6月25日の夜、東京都内にあるホテルの日本料理店で、自民党の麻生太郎副総裁、鈴木俊一幹事長は2人の政治家と酒を酌み交わしていた。相手は国民民主党の玉木雄一郎代表と、榛葉賀津也幹事長。2時間に及んだ会食で、国民民主から2つの条件が示された。連立政権入りするための条件だ。 (1) 日本維新の会が「改革のセンターピン」と位置付ける衆院議員定数削減法案の成立を見送る (2)飲食料品の消費税率を1%へ引き下げる案は見送る ところが翌26日、自民と維新は国会で、定数削減法案を審議入りさせる日程を強引に決めた。国民民主は他の野党と足並みをそろえて対応に反発し、国会はしばらく空転することとなった。国民民主の自民に対する信頼が回復できないまま、高市首相は7月30日の消費減税方針表明へと動き出し、連立交渉は事実上ついえた。 幻に終わった国民民主の連立政権入りをひもとくと、交渉に当たった自民党幹部と、維新との信義則を重んじる首相の埋めがたい温度差が浮かぶ。首相サイドにある国民民主の「ある体質」への根強い不信感も見えてきた。(共同通信=植田純司)
▽相次いだラブコール
そもそも今年2月の衆院選で大勝を収めた後、自民は国会でどのような立場にあったのか。参院では少数与党。衆参両院で与野党の多数が異なる「ねじれ国会」の中、高市内閣は特別国会で綱渡りの対応を余儀なくされた。 参院では予算や法律を成立させるため、国民民主党や参政党、チームみらいといった野党にその都度協力を求める運営で乗り切っていた。
ねじれ国会の苦しさを、身をもって知る一人が麻生氏だ。首相を務めた期間の国会は終始、ねじれていた。 そのため、国民民主と接触のチャンネルを保ち続け、自身と義弟の鈴木氏だけでなく、古川禎久幹事長代理(当時)や松山政司参院議員会長らも加わり、それぞれのカウンターパートと関係を深めた。
5月になると、表の場で自民からのラブコールが相次いだ。「国民民主も(連立に)加わってもらうことが大切ではないか」(鈴木幹事長)、「参院で与党が過半数割れしている状況が続くことが国のために良いか悪いか、大きな視点から考えてほしい」(萩生田光一幹事長代行)。 国民民主の玉木代表も、こうした声に応じた。「一つ一つの政策を取り扱う中で信頼関係を高め、連携の在り方を考える」
そんな中で開かれたのが、6月25日の会食だった。この頃には連立後の選挙協力の在り方や、秋の臨時国会までに見込まれる内閣改造に合わせ、国民民主党から閣僚を起用する案まで議論されたという。
▽異例の極秘訪問
そんな麻生氏らの積み重ねをふいにした形となったのが、衆院議員定数削減法案の審議入り日程決定だった。 国会運営を取り仕切る自民党の国対委員長は、幹事長の意を受けて動く。しかし、鈴木幹事長が麻生氏と共に国民民主を取り込もうとしていた翌日の強攻策は、首相官邸の意向を受けて決まっていた。
なぜこうなったのか。
日本維新の会からは、自民党と国民民主党の接近をけん制する声が相次いでいた。藤田文武共同代表は5月20日、記者会見でこのように語っていた。「国民民主党に各所各所で協力をお願いするのは当然だが、連立政権合意にかなり強い思いがある。なし崩しは容認できない」 自民と維新の間で交わした連立合意には、定数削減が明記されていた。自民党は2月の衆院選で政権公約として掲げてもいた。これを進めない、という選択肢は高市政権にはないことになる。
定数削減の審議入り決定を機に国会が空転していたさなかの6月29日には、ある人物が自民党本部をひそかに訪問し、幹部と面会していた。国民民主の榛葉幹事長だ。 この動きについて、自民党ベテランはこう解説する。「他党の幹部が本部に来るのは異例だ。連立に向けた自民党の『本気度』を確認したかったのだろう」
会談に臨む日本維新の会の藤田幹事長(右、当時)と国民民主党の榛葉幹事長=2022年11月
▽不満を募らせた「おかわり」
「麻生、鈴木ライン」と「官邸サイド」。どの政党と連立を組むかについての考え方にはそもそもずれがあったと、ある自民党幹部は証言する。 「公明党が連立離脱を表明し、高市首相は首相指名に向けた戦略の練り直しを迫られた。その政権発足を支えた維新に、首相は強い恩義を感じている」
その一方で、国民民主の政治手法には官邸内で不満が蓄積していた。政権に協力する姿勢を見せる傍らで「年収の壁」をはじめとする党の政策実現を次々と求めてきた。首相に近いあるスタッフは「おかわり」と呼び、信頼するに足る相手ではないと厳しい目を向けていた。
そもそも、首相と玉木氏との個人的なつながりが希薄だったとの見方も根強い。玉木氏が7月下旬、記者団に漏らした言葉がそれを象徴した。「自民との信頼関係は変わっていないが、高市政権との信頼関係が高まっているとは言えない」。 自民党関係者は言う。「連立は結婚みたいなものだ。政策が一致し、信頼がなければ成立しない」
▽政界の霧の中へ
麻生氏が探り続けた連立拡大は、政界の霧の中へといったんは消えた。国民民主党との距離を縮める機会は再び訪れるのだろうか。
国民民主の玉木代表は、高市首相が消費税減税の方針を打ち出した7月30日夜、連立政権入りの可能性を問う記者団に不満げな様子で語った。「連携には基本政策の一致が大事だが、それが難しい」 参院で少数である以上、高市政権は10月5日召集の臨時国会でも、法案ごとに野党に協力を仰ぐ対応を迫られそうだ。他の野党と比較した場合、安全保障やエネルギー政策などで一致点が多い国民民主は依然有力な連携先となりうる。
接触を続ける自民党幹部の一人は「引き続き関係は維持する」と諦めない。鈴木幹事長は再任された9月16日の記者会見で、国民民主とは今後も連携を模索するとしてこう強調した。「今までの積み重ねが一切合切なくなるとは考えていない。究極的には連立を組むところまで行く」
ではこの先、維新との連立に重きを置く高市首相の心境が変わる局面は訪れるのか。国連総会に出席した後、9月23日の内外記者会見で国民民主と連立を組む可能性を聞かれると、首相はたびたび繰り返してきたフレーズで返した。 「政治の安定なくして、強い経済を実現するための政策も、力強い外交も、安全保障も推進していくことはできない。そのために必要な対応は常に考えている」