国鉄の名車が泣いている…立ち上がった11歳 「ナハネフ22」救出タッグ

国鉄の名車は、11歳のボクが守ります-。福岡市東区の貝塚公園に飾られている寝台特急「ブルートレイン」の客車「ナハネフ22 1007」が劣化から解体の危機に陥る中、地元の小学生が修復への活動の先頭に立っている。相棒は東京の40代会社社長。クラウドファンディングで資金300万円を募り、塗装や防さび対策などを施す計画だ。2人は声を合わせる。「これから新たに鉄道好きになる子どもたちのために残そう」と。
国内唯一の車両
貝塚公園の近くに住む5年生の坂井利優(かずま)君(11)と東京都在住の高橋竜さん(45)。世代と距離を超えて2人を結び付けたのは「昔の国鉄車両の温かみが大好き」という共通した思いだ。
貝塚公園のナハネフは1965年の製造。現役時代、東京-博多を走った寝台特急「あさかぜ」や、九州内の寝台急行「かいもん」として活躍した。87年に引退、90年にJR九州が福岡市へ貸し出し、交通公園である貝塚公園で第二の人生を送っている。
編成の最後尾に連結され、制動機を備える「緩急車」と呼ばれる車両で、貝塚公園の車両には〈急行〉のテールサインが付いている。20系の緩急車が国内で公開されているのは、他にさいたま市の鉄道博物館だけ。特に貝塚公園の車両は「ナハネフ22 1007」。1000番台は改造車の意味で、国内唯一の貴重な車両だ。
「走るホテル」だった
ナハネフは寝台列車が長距離移動の主流だった時代の寵児(ちょうじ)だった。多くの旅客を運ぶための3段ベッド方式で、冷暖房を完備。「『走るホテル』って呼ばれていたんですよ」。10月にあった車両内の公開イベントで、車掌姿の利優君が見物客をガイドしていた。
魅力は他にもある。例えば四隅が丸くなった窓。旅心を誘うデザインだが、利優君によると「この形にすることで汚れを拭き取りやすくしている」そうで「『機能美』にあふれた車両です」。先端には展望スペースもあり、現代の観光列車の先駆け的な存在でもあった。
一度修復も再び傷む
このナハネフ、高橋さんとの出合いがなければ、既に解体されていたかもしれない。
10年ほど前のこと。高橋さんは鉄道の専門誌で各地に残る20系車両の写真を見た。そこに1枚のモノクロ写真が目に入った。窓は割れ、中はボロボロ。貝塚公園のナハネフだった。
「これはまずい」。導かれるように東京から飛行機で福岡に向かった。福岡市やJRから許可を取り、仕事が休みの週末に通って修復作業に当たった。費用350万円は手出しだったが、車両は現役時代の輝きを取り戻し、お披露目イベントが大々的に開かれた。
だが、雨ざらしの車両がまたすぐ、再び傷み始めた。高橋さんは再度の修復を計画。2017年にクラウドファンディングで資金調達に挑んだが、思うように集まらず失敗に終わった。
「ナハネフが泣いている」
一方、物心ついたころから貝塚公園に通っていた利優君。最初は交通公園の信号や標識がお目当てだったが、興味はやがて高橋さんの修復でピカピカに生まれ変わったナハネフに移った。以来、春と秋の車両内の公開にも必ず参加、高橋さんのガイドに耳を傾けた。
昨年秋の公開のこと。塗装がはがれ、金属部分のさびも、屋根部分の腐食も進んだ車両を見て、利優君は感じた。「ナハネフが泣いている」
勇気を出して高橋さんに思いを伝えた。「僕は小学生ですけど、できることはありませんか」。心意気を受け、高橋さんは再び、クラウドファンディングを活用した修復活動への挑戦を決めた。
未来の「鉄」のために
20系の車両を使ったブルートレインは、新幹線を世に送り出した第4代国鉄総裁・十河信二と技師長・島秀雄のコンビが生みだしたという。深夜に関西の都市部を通過するため、国鉄内にも反対意見があったが、新しい鉄道の時代を切り開くために実現へ押し切った経緯がある。
貝塚公園のナハネフも、復活へのレールは決して平たんではない。クラウドファンディングの目標額は300万円だが、実際の修復には800万~1000万円がかかり、足りない分は高橋さんが再び自腹を切る。
さらに永続的な保存対策などの課題も残っている。それでも高橋さんは「国鉄のロマンが込められた車両をそう簡単にあきらめるわけにはいかない」と力を込める。
利優君も同じ思いだ。「僕のように古い車両が好きな子どもが将来出てきた時、実物を見て、同じワクワクを感じてもらいたいんです」
2人の「鉄分」が、名車に輝きを取り戻す。(中野剛史)
■メモ■ 新たなクラウドファンディングは9月28日に開始。専用サイト「READYFOR」で11月29日まで、目標額を300万円に定めて募集している。10月24日時点で54%を達成している。目標額に達しなかった場合は給付されない。寄付金に応じ、利優君のメッセージや、記念切符などが贈られる。高橋さんによると、修復作業は来年1~3月を予定。防さび処理、破損部の補修、窓枠のゴム取り換えなどの作業を、現役車両のメンテナンスを手掛ける会社に依頼する。