クマの動きが活発になる秋を迎え、各鉄道会社が列車とクマとの接触事故防止対策に本腰を入れている。列車の安定輸送や作業員の安全確保が目的だ。接触事故で運休を余儀なくされるケースもあり、草刈りをしたり、忌避剤を散布したりして、事故をなくすべく知恵を絞っている。(内間木蓮、新田健)
10月中旬、福島県磐梯町のJR磐越西線落合踏切近くで作業員3人が線路脇の雑草を刈り込んでいた。JR東日本による人とクマのすみ分けを図る「ゾーニング」。作業員らは線路内の安全確認後、大人の腰ほどの高さまで伸びた草をリモコン式の草刈り機で除草。作業を進めると、少しずつ視界が開けていった。
同社は今年度から福島、仙台、山形事業本部管内でクマに特化した接触事故防止対策を始めた。ゾーニングは8月から10月にかけ、磐越西線の一部区間約3・7キロを対象に線路脇の左右3メートルの範囲を除草した。
また、4月と10月には同線中山宿―磐梯町駅間で唐辛子由来のカプサイシンを含んだ忌避剤を散布。クマを含む野生動物との接触対策のため、9月~11月は磐梯熱海―中山宿駅間と翁島―磐梯町駅間のそれぞれ一部で減速運転している。
同社によると、三つの事業本部管内の磐越西線、奥羽線、仙山線、その他の路線で2025年度に発生したクマとの接触事故は43件で、前年度の9件を大きく上回った。全体の半数超を占める28件が10月~11月に発生し、クマの動きが活発になる秋に集中していた。
福島県内では計20件(磐越西線12件、東北線4件、只見線3件、奥羽線1件)が発生。昨年10月には、磐越西線でクマとの接触事故が起き、夜間の撤去ができず終日運休することもあった。
同社仙台事業本部の松本哲朗設備部長は「対策を実施した場所で一定の効果が認められれば、対策の範囲を拡大することも検討したい」と話す。
昨年度、クマとの接触事故が増加した背景には何があるのか。クマの生態に詳しい福島大食農学類の望月翔太准教授(野生動物管理学)は、東北地方でのブナなどの凶作があるとみる。
ゾーニングには一定の効果が期待できるとし、「対策区間と非対策区間を設けるなど、後から効果を評価できる設計で行う必要がある」と指摘する。
各地で出没が相次いでいることを受け、クマ対策への意識は高まっている。
会津地域の57・4キロを走る会津鉄道会津線では、今年度(11月1日時点)2件、昨年度は3件の衝突事故が起きた。件数に目立った増減はないものの、同社の担当者は「日常的に行う線路脇の草刈りもクマ対策の意味を込めて行わなければ」と気を引き締める。
福島、宮城両県を結ぶ阿武隈急行では昨年11月、福島駅発の下り電車が乗り入れているJR東北線上でクマと衝突した。状況を見ながら各社の対応を参考に対策を検討するとしている。
福島交通飯坂線では昨年度の衝突件数はゼロだったが、駅にクマスプレーを設置し、クマへの注意を促すポスター掲示などで利用者の安全確保に努めている。
平田産ハバネロ 忌避剤の原料に
列車と野生動物の接触を防ぐために散布される忌避剤には、福島県平田村産の激辛唐辛子「ハバネロ」も活用されている。
兵庫県朝来市の農業法人「三大」では、ハバネロの辛み成分「カプサイシン」を活用した動物忌避剤を関西大学と共同開発し、販売している。東北地方をはじめ、JR各社の路線でクマやイノシシなどの対策に使われているという。
福島第一原発事故後、県内の農業復興に関心を寄せてきた三大の吉井忠大社長(51)が4年ほど前、ハバネロを使った地域おこしに取り組む「道の駅ひらた」の高野哲也駅長(65)と出会ったことがきっかけだった。
色づきや虫食いなどの理由で食用として出荷できないハバネロを買い取り、原料の一部として使っている。吉井社長は「売り物になりにくいハバネロをお金に換えることで、地域の農業の活力にもなればうれしい」と話している。