視覚障害者の生計を守るため、健常者向けのあん摩マッサージ指圧師養成学校の新設を制限している法律の規定が、憲法が保障する「職業選択の自由」に違反するかどうかが争われた訴訟の判決で、東京地裁(古田孝夫裁判長)は16日、「視覚障害者は今もマッサージ師業に依存しており、規定の必要性は認められる」と合憲判断を示した。その上で、新設を認めなかった国の処分の取り消しを求めた学校法人の請求を棄却した。
法律は、マッサージ師らの養成学校の許認可について定めた「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」(あはき法、1947年制定)。視覚障害者の生計を保護するため、64年に「国は当分の間、健常者向けの養成学校の新設を制限できる」との規定が設けられた。
はり・きゅう師らの養成学校を運営する平成医療学園(大阪市)は健常者向けのマッサージ師養成課程の新設を申請したが、厚生労働省が2016年、この規定に基づき却下したため、学園が処分の取り消しを求めて提訴した。
地裁は判決で、国が社会政策として経済活動を規制する場合、「基本的には国の裁量を尊重せざるを得ない」と指摘。視覚障害者は今もマッサージ師の職に就く割合が高く、規定の正当性は失われていないとした。
さらに、マッサージ師の平均収入は視覚障害者の方が健常者より低く、規定がなくなって健常者のマッサージ師が急増すれば、視覚障害者の業務が圧迫されると認定した。
学園は同種の訴訟を大阪、仙台の両地裁でも起こしており、東京地裁判決を不服として控訴する方針。
厚労省は「制度の適切な運営に努めたい」とのコメントを出した。【巽賢司】
あん摩マッサージ指圧師
治療のために手で患者の体をもむ、押す、たたく、さするなどの行為を仕事として行う国家資格保持者。高校卒業後、医学や栄養学、実技などを国指定の養成施設で3年以上学んだ後に受験資格が得られるが、視覚障害者には中学卒業後に盲学校で養成課程が受けられる特例がある。はり師、きゅう師とは別の資格だが3資格をまとめて取る人が多い。就職先は治療院のほか、介護施設、企業、病院などがある。
「私たちにはマッサージ師の仕事は中核、ほっとした」
訴訟は視覚障害者の高い関心を集めた。判決が言い渡された東京地裁103号法廷は、白杖(はくじょう)を手にした視覚障害者らで埋まり、古田孝夫裁判長が言い渡しを終えると、傍聴席から拍手が湧き起こった。
マッサージ師は、視覚障害者にとって主要な生活の糧となる仕事だ。判決などによると、2006年時点で、視覚障害者の約3割、重度の視覚障害者に限ると約7割が「あはき師」(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)の仕事に従事しているという。
ただ、健康ブームの影響もあり、近年は健常者のマッサージ師が急増。16年時点のマッサージ師は、視覚障害者が1964年から6095人減の2万6653人なのに対し、健常者は6万7338人増の8万9627人となっている。
さらに、あはき師の平均年収は健常者が約636万円で、視覚障害者が290万円(いずれも13年時点)と格差があり、視覚障害者からは、さらなる健常者の参入は死活問題との声が上がっていた。
マッサージ師の資格を持つ全日本視覚障害者協議会の山城完治・代表理事は判決後の記者会見で「移動や読み書きに不自由がある私たちにとって、マッサージ師の仕事は中核。(合憲判断に)ほっとした」と話した。【巽賢司】