東京都練馬区の自宅で今年6月、当時44歳の同居の長男を刺殺したとして殺人罪に問われた元農林水産事務次官の熊沢英昭被告(76)は12日、東京地裁(中山大行裁判長)で開かれた裁判員裁判の被告人質問で、5月に川崎市で児童らが殺傷された事件に触れ、「(引きこもっていた)息子と犯人の境遇が似ていて、危惧した」と事件を起こした動機の一端を述べた。
熊沢被告は、長男英一郎さんについて、大学や専門学校を卒業後に就職が決まらず、親類が運営する社会福祉法人で働き始めたが、上司と折り合いが悪く退職したと説明。その際、法人側から「英一郎さんが包丁で上司を刺すと話している」と知らされた。実際に英一郎さんがバッグから包丁を取り出すのも見たという。
2008年から無職となった英一郎さんは被告の別邸で暮らしていたが、今年5月25日には実家に戻り、1階の居間でゲームをして暮らした。同28日には川崎市で小学生ら20人が男に殺傷される事件があり、「(包丁の件があり)息子の行動に不安を感じた」と明かした。
被告は事件当日の6月1日午後の状況も説明。拳を握ったポーズをとった英一郎さんから強い口調で「殺すぞ」と言われ、「本気で殺される」と包丁を手に取り、胸や首を刺し続けたとした。もみ合いの末、あおむけに倒れた英一郎さんをさらに3、4回刺したところ、動かなくなったといい、「死んだんだと思った。かわいそうな人生を送らせた。取り返しのつかないことをしたと思っている」と涙を流した。
英一郎さんの暴力や生活状況について、行政や警察に相談しなかったことを検察側に問われると、「全く相談する気はなかった。親子関係が悪化するだけで良いことはない」と述べた。
起訴状によると、被告は6月1日午後3時15分ごろ、自宅で英一郎さんの首などを多数回突き刺し、失血死させたとされる。【田中理知】