人が辞めていく“ブラックな職場”をどう変える? サイボウズの実例に見る「制度の選択肢を増やすこと」の効用

こんにちは! サイボウズチームワーク総研のなかむらアサミです。サイボウズで人事や広報・ブランディングを経験し、現在は、サイボウズのノウハウを他社の組織開発に生かすチームワーク総研という事業部でシニアコンサルタントをしています。

前回は営業組織における「楽しさ」のつくり方について具体的に紹介しました。今回は、サイボウズの実例を交えながら、「どうすれば組織に『楽しさ』が生まれるか」を紹介してみたいと思います。ぜひ参考にしてください。

サイボウズが、4人に1人が辞める割合で離職率が高い会社だったことは、以前のコラムでもお伝えした通りです。

80人のうち4人に1人が辞めるというのは、毎週のように送別会が開かれていたような状態ですから、あまり「楽しさ」があるような状態ではなさそうですよね。実際その場にいた身としては、楽しさがゼロではないのですが、どちらかといえば、どの社員も「目の前のことにいっぱいいっぱい」だったという表現が的確かもしれません。

人事としては、当然ながら「危機感」がありました。当時のサイボウズはまだ創業して8年ほどのベンチャー会社、かつB to Bということもあり、新卒の人気はない、中途で採用しても辞めていく、当時はITバブル期でもありましたので派遣社員の採用ですら困難、という4重苦が、入社したての私が実感した現実でした。私のほうが「想定外だった」と辞めたくなるような状況です(笑)。

制度を作るだけでは補えないこと
そういう状態でしたので、せめて「現在いる社員が長く働ける会社にしよう」と手を打ち始めました。創業して8年ほどのベンチャー会社だったこともあり、ほとんどの制度が外から借りてきたような、いわば自分たちの意思が入っていないありふれたもの。ここに着手して、「6年間取得できる育児介護休暇」を皮切りに、さまざまな制度づくりを始めていきました。

制度づくりと並行して行ったのが「社員が仲良くなる場づくり」でした。4人に1人が辞める会社の社員同士が「仲が良い」わけがありません。大声で社内でけんかをしているといった、分かりやすい状況は(大人なので)なかったのですが、部署間調整がうまくいかず、仕事が宙に浮いたり、過去にカンパニー制をとって社内競争をしていた背景などもあり、「円満」とはいえない状況でした。

社員が仲良くなる場づくりの具体的な例を下記に挙げます。

まずは、「部署を越えて5人以上集まること」を条件とした部活動の奨励。誕生月の人たちで集まってランチやディナーに行くことの奨励。当時も誕生月の人には全社会議で花束とワインを贈ることもしていましたが、「部を越えた集まり」になることを期待して現在のように変えました。

そして、部内でのキックオフや歓送迎会、「仕事Bar」(ちょっと真面目な仕事の話を、飲食をしながら緩い雰囲気で行う会議のこと)などを奨励する形で、次々と「部署を越えた集まり」を促していきました。

それまで部活動もゼロではなかったのですが、「部費が出る」ということで、その活動に勢いが出るようになりました。野球部がユニフォームを作製したのを皮切りに、「本当に部費を使っていいんだ」と皆が部費利用に前向きになり、次々に部費申請、新規部活動申請が上がってきました。今思えば、まさに現金な感じですが(笑)、活動の促進に費用補助は大きな役割を果たしたと思っています。

「費用負担を会社が行いました」と話すと「業績に影響はないのですか」と質問されるのですが、最大で利用しても一人あたり数万円程度、かつ全員が利用するわけでもないので、業績に影響するほどの費用にはなりません。むしろ私たちが行いたかったのは「部署を越えて社員が仲良くなること、交流を深めること」なので、費用負担は手段です。会社負担も入れて奨励することで、仕組みの目的が伝わりやすくなり、社員の心を動かせたと思っています。

楽しさと主体性を生むのは「選択肢を増やす」こと
社員が働きやすい制度も整えながら「社員が仲良くなる場づくり」も行うこと。これが私たちがしてきたことであり、並行して行うことで人事からの「変わろう」というメッセージが伝わりやすくなり、風土醸成に寄与したと考えています。制度を作るというと、人事としては気が引けがちですが、私たちが行ったことは、「現在あるものを壊して新しいものに」ではなく、「制度を増やす」ことでした。

一律の働き方ではなく、在宅勤務や時短、日数など「自分で働き方を選べる」制度、6年間の育児介護休暇も(介護は要介護などにかかわらず)、自分で休む期間を決められます。副業をするかしないかも自分で決めてもらいます。退社するときに、戻ってくる権利をもらうかどうかも自分で決めてもらいます。基本的に制度を使うか使わないかは「社員個人が決める」としています。簡単に言えば人事部は選択肢を増やしただけ。これが好評でした。

例えば、「今週1週間のランチは毎日カツ丼です」と言われたら、1週間毎日カツ丼を食べるでしょうか? その日の気分によって食べたいものも、食べれる量も変わるのが人間だと思います。私たちは意志ある動物なので「選びたい」のです。

この例は極端ですが、自分が今日どのように働くかも、「選べる」ようにしたのがサイボウズの人事制度です。入社時に「こう働く」と決めたものを一生続けるのは、人生何が起こるか分からない時代、ましてや「人生100年時代」といわれているライフスタイルに沿ったものとはいえなくなっています。

当たり前ですが、制度を利用するのは人事部含めた「社員」です。利用する人が「決める」。これにより「なぜ自分がそう決めたのか」という理由が自然発生するので、社員各自の行動に責任を持ち、主体性が生まれてきます。

逆に、自分であらゆることを決めることになるので、厳しいと思われる方もいらっしゃいます。毎日、「あなたは今日、会社に来ますか? 決めてください」といわれているのと同じだからです。当然ながら、先に伝えた部活動や誕生日会もやるやらない、入るか入らないは自由です。これも選択ですね。

4人に1人が辞める仲が良かったわけでもない会社が変わったきっかけ――それは、社員の「楽しさ」を増幅させる横のつながりの支援と、制度の選択肢を増やすことでした。これが、部活動に入る・入らないから、自分の働き方に至るまで、各人が「自分で決めていいんだ」と裁量を持てたことの喜びを生み、理由を考えて行動するようになる主体性を生みました。仕事に「楽しい」を持ち込むことを推奨した結果、「辞めない」会社になり、業績拡大の大きなエンジンとなりました。

社員に「楽しさ」や「裁量」を与えたら好き放題するのではないか――出てきそうな質問です。しかしどうでしょう。あなたは楽しさや裁量を与えられたとき、「好き放題」しますか?

そもそもそんな人は入社させてはいけないとも思うのですが(笑)、身をわきまえた行動をするのが多くの社会人だと思います。「好き放題」する人がいたら、「それは趣旨とは違うよ」と“叱るのではなく説明する”こと、情報をオープンにして「周囲の目」を意識させる仕組みも並行して行うことが大事です。

「ルールだから」で裁量を押さえるのではなく、目的に沿った使い方を促すことが制度を運用する人事部やマネジャーに求められることです。生産性を高める前に、個人の幸福度を高めること、そのために組織に「楽しさ」を生む仕組みについて、ぜひみなさんの組織でも考えてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール・なかむらアサミ
サイボウズチームワーク総研 シニアコンサルタント。サイボウズに人事として入社。その後、広報・ブランディングを経て、現在は、企業や教育機関など幅広い層にチームワークを伝えている。

離職率高い時期の人事経験など、組織の風土が変わっていく様子を体感してきているため、風土改革の沿革やチームビルディングの話をする機会が多い。