帽子に加え、ミネラルウォーターのペットボトルにバーボンを入れ、キャップに綿棒を刺して火炎瓶に見せかけた偽装工作まで施していた。
ハシヅメは局長(当時50歳)らに向かって包丁と偽装火炎瓶を突きつけ、「金を出せ。早くしろ。血を見たくない」と脅迫した。恐怖で反抗を抑圧された局長から、ハシヅメは現金111万5000円を強奪する。
逃走の際、焦りから入り口付近で現金を落としてしまい、拾い集めることができた21万円だけを握りしめて待機させていた車へと走り去った。この強盗の分け前として、ハシヅメは奪った21万円の中から3万円をナカニシに渡した。
ハシヅメの犯罪はこれだけではなかった。強盗殺人の前後である同年3月と5月には、自らが代表を務めるリフォーム会社を「株式会社にする」あるいは「上場する」などと架空の投資話を知人や顧客に持ちかけ、確実な株価上昇を謳って合計900万円もの現金を詐取する事件も起こしていたのである。
「妹を治すのが第一」断ち切られたリンパ球輸血の希望
ハシヅメたちの身勝手な犯行が奪ったのは、コンドウさんの命だけではなかった。彼が殺害されたことで、連鎖するようにしてもう一つの命が失われるという悲劇が起きていたのである。
コンドウさんの妹(当時43歳)は、平成17年(2005年)に急性骨髄性白血病を発症していた。彼女の命を繋ぐ希望の光となったのが、ドナーとして適合した兄・コンドウさんからの骨髄移植であった。一度は移植に成功し闘病を続けていた妹だったが、平成18年の春に病が再発してしまう。
次の治療の望みは、再び兄の体からリンパ球の輸血を受けることであった。コンドウさんは生前、周囲に妹を治すためなら何でもすると語っていたという。妹の命を救うため、自らの身体を差し出す覚悟を決めていた兄。
しかし、その直前の4月18日未明、コンドウさんは利根川の河川敷でハシヅメたちの凶刃に倒れた。
頼みの綱であった兄からのリンパ球輸血を受けることができなくなった妹は、最善の治療の機会を失ってしまった。その後、彼女は別のドナーから2度目の骨髄移植を受けたものの、体力は限界を迎えていた。彼女は「裁判で犯人がしたことをちゃんと聞きたい」と語り、病床から兄の無念を晴らす日を待ち望んでいたという。
だが、その願いが叶うことはなかった。ハシヅメたちの初公判が開かれた2日後の平成19年(2007年)6月8日、妹は静かに息を引き取ったのである。
法廷での責任の押し付け合い、そして判決…
逮捕後、千葉地方裁判所で開かれた裁判において、二人の被告人は対照的な態度を見せた。ハシヅメが起訴事実を大筋で認め、殺害の実行行為も自ら行ったと自白したのに対し、ナカニシは自身の関与を徹底的に矮小化しようと試みたのである。
ナカニシは法廷で、「ハシヅメから『問題ない、100パーセント大丈夫だ』と言われたので、特別な事情がある強盗にならないような強盗だと思っていた」などと、自らの判断能力を放棄したかのような弁解を繰り返した。さらに、殺害の共謀についても「ハシヅメが殺そうと思っているとは知らなかった」「殺害時に口を押さえたのは、気が動転して叫び声を聞きたくなかったからだ」と主張し、強盗殺人の意図を真っ向から否認したのである。
しかし、裁判所はそのような見え透いた責任逃れを許さなかった。
判決では、ナカニシが自らの発案でガムテープや軍手を購入し、暗証番号を聞き出すために包丁でソファを叩いて脅迫した事実を指摘。「強盗にならないような強盗」という認識は極めて不自然であり、信用できないと一蹴した。また、殺害現場でハシヅメから「自分が後ろから刺す」と明確に告げられたにもかかわらず、拒否することなく車からコンドウさんを降ろし、刺される瞬間に口を押さえつけるという積極的な協力行動をとったことから、殺害の共謀も明確に成立していると認定したのである。
平成19年10月31日。千葉地裁は、ハシヅメとナカニシの両名に対し、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。
主犯格であるハシヅメに対して「利欲的で身勝手極まりない上、自己中心的かつ短絡的なもので酌量の余地は全くない」と厳しく断罪したうえで、白血病で亡くなった妹についても言及し、「最善の治療を受けられなくなり、結果として死亡したことが認められる。『妹も被告人両名に殺されたも同然である』と訴え、彼らに対する厳罰を求める被害者遺族の心情は十分に理解できる」とし、遺族の深い悲しみに配慮を示した。
2007年11月1日付の朝日新聞によると、妻(コンドウミナトさんの妹)を亡くしたヤスタカさん(当時41歳)は、判決後にこう語ったという。
「妻は被告人二人に殺されたも同然。判決で取り上げて頂いたことには感謝するが、判決は義兄について。妻の死についてではない」。両被告については「何も言うことはない。ただ妻を返してほしい」。
(藍沢 宙人)