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「孤独死」は、ただ人が亡くなっただけではなく、現実的なリスクも生み出す。居住者が亡くなって、流れ出て床に染み込んだ体液や、湧いた虫の除去・消臭・除菌などの部屋のクリーニング代には、数十万円もの費用がかかる。さらに、高齢者の場合は、ゴミ屋敷のように物で溢れていることも多く、遺品整理・処分にも数万~数十万単位で費用がいる。
体液を除去する特殊清掃が施された孤独死物件の床(写真提供:成仏不動産)
それらを施しても、次の部屋の借り手が見つからなかったり、隣室も含めて大幅に家賃を引き下げる必要まで出てくる。アパート経営者にとっては死活問題である。また、借りる側にとっても、自分が「孤独死」すると、滞納家賃から、クリーニング代、遺品整理費用などの損害賠償請求が遺族に行くのは不本意なことに違いない。
そこで、登場してきたのが「孤独死」によるリスクを保証する「孤独死保険」だ。通称「ミニ保険」と呼ばれるもので、「孤独死現況レポート」を公表した少額短期保険会社を中心に取り扱いが急増している。これには、家主や管理会社が加入する「家主型」と賃貸住宅の入居者自身が加入する「入居者型」がある。
例えば「家主型」だと1戸室当たり年間保険料3600円で、遺品整理費用・原状回復費用について1事故限度100万円、家賃保証について1事故限度200万円といった保証を受けられる。「入居者型」は、賃貸入居時の火災保険の中にも「孤独死保険」が入っているケースもあるようだ。これは通常の火災保険に、死亡による修理費用(50万円を限度)や遺品整理費用(50万円を限度)の保証が含まれたプランである。
ここに事故物件となったものの、大幅にリフォームされて生まれ変わった物件がある。東京都調布市にあるワンルームの賃貸アパートだ。まるで新築さながらに綺麗に仕上げられた部屋に、「事故物件」のイメージはない。
東京都調布市で孤独死が起き、リフォームされたワンルームアパート(提供:成仏不動産)
一連の記事で取材してきた、「事故物件」専門の不動産紹介サイト「成仏不動産」を運営する佐藤祐貴さん(31)が言う。
「ここは、離婚した60代の男性が一人暮らしをしていた部屋で、ご遺体は玄関で見つかりました。おそらく苦しんだ末に、助けを呼ぼうとやっとのことで玄関までたどり着いたところで息絶えたようです」
亡くなった時期は2018年7月、死後2週間は経過していたらしい。同じアパートの住民から「異臭がする」「窓に大量のハエがとまっている」「最近そこの住人を見かけない」という連絡が管理会社にあったために、警察に通報し、元妻立ち会いのもと解錠に至ったという。
「夏場だったので、腐敗がだいぶ進んだようです。玄関のご遺体は溶け切ってしまい、床には這いつくばるように人型の体液が染みついていました。特殊清掃業者さんに入ってもらいましたが、死臭が取り切れない。
このままでは次の借り手を見つけるのは難しいかもしれない…。オーナーさんと相談して、大規模なリフォームを行いました。亡くなられた玄関を中心に大幅に変え、フローリングを張り替えるのはもちろん、壁紙も色も含めて以前とはまったく違うものに取り替えました。場合によっては、『ここで亡くなったんだ…』というイメージを喚起させないように、間取りを変えてしまうこともあります」
特殊清掃、遺品整理に続いて完璧なリフォーム……。「事故物件」の残像を払拭するために、あらゆる手立てが講じられるのだ。
敬遠されやすい事故物件だが、あえてそういう物件に住みたがる人も少なくない。どのような人たちのニーズがあるのだろうか。前出の佐藤さんは言う。
「これまでは、家賃の安い事故物件を見つけるためには、不動産会社をはしごして直接尋ねるしか方法がありませんでした。ネットで簡単に検索できるようになったことで、多くの問い合わせをいただいています。
事故物件を借りたいという方は、若い単身者世帯や、DINKs世帯(共働きで子供を意識的に作らない、持たない夫婦)などが多い印象です。老後のために、家賃をできるだけ抑えてお金を貯めたいというドライな感覚の方も増えています。
また、子供が独立したタイミングで住み替えを検討していて、リノベーションしてあれば気にしないという高齢の方もいらっしゃいます。高齢や不安定な収入、前科などの経歴を理由に部屋を借りるのを断られてしまった『住宅確保困難者』の方から相談を受けることもあります」
また、「成仏不動産」では、SNSを利用して「孤独死」に対する意識調査を行っている。同じくサイトを運営する有馬まどかさん(27)に聞いた。
「回答数は多くなかったのですが、60歳~89歳の男女のみなさんが答えてくれました。それによると、傾向としては、シニア層の一人暮らし世代は孤独死を身近に感じてはいるものの、当事者意識はとても低いことがわかりました。回答者のうち、一人暮らし世帯の割合は、60代が約47%、70代が28%、80代の50%となっています。
一人暮らし世帯で、積極的に社会的コミュニティと関わっていない人の割合は、全体の44%と高い水準になっていて、理由としてもっとも多いのが『面倒臭くなった』というものでした。また、地域住民と関わっていない人全員が孤独死を身近に感じているという結果が出た一方で、孤独死しないための取り組みについては『興味がない』と答える人が圧倒的に多いという結果となりました」
これはどういうことを意味するのか。有馬さんは、「この傾向はいずれセルフネグレクト(自己放任)に陥る危険性があります」と言う。
「孤独死や社会問題となっているゴミ屋敷。このほとんどが、ごく普通に生活していた人たちなんです。それがセルフネグレクトと呼ばれる状況に陥ると、第一段階として社会への関心が薄れ、次第に自分自身にも関心が持てなくなります。生活環境も自身の栄養状態も悪化していく一方でも、周囲に助けを求めない。果てはそのまま亡くなってしまうというケース。そういった、孤独死予備軍と呼ばれる人たちへのケアが至急必要なのではと考えています」
「事故物件」にも業界のセオリーを作っていく必要がある――。そう前出の佐藤さんは指摘する。
「今はまだ、事故物件についてのルールは不透明な部分が多く、『事故物件になってしまったから、この金額と言われてもしょうがないよね』というのがオーナーさんや事故物件を相続された方の正直な思いなんです。なかなか、そのグレーな部分は払拭できません。
心理的瑕疵の告知の義務のルールも曖昧なので、行政に提案して、自殺ならこう、孤独死ならこうというルールを作っていく必要があると考えています。国としても、高齢者の一人暮らし、孤独死の問題というのは大きな課題ですし、住宅確保困難者の不動産需要の促進という意味からも意義があるのではないでしょうか」
今後、「孤独死」の問題はさらに大きな問題となっていくことは間違いない。一人暮らしの人は、せめて「自分だけはそうなるはずがない」という幻想を払拭し、現実的なリスク回避を考えていた方が賢明だろう。