皇室にとって皇位継承の安定と皇族数確保は20年来、「喫緊の課題」であり続けた。宮内庁は歴代政権に危機感を伝えてきた。
2019年の上皇さまの退位を機に、止まっていた制度改革の議論が動き出す。だが主題はすり替えられ、世論を二分したまま、皇室典範が改正された。象徴天皇制の根幹である「国民の理解」は揺らぐ。天皇陛下や皇室の思いを複数の側近らの証言から探る。(共同通信=黒木和磨、浜田直毅、志津光宏)
▽割れる民意
「強引に急ぎ過ぎたのは間違いない」。改正典範成立直前の7月中旬、宮内庁の執務室で側近は苦り切っていた。
政府の閣議決定から10日後、改正案はわずか3時間半の審議で衆院を通過した。旧宮家出身の養子皇族の子孫に皇位継承資格を与える内容に、野党は「だまし討ち」と批判したが、政府、与党は数の力で押し切った。
改正案の前提となる21年の政府有識者会議報告書と、衆参両院の「立法府の総意」は皇位継承策を切り離し、皇族数確保策に限って提言したはずだった。その確保策も、養子受け入れ案に対して世論の賛否は真っ二つに割れていた。
立法府の総意が決まった翌日の6月11日、天皇陛下は外国訪問前記者会見で「皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の理解が得られるものとなることを望んでいる」と述べられた。
制度への言及を一貫して自重してきた陛下があえて踏み込んだ真意は、養子案への懸念か。側近に問うと「いろんな受け止めがあっていい」と否定せず「拙速な議論への警鐘だ」と続けた。
▽象徴の在り方
そもそも養子案の原型となる旧宮家の皇族復帰は、小泉政権下の05年の有識者会議が「国民の理解と支持、安定性、伝統のいずれの視点から見ても問題点があり、採用は極めて困難だ」と全否定している。
元宮内庁幹部は「終わった話との認識だったが、21年の報告書で突然よみがえった」と違和感を覚えた。政府は整合性を明確に説明していない。「あのとき、もう決まっていたのだろう。政府はずるいですから」。側近ははばからずに言う。
国民に女性天皇を認める意識が広がる中、男系男子による皇統維持に固執した今回の典範改正に対し、元幹部は「象徴天皇の在り方をどう考えるかという視点が抜け落ちている」と指摘する。
先の大戦を経て、天皇は「象徴」となり、平成の時代、上皇さまは「国民と共にある皇室」を掲げ、国民に寄り添うことによって体現した。その在り方は天皇陛下が継承している。「国民の理解があってこその象徴天皇。お考えに一片のぶれもない」と側近は語る。
改正典範は付則で30年ごとの見直しを検討するとしている。「制度が固まったわけではない。国民の理解を望むという陛下の言葉は生き続ける。これで終わりではない」