パナソニックがGoogle部門長や「出戻り人材」を幹部に 目玉人事はただの話題作り?

パナソニックが米Googleの幹部だった人材を役員待遇で招聘したことが話題になっている。同社はこれまでも、Microsoftの日本法人トップを務めた人物を出戻りで幹部に据えたり、証券会社の著名アナリストを戦略担当として迎え入れるなど、いわゆる目玉人事を行ってきた。

こうした人事は外部に改革をアピールする効果があるほか、生え抜きの社員に対して刺激を与える狙いもあるが、単なる話題で終わってしまう可能性もある。

日本マイクロソフト会長や著名アナリストも抜てき
パナソニックは10月17日、Googleのスマートホーム部門の責任者だった松岡陽子氏を役員待遇のフェローとして招聘すると発表した。

松岡氏はユニークな経歴の持ち主である。同氏は10代の頃、プロテニス選手を目指して渡米し、マリア・シャラポワ選手や錦織圭選手などを輩出した名門テニス・アカデミーに入った。だが、ケガのためプロのテニス選手の道は断念し、その後は、カリフォルニア大学バークレー校やマサチューセッツ工科大学(MIT)などで学び、研究者としてキャリアを積んできた。

最近では、Googleのスマートホーム部門で家電とITの融合に関する事業責任者を務めた実績がある。パナソニックでは、ITを活用することで家電と住宅を統合する、HomeXと呼ばれる事業を担当するという。

パナソニックは近年、松岡氏のように外部の人材を目玉人事として登用するという試みを積極的に行っている。16年には、著名な証券アナリストだったメリルリンチ日本証券調査部長の片山栄一氏を幹部として採用し、17年には、日本マイクロソフトの会長を務めていた樋口泰行氏を専務に据える人事を発表している。樋口氏はもともとパナソニック(松下電器産業)の出身であり、日本企業としては珍しい出戻り人事として話題になった。

ちなみに今回、松岡氏を引き入れるきっかけを作ったのは、同社コーポレートイノベーション担当参与を務める馬場渉氏だが、馬場氏は中央大学を卒業後、ERP(基幹統合)システムを手掛けるSAPジャパンに入社し、バイスプレジデントなどを経験した後、やはり目玉人事として17年にパナソニックに入っている。

樋口氏、馬場氏、松岡氏は、いずれも外資系企業の出身で、業界のキーマンということになるので、ITの本場における知見をパナソニックの製品開発に生かしたいとの狙いがあると思われる。

片山氏も外資系出身だが、もともとは野村證券であり、証券アナリストの場合、出身が外資かどうかは仕事ぶりにはあまり関係しない。現在、片山氏は戦略担当の幹部として事業計画の策定などに従事しているが、投資家から自社がどう見えるのかという、社外の視点を求めた結果と考えてよいだろう。

外部の知見導入に加え「社内を刺激」
こうした人事には、外部の知見を活用するという目的に加えて、組織に刺激を与える狙いもある。樋口氏はその典型だが、もともとはパナソニックに在籍していた人物が、外資系トップなどを経て出戻りということになれば、いやがおうでも社内から注目を集める。

パナソニックは特にその傾向が強かったが、日本企業では、新卒一括採用、年功序列、終身雇用というカルチャーが当然視されてきた。生涯安心して勤務できるというメリットがある反面、同じメンバーで組織が固定化されるので、どうしてもマンネリ化してしまう。樋口氏のような人材が幹部になれば、自身のキャリアについて、真剣に考える社員は増えてくるだろう。

これに加えて、こうした目玉人事には一般社会に対する効果もある。

ユニークな経歴を持った人材の招聘がニュースで取り上げられれば、外部に対してオープンな社風をアピールできる。「この会社は出戻りもできる」「外資からも優秀な人材が入ってくる」となれば、同社への就職を検討している学生の印象も向上する。

もっとも、組織全体を変えずに一部の人材に限って目玉人事を行っても効果は薄いとの見方も根強い。多様な人材が欲しければ、最初から多様な人材を採用すればよく、従来の硬直的な人事制度を維持したまま、ガス抜き的に一部の人材を外部から採用するだけでは、見掛け倒しにもなりかねない。

では、一連の目玉人事はパナソニックの経営に大きな成果をもたらすのだろうか。

昔からあった「古い会社のイメチェン人事」
答えはまだ出ていないが、今のところ市場からの評価は半分半分だろう。というのも、こうした目玉人事というのは、実は昔から行われており、どちらかというと、旧態依然とした企業がイメージチェンジのための実施するケースが多かったからである。

パナソニックの兄弟会社(パナソニック創業者の松下幸之助氏の義弟が同社から分離する形で独立)で、既にパナソニックに再び吸収されている三洋電機は、05年に経営危機に陥った。同社は、元テレビキャスターで社外取締役をしていた野中ともよ氏を会長兼CEOに据えるというサプライズ人事を発表したが、わずか2年後に野中氏は辞任に追い込まれている。

NTTドコモは97年、iモードのサービスを立ち上げるにあたり、リクルート出身の松永真理氏やベンチャー企業幹部だった夏野剛氏を迎え入れ、サービス開発を担当させた。よく知られているようにiモードは一時的には大成功を収めたが、その評価は分かれている。

iモードは、現在グーグルなどが行っているオープンなビジネスとは正反対の、典型的なガラパゴス・ビジネスであり、iモードの成功が逆に同社のガラパゴス化を促進してしまった面があることは否定できないだろう。その意味でiモードはもっともNTTらしい(官営企業らしい)ビジネスだったといってよい。

夏野氏や松永氏がビジネスパーソンとして優秀であることは誰もが認める事実だろうが、両名がいないと、このビジネスが立ち上がらなかったのかというとそうではない(当時は、夏野氏や松永氏がこうした内向きなビジネスを展開したことに驚いた人も多かった)。こうした目玉人事でNTTドコモのイメージが向上したことが最大の成果といってよいかもしれない。

パナソニックのライバルであるソニーは経営危機を経て大規模なリストラを実施し、現在は最高益を更新するまでになったが、ソニーと比較するとパナソニックの業績は大きく見劣りがする。一連の人事が効果を発揮するまでには少し時間がかかるだろうが、あと数年以内に目立った変化がなければ、単なる話題作りと評価されても仕方ないだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)