プールの改修や維持管理のためのコスト削減などを理由に、小中学校の水泳授業を外部の民間業者に委託する取り組みが進んでいる。プロの指導を受けた子供の泳力向上に一定の期待がかかるものの、授業計画や成績評価を担うのは教員であることに変わりはない。授業から距離を置く教員の指導力をどう保つのかが課題で、専門家は「教員が指導法を学ぶ機会の確保がこれまで以上に高まっている」と強調する。
経験が乏しく
プール開きを目前に控えた5月下旬。大津市教育委員会は、市内の小中学校の教員約40人に向けて水泳講習会を開いた。 座学に続き、教員らは実際に入水。浮いて感覚をつかんだり、補助具を使った泳ぎ方を確認したりして、安全水泳の基本的な技能を学んだ。
小学校教員2年目の岡林杏衣さん(24)も参加者の一人。「大学で習ってから指導法を学ぶ機会はなく、自信があるわけではなかった」と話し、「学んだことを生かしたい」と話した。
同市教委が教員向けの講習会を開くのは今年で3回目。教員らが講習会に積極的に参加する背景には、近年進む水泳授業の民間委託があった。
同市では学校のプール施設の老朽化に伴い、全37校の小学校のうち2校で、水泳の授業を民間に委託。教えるのは民間の指導者で、授業も校外のプールで行われる。
ただ、指導計画や成績評価は授業を見守る教員が担う。指導法を大学のカリキュラムで学んだだけで、実践の経験が乏しい教員も少なくない。
授業を委託したとしても子供の安全に対する責任は教員が担っており、市教委の担当者は「すべての教員が指導法を学ぶ意義は大きい」とする。
都市部で進む
水泳授業を民間へ委託する動きは、全国で広まりつつある。
笹川スポーツ財団(東京)が全国の自治体を対象に令和6年に実施した調査によると、小学校の水泳授業を民間委託する学校は、全体の約2割を占めた。市区町村別で見ると、地方に比べ都市部の方が高い割合を示しており、人口50万人超の自治体の64%で民間委託が導入されているが、人口1万人以下の自治体の導入は1割未満だった。
同財団の担当者は「人口の少ない地域では、そもそも委託先がなかったり、施設までの移動時間がかかったりして、委託に踏み切れないのではないか」と分析する。
改修費負担に
そもそも水泳授業は、昭和30年に高松市沖で旧国鉄の連絡船が沈没し、修学旅行中の小中学生ら168人が犠牲になった事故を機に必要性が高まったとされる。適切な水泳場の確保が困難な場合に限って座学も認められてはいるが、学習指導要領で小学1年~中学2年の8年間は必修だ。
ただ、学校のプールは多くが昭和40年代~50年代に建設。更新時期を迎えた学校では、改修費や管理維持費が重い負担としてのしかかる。コスト面での効率化を図るために、民間委託を選択する学校が増加しているのだという。
スポーツ庁は今年2月に、授業を民間に委託したり、民間施設を共同利用したりする場合の指針を教育現場に示した。
民間委託では「外部指導者に全てを任せきりにせず、必要な指導を行うこと」とし、教員と外部指導者が密に連携することなどを求めている。
民間委託の動きには、教員の指導力低下を招きかねないとの懸念が専門家から示されており、大阪経済大人間科学部の若吉浩二教授(教育学)は「水泳は子供の命に関わる授業。教員が水中運動の特性を理解していないと、安全に向けた指導ができない」と指摘。新型コロナウイルス禍や猛暑によるプールでの授業中止が相次いだ影響などで若手教員らが指導法を学ぶ機会が減っているといい、「教員が指導法を学ぶ機会の確保が一層求められている」とクギを刺している。(堀口明里)