駆除に頼らず野生生物と共生 ツキノワグマ追い払う「ベアドッグ」に注目

ツキノワグマの被害が新潟県内各地で相次ぐ中、クマを追い払う特別な訓練を受けた犬「ベアドッグ」が注目されている。ツキノワグマは希少動物でもあり、駆除に頼らず人間との住み分けを目指せるためだ。同県妙高市で9月にあった体験学習会で、長野県軽井沢町のNPO法人「ピッキオ」のベアドッグを中心としたクマ対策事業が紹介された。【浅見茂晴】
この体験学習会はいずれもNPO法人の、新潟ワイルドライフリサーチ(新潟県長岡市)、くびき野NPOサポートセンター(同県上越市)が主催。妙高市関山の交流施設「ハートランド妙高」で開かれ、家族連れら約50人が参加した。
この日、ピッキオのクマ対策チームでベアドッグを担当する田中純平さんが、カレリアンベアドッグのタマ(メス、5歳)を連れてきた。ロシアとフィンランドの国境地帯が原産で、ヒグマ猟で活躍してきた大型犬。独立心が強く大きな声でほえたて、クマを森の奥に追い払える。
ピッキオは2004年、アメリカの育成機関からベアドッグを日本で初めて導入した。ベアドッグはクマの臭いに反応するよう訓練されており、移動経路を特定して出没現場付近の安全を確認。臭いや音を察知してクマの存在を知らせてくれ、スタッフの安全を確保する。クマを追い払うだけで襲いかからず、一定の距離を保つことから、クマも犬も傷つかない。
勇敢にクマに立ち向かうとともに、人には優しく接する性格も重要だ。適性テストも経て、ベアドッグとして活躍できるようになるという。

この日は、田中さんとタマが会場周辺を実際にパトロールした。タマは体重27キロと小学生ほどの大きさ。参加した子どもには優しく接するが、田中さんの指示を受けると、瞬時に目つきが変わって仕事モード入りし、軽いランニングの速度でパトロールを始めた。周囲は畑や林が広がる妙高山の裾野。幸いクマの気配は無かったが、他の野生動物がやぶの中にいることを田中さんに知らせていた。
田中さんは、軽井沢町で実施しているクマ対策も解説した。同町は奥山に住むクマと、人の住む市街地の間に広がる混交林に多くの別荘地を抱え、クマに悩まされてきた。ピッキオは1998年、ツキノワグマの保護管理に着手。捕獲したクマ34頭に発信器を装着し、人の居住エリアに近づくとほえ声やゴム弾で威嚇して「人や犬は怖い」と教えて森に放す。やぶの刈り払いや、ごみ箱をクマに開けられないように改良するなどの対策も進めた。住宅地での目撃件数は、最多だった06年の36件から16年には9件まで減少したという。
こうした活動は、クマの保護にもつながる。ツキノワグマは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「危急種」とされている。国内では九州で絶滅し、四国と青森では、環境省のレッドリストで絶滅の恐れのある地域個体群に指定されている。
新潟ワイルドライフリサーチ副会長で妙高市在住の長野康之さんは、ベアドッグの導入を主張する一人だ。市内ではトレイルランなどのアウトドアスポーツ・イベントが盛ん。キャンプも多く駅伝の練習に訪れる大学なども多いことから、ベアドッグが有効なクマ対策になると指摘。クマが有害鳥獣として殺処分されており「生命地域の創造」を掲げる市のイメージダウンにもなりかねない。軽井沢町ではベアドッグの導入が、人とクマの共存を呼びかける親善大使の役割を担っており「妙高市は専門家を育成して、野生生物と共生するまちづくりを進めるべきだ」と話した。