連休明けの15日(火)、参議院予算委員会で国民民主党の森ゆうこ参院議員が質問した内容が、「外部に漏洩していた」とされ話題になっている。
森議員が質問通告を出したのは、台風19号が日本に接近しつつあった11日(金)の夕方で、その後も森議員は夜まで省庁側に資料を送付し続けた。台風のため、同日夜から翌日の交通や流通の情勢がわからないにもかかわらず、森議員の通告が遅れたことで官僚たちは不要な残業を強いられた、とネット上で話題になった。
14日(月)、筆者はネット番組「虎ノ門ニュース」で、個人的体験とネット情報に基づき本件について解説した。すると森議員らから、「質問通告の項目が(筆者に)漏れている」との抗議があった。
今回の本コラムでは、これらの一連の騒ぎを筆者なりに整理しておきたい。
まず、事実関係は次の通りだ。
(1)森議員が、元経産官僚で特区WG座長代理の原英史氏を15日(火)の参議院予算委員会の参考人として招致することを要求した。(2)森議員は11日(金)、質問通告項目を政府に通告した。(3)政府内の手続きを経て、内閣府の担当職員が森議員の質問通告項目を知った。(4)内閣府の担当職員は、原氏に森議員の質問通告項目について連絡した。(5)11日(金)の夜、筆者は原氏から電話で、「森議員の15日の参院予算委員会質問通告項目の中に、筆者(橋)の所属する嘉悦大学の名前が出てくるが、毎日新聞からの取材は(大学に)今もあるのか」との連絡を受けた。(6)同じ時間帯に、筆者は原氏から同じ内容のメールを受けた。添付資料はなかった。(7)筆者は原氏に、毎日新聞からの取材はないと答えた。原氏以外に、筆者が関係者と接触することはなかった。(8)明けて12日(土)と13日(日)に、筆者はツイッターなどで森議員の「質問通告遅れ」が話題になっていることを知った。(9)その際、筆者は森議員のツイッターで質問項目の中身、また元官房副長官・慶應義塾大学教授の松井孝治氏のツイッターでいわゆる「バッター表(質問の全体像)」などを見た。なお現時点では、両者ともに投稿は削除されているようだ。(10)これらの情報に基づき、筆者は14日(月)朝の虎ノ門ニュースに出演し、本件について話した。(11)森議員が15日(火)の参議院予算委員会で質問した。
(9)のツイートのスクリーンショットは以下の通り。
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(10)は、https://www.youtube.com/watch?v=QOgETSxyrrgを見ればわかる。(11)は、https://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.phpから検索できる。
なお、(5)の毎日新聞による取材の件については、若干説明が必要だろう。筆者は10月11日に「高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 国家戦略特区をめぐる『毎日の異様な報道』」(https://www.j-cast.com/2019/10/11369877.html)という記事を書いた。たまたま直前にはなったが、今回の騒動とはまったく無関係に書いたものである。
その中でも触れている通り、筆者の大学は毎日新聞からあらぬ疑いをかけられており、さらに筆者ではなく、筆者のまわりの人が取材されている。この件については原氏も取材の対象になっている。そこで原氏は筆者に、「嘉悦大学では、まだ毎日新聞の取材が続いているのか」と聞くために連絡をしてきただけだ。
参考人として国会に招致される可能性のある原氏としては、「嘉悦大学」という固有名詞が森議員の通告項目中にあるならば、答弁のために確認するのは当たり前のことだ。
以上が一連の事実関係であり、筆者らには何らやましい点はない。
ところが森議員は、「自分の質問が筆者に事前に漏れていた」として、次のような面白い「ロジック」を披露している。国民民主党の原口一博議員も同調しているので、そのスクリーンショットを掲げておこう。
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この「ロジック」はお笑い草である。論点は3つある。
第一に、通告された質問項目は、国家公務員が守秘すべき秘密か否か。
第二に、今回森議員が炎上した理由は何か。
第三に、憲法で保障されている議員の質問権は侵害されたのか。
まず第一の論点だが、原氏も筆者も国家公務員ではないので、質問内容について原氏が筆者に伝えたこと、さらに筆者がインターネット番組で話すことには何の問題もない。
問題は、原氏に伝えた内閣府職員であるが、原氏は森議員から参考人招致要請を受けているので、質問項目を伝えないわけにいかない。正当な業務の範囲内である。森議員は、自らが要望した参考人にも質問項目を伝えてはいけない、伝えたら国家公務員の守秘義務違反にあたる、と言うのだろうか。
そもそも、質問項目の漏洩が国家公務員法上の守秘義務違反にあたるのか。筆者の答えはノーだ。
地方自治体の中には、大阪府議会や和歌山県議会のように、議員の質問項目を公表することを義務付けているところさえある。公表を義務付ければ、くだらない質問を抑制する効果もある。
また公表することによって、住民の政治・行政に対する意識が高まることも期待できる。プロ野球では、今や予告先発投手を公表してファンを楽しませようとする時代だ。ちなみに、フランス国会でも質問は公表される。
昨今では、国会改革や公務員の働き方改革が声高に言われているので、いっそのこと国会質問も事前公表制にしたらいい。そうなれば、今回のような「通告期限遅れ」という問題はなくなる。どの議員がどんな質問を、いつまでに通告しているかがはっきりするからだ。
実際問題として官僚は、質問通告の中に固有名詞が登場すれば、想定回答の作成のために、登場する関係先に問い合わせているのが実態だ。その問い合わせを、守秘の観点から禁じてしまえば、おそらく役所は想定回答を作れなくなり、一般論でしか質問に答えなくなる。それで国会の使命が果たせるのだろうか。
野党の国民民主党が、質問項目を事前に知られたくないという意識を持っていることにも違和感がある。森議員の通告遅れを指摘されたくないから、問題のすり替えを行っているのではないか、と言わざるを得ない。
実際、現時点では取り消しているようだが、森議員も自身のツイッターでおおよその質問項目を示していたではないか。それを後になって「漏らしたのは国家公務員法違反」と言うのは、あまりにご都合主義ではないか。
なお国民民主党は、森議員の通告遅れについて検証すると言いながらそれを怠り、反対に「質問通告漏洩問題調査チーム」を立ち上げた。その議論は密室で行われ、公開されていない。
第二の論点として、森議員や国民民主党は、あたかも質問項目が漏れたことによってネット炎上が起きたかのように言っているが、そもそも炎上の原因は、森氏が通告期限を守っていないことに関して、ネット上で官僚とおぼしき人物による告発投稿があったからだ。
そこには質問内容は書かれておらず、守秘の問題は生じない。通告期限遅れをネットで指摘されたことに、国家公務員法違反を持ち出して反論するのは、恫喝に近い。
筆者がこうした意見を述べるのは、社会的に意味があると考えるからだ。というのも、議員の通告遅れによって、実際に国民や国家公務員が損害を被っている可能性もなくはないのだ。
荒っぽい試算であるが、通告遅れによる国民経済上の損失は、少なくとも〈待機人員総数×待機時間×残業単価〉から導かれると考えていいだろう。予算委員会は全閣僚が出席するので、待機人員総数は多く、課数×要員で500×4=2000人。待機時間は5時間。残業単価は公務員時給2500円の1.5倍で3750円。これらから、損失は大まかに3750万円と試算できる。
もっとも現実には、国家公務員は労働基準法の対象外なので、これらの残業手当が払われることはなく、泣き寝入りになるだろう。それでも、国の損失であることは間違いない。
第三の論点に移ろう。憲法で保障される国会議員の免責特権は、何のためにあるのか。もちろん、自由な言論活動を保障するためだ。ただし、今回の森議員の場合、根拠のない資料を堂々と国会中継で放映させ続けるなど、権利濫用の疑いも否めない。
森議員が15日の参議院予算委員会で質疑に使用していたパネルは、今年6月11日の毎日新聞1面トップ「特区提案者から指導料 WG委員関連会社 提案者から指導料200万円 会食も」(https://mainichi.jp/articles/20190610/k00/00m/040/284000c)にもとづいたものだったが、原氏は現在、この記事に関して毎日新聞を相手取り、裁判で争っている。
その過程で、原氏が金品の授受や飲食を受けていないことは毎日新聞も認めており、そのことは原氏も既に明らかにしている。にもかかわらず、原氏に対する印象操作を行うのは、国会議員の品位にかかわる。
実は、質疑には出てこなかったが、筆者の写真も国会中継で映り込んでいた。
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このパネルの元になっている画像は、ネット上でも出回っているが、事実無根なものだ。詳しくは、10月11日「高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 国家戦略特区をめぐる『毎日の異様な報道』」(https://www.j-cast.com/2019/10/11369877.html)をご覧いただきたい。出典が明らかでなく、事実でもない資料を、国会審議で使っていいのだろうか。
森議員が今回やったことをまとめよう。
・史上最大級の台風が接近していたにもかかわらず、質問項目通告時間(10月11日 17時)を守らず、霞が関職員に不必要な待機を強いて、大きな無駄を生じさせた。
・民間人の参考人招致を要求しておきながら、国家公務員が国会で証言する可能性のある当該民間人に森議員の質問項目を伝えると、国家公務員法違反(守秘義務違反)になると主張した。
・ネット上の出所不明なデタラメ資料を予算委員会席上で公開し、晒された人の人権を著しく侵害したにもかかわらず、憲法上の議員免責を主張し、加害者なのに被害者のふりをした。
・国民民主党は、情報漏洩についての調査は行う一方、自党議員の通告遅れ問題に関しては放置している。しかも、情報漏洩調査チーム議論は非公開で、隠蔽体質だ。
こうしたことを考え合わせれば、むしろ森議員こそ懲罰に値すると思う。原氏や筆者が発起人となり「国会議員による不当な人権侵害を許さず、 森ゆうこ参議院議員の懲罰とさらなる対策の検討を求めます」(http://chng.it/k5rCD2jQKn)というサイトを作ったので、是非賛同してほしい。