総合人材サービスを手掛けるパーソルキャリアは10月31日、キャリア相談に関するサービス「クラウドキャリアコーチ」を開始した。1回30分程度の電話によるコーチングを4回、1万9800円(税別)で提供する。「転職」を前提とせずにコーチングすることで、キャリアに関する幅広い選択肢をユーザーに提供する狙いがある。
サービスは、同社が展開しているハイクラス人材向けプラットフォーム「iX」で提供。ターゲットとする「ハイクラス人材」は、単に「役職が高い」や「年収が高い」という条件ではなく、キャリアを戦略的に築くことを目指す人全般を指すという。
終身雇用制度や新卒一括採用といった、日本企業の慣習的制度が変革を迫られる中、1人1人が描くべきキャリアの像が変化し始めている。かつては新卒で入った会社に定年まで勤め上げるのが一般的だった。しかし、現在では転職や独立などを視野に入れた戦略的なキャリア設計の必要性が高まっている。一方、自らのキャリアを考えたときに、どのようにすれば良いのか悩む人も多い。クラウドキャリアコーチは、こうした人に対してコーチングを提供することで、キャリア構築を支援したい考えだ。
事業担当者である清水宏昭iX統括編集長は「コーチングは、カウンセリングやコンサルティングと違う」と話す。一般的に、カウンセリングは問題となっている事柄の原因を見つけることが目的とされる。また、コンサルティングは外部から専門家の視点を生かし、アドバイスをすることがメインだ。
コーチングは、コーチがユーザーに質問を投げかけることで、自発的に課題に気付いたり、解決方法を見つけたりすることを助ける。日本ではまだ一般的ではなく市場規模も300~500億円程度だというが、「1on1」という、上司と部下の意思疎通を行う制度として広まりつつある。より先進的な米国では、仕事に関することだけでなく、人生全般や恋愛に関する事柄などでもコーチングを受ける人も多いという。
なお、クラウドキャリアコーチでは、企業向けに1on1のコーチングサービスを展開しているエール(東京都品川区)と連携。コーチング自体は、エールに登録しているコーチ陣が行う。ユーザーとコーチの相性も重要だとされ、マッチングは人工知能を用いて行われるという。
必ずしも転職しなくても良い
これまでキャリアに関するコーチングサービスはB2Bのものがメインだった。B2Cのサービスもあるが、多くは役員などエグゼクティブ層向けのサービスで、高価なものがほとんどだという。
また、B2Bのコーチングは企業の人事部主導で行われるものが多いため、どうしても転職に関する話題を出しづらい傾向にあった。例えば、「転職を絶対にする」という気持ちがなくても、所属している企業に縛られないようなキャリアを形成するための相談がしづらい環境にあったという。
パーソルキャリアが展開している転職エージェントでも、キャリアに関する相談はできる。ただ、実際には転職を前提として話が進められることも多く、「今置かれている現状に対してどのようにすれば良いのか、という課題になかなか答えられていない」(清水氏)。クラウドキャリアコーチではこうしたニーズと現状のずれについて、転職を前面に押し出さないサービスで解決し、利用者の間口を広げる狙いがある。
清水氏によると、iXのサービスは「キャリア戦略プラットフォーム」と銘打っているが、そのほとんどは転職に向けたものだ。利用する人も、転職をするつもりで登録する人が多いという。一方で「転職をする回数で、最も割合が高いのは『1回』。転職するつもりで相談してみても、自分の思いや課題が明らかになり、結局転職せずに今の職場に残る人も多い」と清水氏。転職を含めて、自らのキャリアを内省する制度として、コーチングは浸透していくだろうか。