外国人による違法薬物の密輸が今、相次いでいる。覚醒剤や大麻、近年「ゾンビたばこ」と呼ばれて横行する指定薬物「エトミデート」。手荷物に詰めたまま水際で摘発される者の多くが、SNSで高額報酬に釣られて仕事を請け負った世界各地の「闇バイト」だ。9月にあった事件からは、日本の社会問題同様、若者たちが依頼主の正体も知らぬまま犯罪組織の「駒」となっている実態が浮かび上がる。
SNSで報酬示され
9月5日、東京・羽田空港。ニューヨークからの到着便で25歳の米国人女性が降り立った。税関職員は彼女が引く二つのスーツケースに目を留めた。
「中を見てもいいですか」
見つかったのは、フィルムで三重に包まれた35個の袋。警視庁によると、中身は全て乾燥大麻だった。総量は30キロ(末端価格1億5000万円)に及んだ。
「国内では特に若者世代で大麻の乱用者が増えている。こうした密輸の摘発に力を入れているが、追いついていない部分がある」と捜査幹部は明かす。
女性は日付が変わった6日未明、麻薬取締法違反(営利目的輸入)と関税法違反容疑で現行犯逮捕された。今は無職で「SNSで『旅費も報酬も出る』という書き込みを見て、日本へスーツケースを運ぶ仕事を請け負った。中身が何かは知らなかった」と弁解したという。
依頼主の正体、何も知らず
女性には一緒に来日した女友達がいた。同い年の25歳で自称DJ。先に税関を抜け、1人で東京・新宿のホテルに滞在したが、7日に捜査員の追跡を受け、同じ容疑で逮捕された。「私は『一緒に日本へ行かない?』と誘われただけ。(先に逮捕された女性は)『5000ドル(75万円)稼げると言われたが、フラワー(大麻の隠語)を運ばないといけない』と言っていた」と話したという。
何者から指示を受け、報酬を約束されたのか、2人は知らなかった。SNSでメッセージを交わしただけで、「名前は男性」としか把握していなかった。
「ゾンビたばこ」でも
SNSで多額の報酬を示され、違法行為に手を染める。それが典型的な「闇バイト」だ。日本では闇バイトが強盗や窃盗、特殊詐欺事件で末端の「駒」として扱われるケースが後を絶たない。海外でも違法薬物の密輸に使われているとみられる。
羽田空港では米国の女性が捕まった数日後、マレーシア・クアラルンプールからの到着便でも乗客の手荷物から違法薬物が見つかった。台湾籍の女性のスーツケースにあったウイスキーの3リットル瓶に、エトミデートを溶かした液体が入っていた。
「5000台湾ドル(2万5000円)の約束で名前の分からない人物から頼まれた。瓶の中身は確認していない」
大学を中退し、親の保護下で暮らす無職の23歳。依頼は、やはりSNSで見つけたという。
「タダで海外旅行」で誘い
薬物密輸の疑いにより捕まる来日外国人の渡航元は多岐にわたる。警視庁の捜査幹部は「アルゼンチンやアメリカ、今回は台湾。特に女性を『運び屋』に仕立てる闇バイトが世界中に広がっている」と指摘する。
「海外旅行がタダで行ける。もしくは報酬が出る。そうした文句をうたい、荷物を運ばせる手口が多い。うまい話には必ず裏があるのだが」
今年に入り、成田空港(千葉県)や関西国際空港(大阪府)でも覚醒剤やエトミデートの密輸は相次いで摘発されている。いずれも背後に国際犯罪組織が関わっているとみられる。【洪香】